第392話 中東で
Side ???
世界的に有名な遺跡がある中東の国のある都市にあるビルの最上階から、女性が遺跡を睨んでいる。
ビルの最上階は、その遺跡よりも高い位置にあるため見下ろすように睨んでいた。
「セシリナ? どうしたんだ?」
「あれよ、兄様。
この砂漠の国で、人々を豊かにしている元凶よ……」
「元凶って……。
人々が豊かになり幸せに暮らせているなら、良いことじゃないのか?」
困った表情で、妹を宥める兄。
だが、妹の不機嫌は全く収まる気配がない。
「良いこと~? お兄様!」
「はい!」
「先週、日本が発表した世界に対する警告文。
お忘れではありませんよね?」
「も、もちろん! 我が国にも関係あることだからね……」
「我が国だけではありません!
我が国と同じ核保有国はもちろん、原子力発電所、核施設を持つ国すべてで、あの遺跡のようなダンジョン内部で異世界と繋がっていますのよ!!
そのために、核施設などの警備レベルが二段も上がりました!
二段です! この意味がお分かりですよね?」
「軍による、警戒態勢だよね?」
「あの! 異世界と繋がったダンジョンがあるせいで、大統領であるお父様は!!」
遺跡を指差し、ますますヒートアップして怒る妹を、兄は宥め続ける。
他国のダンジョンとの付き合い方を視察しにきたのに、こうも憎しみを持たれては国際問題になってしまう。
俺たちの国にも、他の国と同じようにダンジョンが出現し異世界との道が繋がった。
世界中で、異世界との貿易で国が潤っていたため、我が国も異世界との貿易をしようと議会で決まったことを大統領であった父が大統領の権限を使って止めたのだ。
異世界との貿易は、急ぐべきではないとな。
だがそのうちに、隣国が異世界貿易を初めてすぐに利益を得て国が潤い始めたのだ。
これを目の当たりにした議会に、父は糾弾された。
議会だけではない、国民からも糾弾され大統領を降ろされてしまう。
その後、次の大統領が就任し異世界との貿易を開始。
するとすぐに国は潤い始めたが、先週、国連の場でのあの日本の警告だ。
異世界が核施設を狙っているかもしれない、と。
異世界は魔法の世界、核の知識がなく地球最強と言えるものに興味があったのかもしれない、と。
核施設や核兵器を保有している国は、警戒をした方がいいと……。
「だが日本のあの警告で、今では父さんの判断は正しかったのでないかと見直されているだろう?」
「でも! でも……」
「我が国は、隣国との仲が悪いせいで核兵器を保有している。
それに、隣国が裕福になるのが気に入らない国民は多い。
だからこそ、あの当時は父さんが間違っていると判断されてしまったんだ」
「……」
「セシリナ、父さんは間違ってなかったんだ。
そうだろう?」
「はい……」
「なら、今はそれでいいんだよ」
「……」
「父さんは、恨んじゃいないんだから、ね。
家族の俺たちが、恨んでもどうしようもないだろ?」
「……はい」
後ろから、妹を抱きしめながら兄は静かに宥める。
俺自身、政府や国民の手のひら返しにはムカついているが、大統領だった父は恨んでなかった。
それどころか、今後のことを考えているようだ。
もう一度大統領に、は無理だから、一政治家として動くつもりなのかもな……。
▽ ▽ ▽
Side ???
中東アジアのある国に、異世界への道が発見されたダンジョンがある。
その異世界へ行った先の町のスラム街で、地球の商人と貴族の男が商談をしていた。
『……大丈夫、なんだろうな?』
「もちろんだ。
品質に関しては、自信を持っているよ」
『……いいだろう。
おい! 契約書を持ってこい。それと、金塊もだ!』
『はい!』
部屋の隅に控えていた執事は、貴族の男の命令に一礼して部屋を出ていく。
そして、すぐに台車を押して部屋に入ってきた。
『旦那様、こちらが契約者でございます。
それと、提示されていた金塊はこちらに……』
『うむ。
では、契約書にサインを』
「分かりました」
商人の前のテーブルの上に置かれた契約書に、自身のペンで署名する。
商人が署名し終わると、貴族の男が契約書を自身に向けて置き、商人と同じペンで署名した。
すると契約書は光り、二枚に分かれた。
そして、そのままお互いの前に移動した。
「おお、何度見てもすごいな……」
『これで、契約は終了だ。
この金塊は、支払い分になる』
「では、庭にコンテナを出しましょう。
ロジィ、この屋敷の庭にコンテナを取り出しなさい」
「了解しました!」
商人は立ち上がり、貴族の男も同じタイミングで立ち上がる。
そして、お互いに握手を交わして移動する。
貴族の屋敷の庭に移動すると、そこには何人もの兵士が待機している。
また兵士と同じように、ツナギを着た整備員のような男たちも整列していた。
「ロジィ」
「はい!」
ロジィと呼ばれた男は、腰の袋に手を突っ込むと大きなコンテナを取り出して見せる。
何もなかった場所に、いきなり大きな青いコンテナが一つ出現した。
「では、中をご確認ください」
『……バスタ! これが鍵だ。扉を開けて、中を確認しろ!』
『ハッ!』
騎士のような鎧を着たバスタと呼ばれた男が、貴族の男から鍵を受け取り、コンテナの扉の前に移動する。
そして、扉に掛けられている鍵を外して扉を開けた。
大きな金属音とともに、扉が開かれ中身が姿を現した。
そこにあったのは……。
『……これが、核弾頭というものか』
「はい」
『案外、小さいものだな……』
「使い方は、大丈夫ですか?」
『心配いらない。
核の知識は、そちらが用意した資料で勉強済みだ』
ついに、核弾頭が異世界へ持ち込まれた瞬間だった。
ここからこの世界がどうなっていくのか、それは誰も分からない。
だが、地球の核の抑止力が異世界にも通用するのか……。
通用しない場合は……。
地球が変わり始めたように、異世界も変わり始める……。
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