第390話 一応の決着?
Side 五十嵐颯太
水槽のある部屋に入ると、黒い人の形をした物があちこちに転がっている。
一番転がっているのが、水槽の周りだ。
『ミア、ガイガーカウンターはどうだ?』
『反応はしていますが、振り切れるほどではありません。
ただ、基準値は軽く超えていますね……』
『セーラ、放射線浄化シールドを二重に掛けてくれるか?』
『分かりました』
セーラの人型ゴーレムはすぐに、背負っていた杖を構えると、取っ手の一番下にあるスイッチを押す。
すると、杖が光り俺たちの操る人型ゴーレムが光る。
これで、放射線浄化シールドが二重に掛かっている状態のはずだ。
『ミア、ガイガーカウンターはどうなった?』
『……正常値になりました。
放射線浄化シールドが、効果を発揮しているようです』
『それじゃあ、この部屋を調べようか。
砦の全滅や、さっきの水槽の中身が何なのか分かるかもしれないからな』
『『了解』』
俺たちはそれぞれで別れて、部屋の中をくまなく捜索する。
それにより、この部屋で何がおこなわれていたかが分かった。
それに、部屋のあちこちに転がっている黒い人型のことも……。
『マスター、まずは転がっている人型の物ですが……』
『ああ、言わなくても分かっている。
この研究所で、研究をしていた連中の死体だろ?』
『はい、すべての細胞がガン化していたため黒い人型となっていました』
『……なるほど。
髪の毛がすべて抜けていたために、人形のように見えてしまっていたんですね……』
セーラはミアの説明を聞いて、黒い人型に手を合わせて祈った。
しかし、そうなるとどれくらいの放射線量だったのか気になるが……。
『マスター、向こうの隅にある木箱の中に細い金属製の筒を見つけました。
これってもしかして……』
『ああ、例の説明にあった燃料ペレットを入れておく被覆管というやつだろう。
ここの奴らはそれを細かく切って、中から燃料ペレットを抜き取り水槽の中に入れていた。
だからあの水槽の中にあった黒い塊は、燃料ペレットを一つに固めたものだったんだな……』
何かの実験のためか、燃料ペレットを使って何をしようとしていたのか……。
今となっては分からないが、とんでもない実験だったようだな。
まさに、命を賭けた実験だったようだ。
『でも、かなり気分が悪くなったり体の不調があったりしたはずですが……』
『ああ、それなら向こうでポーションの入れ物が大量に入った木箱を見つけたよ。
気分や体調が悪くなったらポーションを飲んで治していたんだろう。
まあ、この惨状を見るかぎり無意味だったようだが……』
高濃度の放射線を浴び続け、ポーションで治しながら実験を繰り返す。
いや、治した気になって、か。
『ところで、水槽にあった黒い塊が消えた件についてですが……』
『それなら、たぶんセーラが使った放射能汚染浄化魔法の影響だろう』
『……浄化された?』
『ああ、黒い塊は浄化され消滅したということだろうな。
放射線を発し続ける物体は、呪いの類と考えられて浄化された。
たぶんそんな感じなのだろう……』
『……この世界ならでは、というわけですか』
詳しくは分からないが、その世界その世界でルールみたいなものがあるからな。
この世界のルールに照らし合わせて、処理されたということだろう。
『とにかく、元凶はなくなったんだ。
後は周りを浄化して、転がっている死体を弔ってやろう。
きちんと火葬しないと、アンデットとしてよみがえりそうだから気をつけないといけないが……』
『『了解』』
とにかくこれで、燃料棒消失事件は一応解決した。
最後は、納得のいく最後ではなかったがこのことを報告して終わりだ。
後は、ダンジョン企画から総理に説明され世間に説明ということになるだろう。
だが、あの部屋にいた地球人の死体が誰なのかは分からない。
どこかの軍人なのだろうが……。
『あ、地球人の死体の謎が残ったままだ』
『そう言えば、地球人の死体がありましたね……』
この研究室以外の、地下二階の探索は終わっていない。
地下一階の探索も同じだ。
俺たちは再び、探索を再開させる。
▽ ▽ ▽
Side 五十嵐颯太
空間隔離された研究室を出ると、奥に行く廊下が続いている。
まだ、何かあるのだろうか?
とりあえず、研究員たちの死体をそのままに廊下を奥へ歩いていく。
そして廊下の突き当りに扉があるだけで、他に扉は見つけられなかった。
『……ここまで、扉はなかったな』
『はい、倉庫に繋がるような扉もありませんでした』
ミアと、ここまで来た廊下の様子を確認し合う。
そして突き当りの扉を、俺たちが操る三体の人型ゴーレムが見る。
『開けてみましょう』
『そうだな……』
俺の操る人型ゴーレムが、ドアのノブを掴んで回し扉を押した。
そして、扉が開くと部屋の中が見える……。
『……空き部屋、か?』
部屋の中に入って、周りを確認すると部屋の隅に空間の歪みを見つける。
目で見えるほどの歪みで、まるでダンジョンへの入り口だな。
『マスター、これって……』
『ああ、異世界への道だ。
どうやら、あの死んでいた地球人の謎が解けたな……』
あの地球人は、どこかの国にあるダンジョンの異世界への道に入ってここにたどり着いた。
そして研究所の誰か、もしくは砦の兵士に捕まり持っている地球の情報をここの連中に知られてしまった、というわけか。
それで、核の情報の知られたということか……。
だが、ここに来た地球人は放射能などの情報に乏しく、こんな事態を招いてしまったということだろう。
ここの研究所の連中は、情報収集を怠り研究をしてしまったということか。
『でも、どこに繋がっているのでしょうか?』
『死んでいた地球人は、北の大国か北欧の人間だったんだろう?』
『はい、アジア系ではありませんでした』
『なら、ダンジョンのことを秘匿している北の方の国と言えば……』
『北の大国、ですか……』
『おそらくな。
まだダンジョンを発見していないのか、発表していないだけなのか分からないが、ここに他の連中が来ていないとなると……』
『あの死んだ者しか知らなかった……』
『その可能性はあるが、本当のところは分からない。
が、このことはダンジョン企画を通して発表されるだろう。
原子力発電所から、燃料棒が盗み出された事件だからな……』
その後、世界にどんな衝撃を与えるか分からないが、世界中の原子力発電所や核施設の警備が更に厳しくなるだろうな……。
今後、盗まれることの無いように……。
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