第395話 空白地帯へ攻め込む
Side ???
颯太たちが気にしていた空白地帯の町から、かなり離れた場所にある平原に十数台の戦車が並んでいた。
さらに、あちこちにテントが張られて野盗のような男たちが出入りしている。
そのテントの中でも、一番大きなテントに軽装の鎧を着た女が入っていった。
「入るわよ、レンジード。
……あら、ブロットもいたのね」
「相変わらず素っ気ねぇな、ケニィはよぉ」
そう言いながら、ブロットという男はテーブルの上に並べられた弾薬をマガジンに一発一発籠めている。
次の戦闘のための準備だろう。
「それで、ケニィ。何かあったのか?」
「ダンデリィ王国から派遣された、機械化傭兵部隊のロブザート隊が到着したわ。
それと、平原に戦車を並べて偉そうに演説しているわよ」
「……」
「フッ、相変わらずあそこの隊長はバカだよな……」
「それでも何故か、カリスマ性だけはあるんだよな……。
あの隊の連中は、あのバカを尊敬しているからな。
扱いづらいんだよな……」
レンジードは頭を抱えている。
テーブルの側で弾を込めながら、ブロットは笑っていた。
この二人を見て、ケニィはため息を吐く。
今回の作戦は、本国の機械化部隊が何度も攻め込んでいた町を我々傭兵の機械化部隊が攻め込んで占領するという作戦だ。
この町は、本国はもちろん他の国々の部隊が攻め込むが、ことごとくはね返している。
つまり、国々の部隊が敗北しているということだ。
そのため、過去に攻め込んだ国が共闘をして正規部隊ではなく、我々のような傭兵部隊を雇って投入した。
しかも、それぞれの国で名を上げている傭兵部隊に依頼が来たので、我々も依頼を受けてここに集結していた。
しかし、私はどうも今回の依頼はきな臭く感じている。
いや、きな臭いどころか敗北する気がしていた。
そのため、私の所属する傭兵隊の長であるレンジードに何度か話して依頼を断るように進言するも報酬につられたらしい。
何もなければいいのだが……。
「とりあえずケニィ、連中の代表者にここへ来てもらってくれ」
「分かりました」
そう返事をしてテントを出ると、ロブザート隊の副隊長であるマーキリが歩いてきていた。
ちょうどいい、ロブザート隊の副隊長は隊唯一の真面な人だという話だ。
私は敬礼して、マーキリ副隊長に声をかける。
「お疲れ様です!
今、呼びに行こうと出てきた所です!」
「そう、挨拶が遅れてごめんなさい。
他の二つの隊の代表は、テントの中かしら?」
「はい、二人ともお待ちしています」
「ありがとう」
そう言うと、マーキリ副隊長は敬礼してテントに向かった。
……やはり、真面な人のようだ。
私は感心しながら、マーキリを見送ると戦いの準備のために隊のテントに戻った。
▽ ▽ ▽
Side ???
攻め込まれようとしている町の外側にある城壁の上。
そこに、城壁の外を見ながら話をする二人の女性が立っていた。
「見える?」
「……ええ、かなりの数ね。
迎撃の準備は?」
「連絡はしているわ。
でも後、十分ほどかかるわね」
「それまで攻めてこないかしら?」
「……聞き耳を立てているけど、大丈夫みたいよ」
「そう」
女は、そっと胸をなでおろす。
情報が伝わるこの時が一番、この町が無防備な時だ。
「今回は、三つの国がそれぞれの国で有名な傭兵たちに依頼したらしいわね。
それぞれ、かなり高額な報酬につられて依頼を受けたようよ」
「戦力は分かる?」
「ん~……」
じ~っと、城壁の上から外を睨みつける。
視線の向こうに、その傭兵たちがいるかのようだ。
もう一人の女性が、同じように城壁の外を見るも道が続いているだけ。
草原や林は見えるが、大量の傭兵たちは見えない。
「……よく分かるわね」
「これが私の能力だからね~。
……分かったわ。戦車が五十六、人型ゴーレムが二百以上、装甲車とミサイル搭載の走行車両が確認出来たわ。
傭兵たちの数は分からなかったけど、二百人以上はいるわね」
「かなりの数ね……」
「問題は、戦車やミサイルの存在ね。
あの数だと、簡単に城壁を破壊されてしまうわよ」
「先制攻撃が必要かしら……」
そこへ、上空から二体の天使が翼を羽ばたかせながら城壁の上にいる二人の女性の側に降り立った。
「先制攻撃は必要ねぇよ」
「そうですよ、ニュケ、ロンジィ。
ここは、私たち天使に任せてもらいましょうか」
「あなたたちに?
……どんな報酬を要求するつもりかしら?」
降りてきた天使の二体は、顔を見合わせてニヤリと笑う。
そして、城壁の上で警戒していた二人の女性の方を見る。
「報酬なんていらねぇよ。
ここは、俺たち天使が住む町でもあるんだ。
自分たちの住む町を守るのは、当然のことだろうが」
「そうです。
僕たちは、報酬で動くような天使ではありませんよ」
「……いいわ、今は信じてあげましょう」
「ニュケ、私は隣町に知らせて来るわ」
「分かった。
私は、防衛のために動くわ」
「よろしくね」
そう言うと、ニュケという女性は、背中に蝙蝠のような羽を出して飛び立っていった。
隣町に知らせて、戦闘に備えるように警告するのだろう。
私は、後から来た天使二人を見る。
「それじゃあ、ここは任せるわ。
後で援軍が来ると思うから、城壁の上に待機させておいて」
「了解」
私も、ニュケと同じように蝙蝠のような翼を出すと、城壁の上から町に向かって飛び出した。
危険を知らせて、町にいる人間だけでも避難させないと……。
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