第391話 大学からいなくなった人のこと



Side ???


北の大国の首都にある大学で、学生の一人が講義を終えた教授のもとに来た。


「教授、聞きたいことがあるのですが……」

「質問かな?

先ほどの講義で、分からないことは……」

「いえ、そうではなく……」

「違う? では、何を聞きたいのかな?」

「ドミトリー助教授です。

ここ最近、姿を見ていないので教授ならご存じかと……」

「ドミトリー君?

……そういえば、ここ最近会ってなかったな」

「教授……」


男子学生は、呆れた目で教壇の教授を見る。

教授も学生の呆れた感じで分かったのか、少し焦りながら言い訳をした。


「いやいや、ドミトリー君は研究熱心でな。

一つのことに、没頭する癖があるのだ。

この間も研究の資料を調べるのに没頭したせいで、一週間私のもとに現れなかったほどだ」


うんうんと頷いて、ドミトリー助教授の姿が見えないことが珍しくないと言い訳をする。

だが、それでは困るんですと学生は教授に言う。


「今度の論文は、ドミトリー助教授のチェックがないと提出できないですよ。

提出するようになっている教授からも、ドミトリー助教授のチェックを受けてから出すように言われていますし……」

「それは、シューラ君か?」

「はい、アレクサンドル教授です。

愛称をご存じとは、元教え子だったんですか?」

「まあな。

……分かった、シューラ君には私からドミトリー君が見つからなくて私がチェックしたと言っておこう」

「! ありがとうございます、教授!」

「では、君の論文を見せてもらおうかな……」

「あ、まだ完成してないんですが……」

「それでは、チェックのしようがないじゃないか……」

「すみません……」


今度は、教授が呆れる番だった。

学生は、しきりに頭を下げて謝った後、論文を完成させると教室を急いで出ていった。


「……それにしても、ドミトリー君はどこに行ったのかな?」


教室の窓の外を見ながら、教授は心配した。




▽    ▽    ▽




Side ???


「はぁ~、失敗した……」


大学の廊下を歩きながら、男子学生はため息を吐く。

論文のことで、ドミトリー助教授を昨日から探していたが見つからず、教授の講義を受けた後聞いてみたが、教授も知らないという。


教授に探している理由を言えば、教授がチェック作業をしてくれるという。

ある意味助かったのだが、論文を完成させていなければ意味がない。


「よう! ドロヴィッチ。

何か暗い顔しているけど、何があったんだ?」

「ヴィクトルか。

いや、ドミトリー助教授を探していたんだけどな……」

「ドミトリー助教授?

ドミトリー助教授なら、今頃ダンジョンじゃなかったか?」

「ダンジョン?」

「ああ、東の端に核が落ちた場所があるだろ?」

「確か、祖国が落としたんじゃないかって騒がれた?」

「そうそう。

その近くの町の近くに、ダンジョンが現れたんだよ。

ドミトリー助教授って、ダンジョンに関する研究を進めていただろ?」


そう言えば、論文の件で話をしに行ったとき何か研究をしていたな……。

珍しく、いろんな国の言葉で書かれた本が積み重なっていたから、いろいろと調べていたんだろう。


「そういえば、いろんな国の本が机の上にあったな……」

「それ、各国のダンジョンに関する本だろうな。

で、本物のダンジョンを調べに行ったんじゃないか?」

「ん~、でもダンジョンって危険じゃなかったか?」

「ドミトリー助教授なら、大丈夫じゃない?」

「マリーヤ」


廊下で声をかけてきた友人の、ヴィクトルと話をしながら歩いていると、別の教室から出てきたマリーヤが声をかけてきた。

このマリーヤは、ヴィクトルの彼女で付き合っている。


羨ましい!

俺も、こんな美人の彼女がほしい!

せっかく大学に通っているというのに、女性に声をかけられることがない。


「ヴィク。今日の約束、忘れてないわよね?」

「もちろん。

今夜だろ? 今から楽しみでしょうがないよ」


……何やら意味深な約束みたいだが、今はそっちじゃない。


「マリーヤ、さっきのドミトリー助教授なら大丈夫って、どういうことだ?」

「? そのままの意味よ。

ドミトリー助教授って、元軍人なのよ。

確か、民間軍事会社にも所属していたことがあるっていわれているわね」

「ほぇ~、そんな経歴が……」

「だから、ダンジョンだって心配ないわよ」


マリーヤは、ヴィクトルの右腕に自分の腕を絡めながら教えてくれた。

クッ、羨ましい!!

俺も、彼女ほしい!


俺は、敗北感に苛まれながら窓の外に視線を移した。

ああ、俺は何で彼女ができないのか……。


「甘いわね」

「ニーナ? 何が甘いのよ……」


そこへ教室から出てきた、マリーヤの友人が声をかけてきた。

どうやら、俺たちの会話を聞いていたらしい。


なぜ?


「話に出てたドミトリー助教授、もう死んでいるかもしれないわ」

「な、何を言ってんだ?!

ドミトリー助教授が、もう死んでいるかもしれないって……」

「これ、三日前の新聞よ。

その、中面を見なさい」

「中面?」


俺たちは、ニーナから新聞を受け取るとページを捲る。

すると、そこには大きく『ダンジョン封鎖令!』と出ている。


「ダンジョン封鎖?!」

「それは、四日前に政府が発表したことよ。

で、次の日の新聞に詳しく載っていたわ」

「……でも、これが」

「分からない?

ダンジョンは、四日前に封鎖されているのよ?

おそらくそれ以前に、軍がダンジョンに入っているはず。

なのに……」

「ドミトリー助教授は見つかっていない……」

「で、でも、ダンジョンの奥にいたら……」

「今の軍人が入って探せないと思うの?

元軍人を。

それも、特殊部隊出身でもない人を……」

「「「……」」」


ニーナは、悲しそうな表情をしている。

そして俺たちは、何も言い返せなかった。


ドミトリー助教授……。


「……ニーナは、ドミトリー助教授のこと……」

「別に、知り合いでも何でもないわよ?」

「「「……」」」


はい?





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