第393話 二年後の春



Side 五十嵐颯太


大学三年の春。

俺をはじめ、友人たちは無事に進学できた。

世界中にダンジョンが出現して、さらに俺が知っている別の異世界への道がダンジョン内に出現して約二年の歳月が過ぎた。


それぞれの国で、ダンジョンから行ける異世界の国々と付き合っている。

地球のダンジョンで得られる資源や素材は、地球では利用価値があまりないが異世界では価値あるものとして取引される。


それを利用して貿易をしたりして、どちら側も利益を得ていた。

一年前までは……。



コアルームで、ミアの報告を聞いていて俺は肩を落とした。


「……はぁ。また、町が滅んだか……」

「あの国と取引のあった、異世界の王国の町でした。

あそこは去年滅んだ帝国との国境に、一番近い町でしたので狙われたのだと思います」

「あの元帝国の貴族連中は、本当に脳筋が多いな……」


二年前、帝国の砦に燃料棒が持ち込まれて全滅した事件があった。

一応、砦やその周辺に充満していた放射能は魔法により浄化した。

また、砦内部も浄化し元凶である燃料棒も消滅した。


これにより、砦は危険な場所ではなくなったはずだったが、帝国内がヤバかった。

帝国の貴族の一人が、地球側の武器商人と取引をして核弾頭を手に入れてしまったのだ。


それで、帝国内の権力抗争に名乗りを上げ暴走。

自身の力を見せつけるために、帝都近くで核を爆発させて周辺に多大なる影響を与えてしまった。

そのため、その貴族は危険視され内戦へと突入してしまう。


また、帝国の貴族の一部は、地球の商人と個人的に取引があり武器を調達、その武器を使って貴族同士で戦いが始まると、帝国内は酷い内戦状態となった。


皇帝は貴族たちの暴走を止めることもできずに暗殺され、他の皇族たちは暗殺を恐れて帝国を逃げ出した。

が、一部の皇族は恨まれていた貴族たちに捕まり、断頭台の露と消えた。


そして、帝国に皇族がいなくなってすぐに、何回目かの核爆発が帝都で起こり帝国は滅亡した。

貴族たちは、それぞれで建国を宣言し、今も戦争を続けていた。


「二年たった今でも、戦争を続けていますからね……」

「国民たちは、国を捨てて逃げ出しているんだろ?

日本にも、難民として逃げてきているらしいし……」

「何せ、武器の実験にはもってこいの戦争ですからね……」


そう、すでに元帝国貴族による戦争は、地球にある各国の武器実験場となっていた。

向こうは、魔法が存在するファンタジーの世界だ。

兵士は、人型ゴーレムが代わりになるためもはやゲームだよ。


時折、核爆発で戦場が吹き飛ぶが、次の戦いでは人型ゴーレムと地球の武器であふれる戦場となる。

そこに、生身の人間が出てくること自体が珍しくなっていた。


「ダンジョンで資源を調達し、精製、そして武器を作る。

それを、異世界の元帝国貴族に売りつけ戦いに使ってもらう。

金の続く貴族が、最後まで残っているんだろうな……」

「そうとも限りませんよ、マスター。

去年の暮れに、元帝国貴族の侯爵が倒されたではないですか」

「ああ~、そう言えばそうだったな。

……でもあれって、不良品の武器の暴発での自滅だっただろ?

次期国王とか言う、元侯爵の子供が商人に騙されたとか騒いでいただろ……」


まあそれで、部下の一部が離反して降伏。

その後、戦っていた相手に国は吸収され、その次期国王は断頭台で処刑されたが。


「向こうの争いは、周りに影響を及ぼし、世界大戦化し始めているしな……。

日本も、付き合いのある異世界の国とどうするのか議会でも問題になっているらしいぞ?」

「マスターの、お父様からの情報ですか?」

「ああ、北海道ダンジョンパークに、避難してくるかもしれないって言っていたよ……」


去年、元帝国での戦争で逃げてきた避難民を日本で受け入れるにあたって、異世界との道がある北海道ダンジョンの近くにダンジョンパークを造れないかと、ダンジョン企画を通して打診があったんだよな。


で、避難民のためにミアたちと話し合って北海道ダンジョンパークを開園。

そして、避難民を受け入れた。

まあ、ダンジョンパーク内は言語が統一されるからな。


話をするのも、いろいろとケアするにも都合が良かったのだろう。

それに、ダンジョンパーク内はかなりの広さがある。

町の一つや十個、作るのに問題はないし……。


「それにしても皮肉ですね……」

「ん? どうかした? ミア」

「いえ、異世界側で戦争が始まってから、地球側で戦争が無くなりましたので……」

「……そういえば、ニュースでも聞かなくなったな……」


今も、睨み合いはあるのだろうが直接戦っているとかいうのは聞かない。

もしかして、地球にいる武器商人たちが異世界で商売をしているからだろうか?


……まさかな。




▽    ▽    ▽




Side ???


ファンタジーダンジョンパークにある最初の町。

そこに、三人の異世界人が訪れていた。


「……ここが、この世界のダンジョン……」

「ミリフ、気づいているか?」

「ん? 何、ソホン?」

「いや、気づいているかって聞いたんだ」


ミリフと言われる女性と、その隣にいるソホンという男。

この二人は、例の原子力発電所から燃料棒を盗んだ三人のうちの二人だ。

そして、一人の女性が近づいてくる。


「どうした?」

「いや、ミリフが気づいてないみたいでな」

「カナフ、ソホンは何を言っているの?」

「ミリフ、周りの人の言葉が分かることに気づいているかって、ソホン入っているのよ?」

「……そういえば、翻訳魔道具を使ってないのに言葉が分かる……」


かなり重い被ばく症状に悩まされていた三人だったが、魔法医療という新しいジャンルの治療法で半年で完治。

その後、燃料棒の窃盗などで逮捕され、今年の初めまで罪を償っていた。


そして今、監視ありではあるがこうして自由に行動できるようになっていた。


「そういえば、両替は済ませた?」

「あ、まだだ!」

「ミリフ、町に入ったらすぐに両替するように言われていただろう……」

「ど、どこでできるんだっけ?」

「門のすぐ側にあるはずよ……。

あ、あそこじゃないかしら?」


カナフは、門のすぐそばに人が並んでいる場所を指差し、ミリフに教えた。

ミリフは、そこを確認して走って行った。


「そんなに急いで行ったら、転ぶぞ……」


ため息を吐きながら、ソホンはミリフの後を追う。

そんな光景を見て、カナフはクスリと笑ってしまう。


「フフフ……」


カナフも、二人の後を追っていった。

その様子を、離れたところから一人の男が監視していた。


「……はしゃぎ過ぎ、っと」


スマホにそう打ち込んで、監視を続けた……。







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