第389話 見つけた部屋に



Side 五十嵐颯太


帝国の砦の地下二階を捜索していると、大きな倉庫と思われる場所にたどり着いた。

横にスライドする大きな金属製の扉を、ゆっくり開けると大きな音が辺りに響く。


『クッ、重いな……』

『マスター、人型ゴーレムのステータスと同調していませんね?

私たちのステータスのままだと、人型ゴーレムの本来の力を発揮できませんよ?』

『……同調? ……どうするんだっけ?』

『頭で、切り替えるだけです。

スイッチを切り替えるように考えれば、いいはずですよ』

『切り替える……。

これでいいのかな?』


頭で、スイッチを切り替えるように俺のステータスと人型ゴーレムのステータスを切り替えるイメージをする。

すると、今まで重かった金属の扉が軽くなった。


『おお! 扉が軽くなった?!』

『上手くステータスを切り替えられましたね』


金属の扉をスライドさせて、中を確認する。

すると、ミアの人型ゴーレムの腰に付けていたガイガーカウンターから警告音が響いた。


『?! 放射線反応か!』

『セーラ、お願いします』

『了解です!』


セーラの人型ゴーレムは、すぐに背負っていた杖を構えて手元のスイッチを押す。

すると杖が光り、倉庫内が一瞬だけ光ってすぐにガイガーカウンターの警告音が鳴りやんだ……。


『マスター、放射線量が正常値になりました』

『中に入ろう』


放射能汚染浄化魔法を発動して、倉庫内の放射能を浄化する。

だが、ここに燃料棒があれば再びガイガーカウンターが鳴るはずなんだが……。


広い倉庫内を見渡すも、どこにも燃料棒らしきものはなかった。


『ここが、燃料棒が運び込まれた倉庫みたいだけど、燃料棒は無いみたいだね……』

『はい、何も無いようです』

『倉庫と言えば、何か物があってもおかしくないんですが……』

『……何にもない、ただの広い空間だな』


本当に何もなかったため、どこかに運ばれたのだろうと予想した。

しかし、どこに運ばれていったのか……。


『マスター、これを見てください』

『何か見つけた?』


セーラの人型ゴーレムがしゃがみ込んで、何かを指さしている。

親指の先ほどの黒い塊だが、それに近づくとガイガーカウンターが反応した。

先ほどのような大音量ではないが、警告音を発している。


『警告音が鳴るということは、放射性物質か?』

『どうでしょうか……』


ミアの人型ゴーレムが、ガイガーカウンターをもって近づくとだんだん警告音が大きくなっていく。

どうやら、放射性物質で間違いないようだ。


『放射性物質ということは、燃料棒から落ちた物ってことかな?』

『おそらくは。

でも、こんな物が落ちているということはバラシたのでしょうか?』

『マスター、ミア、アレを……』


セーラの人型ゴーレムは、点々と落ちている黒いものを指した。

金属製のスライド扉から入って、奥に進んで左の方向に黒いものが点々と落ちている。

これは、左の方向へ運んだということだろう。


『点々と落ちているということは、バラシて運んだんだろう。

この先に……』

『追いかけましょう!』

『ああ』


俺たちは、人型ゴーレムで点々と続いていく黒い物体の行く先を追っていった。

すると、その先に扉に挟まった人を発見する。


『……何だ、コレ』

『おそらく、扉を閉めようとして倒れて挟まったのではないかと……』

『……扉を開けよう』

『『はい』』


挟まっていた人をそのままに、扉に手をかけ横へスライドさせる。

こちら側に取っ手のような掴む所が無かったので、人が挟まっているのはある意味運が良かった、のかな。


ゆっくりと、扉をスライドさせて開けると薄暗い部屋が確認できた。

この部屋にも、人が何人も倒れているのが見える。

それと、大きな光る水槽も確認できた。


『ここは何の部屋だ?』

『……分かりませんが、あの水槽を見てください』

『ん?』


ミアにそう言われて、大きな光る水槽を見ると黒い大きな塊が中に入っているのが確認できた。

それも、水の中に入っているようだが……。


『マスター、待ってください!』

『ど、どうしたんだ? セーラ』

『ミア様、ガイガーカウンターを部屋の中に……』


セーラに言われて、人型ゴーレムの腰に付けていたガイガーカウンターを取り、部屋の中へそっと入れてみる。

すると、部屋の境界を越えてすぐにガイガーカウンターの表示が振り切れエラーと表示される。


さらに、警告音はずっと鳴りっぱなしだ。


『……これって、どういうことだ?』

『マスター、おそらくこの部屋だけが、空間隔離されていると思われます』

『空間隔離?』

『空間魔法によって、この部屋だけが座標を少しずらして別の空間座標になっているのではないかと……』

『……つまり、アイテムボックスの中みたいなものか?』

『はい』


とんでもない魔法のように思えるが、この部屋だけアイテムボックス内にあると考えれば分かりやすいか?

そして、別空間としていることで部屋の中から発せられる放射線の影響を受けていないということか……。


だがそれだと部屋に入った瞬間、ガイガーカウンターを壊した放射線を浴びることになる……。

そんなことになれば、この人型ゴーレムはすぐに影響を受けて動けなくなるか……。


『セーラ、放射能汚染浄化魔法で何とかなるか?』

『やってみます……』


セーラの人型ゴーレムは、杖を構えて手元のスイッチを押す。

すると杖が光り、部屋の中から眩いほどの光が一瞬あらわれる。


俺たちは、あまりの眩しい光りに顔を逸らして、すぐに部屋を見る。

すると、水槽の中にあった黒い物体が跡形もなく消えた……。







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