第396話 過剰戦力



Side ???


福岡ダンジョンから異世界に行ってすぐ近くに、空白地帯と呼ばれる天使や悪魔が関わっている町が見えてくる。

そしてさらに、南に進むともう一つ町があり、ここも天使や悪魔が関わっている。


この二つの町を中心に、いくつかの村がありそのすべてで全体の生活を維持している。

そんな町の一つに、三か国それぞれが雇った傭兵の機械化部隊が攻め込もうとしていた。



町の城壁の上に、町の外を睨む多数の男女がいる。

全員が、背中の白い翼や黒い蝙蝠の翼を隠さずにさらけ出していた。


「……あれで、隠れて移動しているつもりなのか?」

「私たちには、丸見えよねぇ~」


そういうのは、黒いコウモリの翼をかわいらしくパタパタさせて城壁の上で会話している悪魔の二体だ。

彼女たちの会話から、どうやら林の中を斥候部隊が町に近づいているらしい。


街道を通らずに、姿を隠しながら近づいてくるのだ。

何か仕掛けてくるに違いないだろう。


「ティニス、キュクロ、斥候部隊は何人いる?」

「ん~、六人ってところね。

何? やるの?」

「やるなら、私たちに任せてくれてもいいよ?」


やるなら、つまり殺すならということだろう。

だが、この斥候は通信手段を持っていると思われる。

何故なら、最近は地球からの軍事技術が流れ込んでいるからな。


「……いや、こちらから攻める口実を与える必要はない。

それに、最初の攻撃はミサイルだろう」

「ミサイル?」

「向こうは、そんな物までもっているの?」

「前、攻め込まれたときはロケットバズーカを使っていたからな……」

「「……」」


悪魔のティニスとキュクロが呆れている。

異世界に、地球の武器を提供するなんてね……。


「ステート! 住人の避難が開始されたわよ!」

「南の町が、受け入れてくれたのか?」

「ええ、受け入れ準備をしているそうよ」


ステートと言われた天使は、町の方を向く。


「俺たち天使と悪魔以外は、普通の人間だからな。

蹂躙させるわけにはいかない……」

「ええ、必ず守りましょう」


ステートともう一体の天使は、町を守ることを心に誓う。

それを、ティニスとキュクロの二体の悪魔が呆れた表情で見ていた。


「……さすがねぇ~」

「天使たちは、誰かのために戦うみたいね。

でも私たちは、自分のために! そして、今の生活を守るために!」

「そうね~、私も頑張るわ」


そう言って、城壁の外へ目を向けた。




▽    ▽    ▽




Side ???


町の外にある林の中。

町まで、あと五分ほどの距離にまで近づけた斥候部隊。


「隊長、城壁の上に人がいますね……」

「偵察か?

……どうやら、俺たちが攻め込もうとしていることがバレているようだな」

「でも、町の連中に対抗手段なんてあるんですか?」

「前回攻め込んだとき、城壁に近づくことさえ出来ずに撃退されたそうだ。

今回依頼した三カ国のそれぞれの部隊がな」

「そ、そんな強力な戦力があるんですか?」

「みたいだぞ。

だからこそ、俺たち傭兵を使って消耗させるつもりなんだろう。

で、消耗したところを三カ国の正規部隊で攻め込むつもりなんだろう」

「……よく分かりますね」

「俺たちの部隊が依頼を受けたとき、依頼説明に来た武官が偉そうに喋っていったよ。

お前たちは正規部隊の捨て駒なんだからってな」

「……」


バカな武官だよな~。

自ら本当の作戦を話してしまうとは……。

俺は、通信機を取り出すと本体に通信を送る。


「こちらスネーク、目標の近くに付いた」

『……確認した。状況を教えてくれ』

「城壁の上に十数人の人影を確認。

ここから見えるだけでも、十三人だ。

また、町へ入るための門は閉まっている」

『……了解。中へ侵入はできそうか?』

「……無理だな。

町をぐるりと城壁が囲んでいる。

中への侵入はできそうにない」

『……了解。では第一攻撃で城壁を破壊する。

その後、戦車とゴーレムの部隊で攻め込むからその隙に潜入してくれ』

「了解。潜入まで待機する」


本隊との通信を終わらせ、林の中で待機することになった。

今のうちに、全員の装備を見直しておこう。




▽    ▽    ▽




Side ???


隊長たちがいる一番大きなテントで、通信士が斥候部隊との通信を終える。

そして、隊長であるレンジードは、武器を持ったもう一つの傭兵部隊の隊長のブロットを見る。


「聞いたな?

城壁まで戦車隊と人型ゴーレム隊を進める。

その後、本隊を進めて町を制圧する」

「分かった。

なら、マーキリ副隊長。

あんたんとこの、ミサイルの出番だぜ?」

「分かりました。

隊長に連絡して、すぐに発射体制に移ります」


マーキリ副隊長は、敬礼をしてテントを出ていった。

その後を、ゆっくりとブロットが追いかける。


「サレン、本隊の全員に連絡してくれ。

ミサイルが飛んで行った後、戦車隊とゴーレム隊を動かすと」

「了解!」


作戦は動き出した。

最初のミサイル攻撃で、城壁が破壊できれば攻め込み、破壊できなければ戦車隊とゴーレム隊で破壊する。


町を一つ攻めるには、過剰な戦力と思えるがあの町は正規部隊を撃退した戦力を持っているはずだ。

決して、過剰な戦力ではないはず。


どんな戦力があるのか調べたかったが、国の正規部隊の連中は負けたことを認めていないようだったからな。

運が良かったとか、防御が固かったとか、あまり有用な情報は手に入らなかった。


それでも、依頼を受けてしまったからには攻めるしかない。

いつも通りの攻め方で、今回もいけるはずだ……。







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