第388話 捕らえられていた者
Side 五十嵐颯太
帝国の全滅した砦の中を、俺たちが操る人型ゴーレムで進んで行く。
人型ゴーレムで見たものも共有しているので、砦内部の様子は気が滅入る光景だった。
そして、ようやく砦の地下に研究所を見つけ、運び込まれた燃料棒を探す。
『おっと。
……あれ? この死体の服装は、他の死体と違うな……』
『……確かに、服の感じが違いますね』
『マスター、ミア様。
この服は、王国の服装ですよ』
『え? 王国の?』
『はい。
……ここ、見てください。
こっちにいる女性の服装と、この男性の服装はここの製法が違います。
おそらく、この男性は王国から来た方じゃないですかね?』
ん~、確かに服装が違うようだけど、王国の服を取り寄せてきているともいえる。
けど、服の製法は帝国の方が上等な感じだから、製法が劣る服をわざわざ着る人はいないだろう。
となると、この男は王国から来たことになる。
それに、王国から亡命して帝国に来たのならこんな砦にいるはずないし、研究所で何か手伝っているにしても服装が今も、王国の物というのもおかしい。
『……もしかして、王国に潜入していたスパイ?』
『ん~、分かりませんね……』
『この部屋も、偉い人の部屋というわけでもないようですし……』
この部屋には、五人の人が倒れて死んでいた。
服装などを調べた結果、四人が帝国製でこの一人が王国制の服だった。
それに、五人とも権力ある人には見えないんだよね。
何というか、研究者とも違う感じだ。
いったい、この研究所でどんなことをしていたのか、今となっては分からない。
俺たちはこの部屋を後にして、別の部屋の探索をする。
こんなところで、こだわっていては目的を見失ってしまいそうだ……。
研究所の廊下を進み、扉があれば開けて部屋の中を確認する。
何か気になることがあれば、部屋の中に入り捜索する。
これを繰り返しながら、研究所を見て回っていた。
そして、いくつ目か分からない扉を開けて中を見ると、地下への階段が存在している。
どうやら、この研究所には地下二階があったようだ。
『地下への階段です』
『ん~、燃料棒は倉庫に運び込まれた。
これは間違いないよね?』
『はい、エレノアからそう聞いています』
『てことは、倉庫は地下二階にあるのかもしれないな……』
『……行ってみますか?』
地下一階の研究所には、まだ捜索していない扉があった。
だけど倉庫のような場所は、さらに地下にあるような気がする。
ここは、行ってみるか。
『行ってみよう。
倉庫のような広い場所は、地下一階にはない気がするし……』
『分かりました』
『了解です』
俺たちの操る人型ゴーレムは、扉に入り地下二階への階段を下りていく。
途中、ミアにガイガーカウンターを見てもらうが問題はなかった。
どうやらまだ、放射線浄化シールドは機能しているようだ……。
▽ ▽ ▽
Side 五十嵐颯太
帝国の砦の地下二階へと、足を踏み入れた。
放射線浄化シールドのおかげで、ガイガーカウンターは鳴らずにすんでいるがこの階は悪臭があるようだ。
階段を下りてきてすぐに、悪臭が鼻をつく。
そのため、すぐに人型ゴーレムとの間隔共有の嗅覚を切った。
『な、何だ、この臭いは……』
『これはおそらく、腐敗臭ですね……』
『食料、ではないようだな……』
悪臭が鼻についたためにすぐに感覚を切ったが、おそらく動物の腐敗臭だろう。
ということは、実験の動物か、もしくは……。
いやな予感が頭をよぎるが、俺たちは確認するために地下二階の廊下を進んで行く。
地下一階の床とは違い、地下二階の床は石でできているようだ。
いや、むき出しの地面を魔法で固めただけとも言えるか?
三体の人型ゴーレムを進めて行って、倒れている人を発見する。
扉が開け放たれた部屋の前に、鎧を着た兵士三人が倒れている。
側によって確かめるが、三人とも死んでいる。
そして、開け放たれた部屋の中へ入ると、虫の死骸が辺りに散らばっている。
コバエのような虫や蠅のような虫、蛆虫のようなやつまでいるがすべて死んでいた。
そして、その死骸が一番集まっている場所にあったのが人の腐敗した死体だった。
『うっ!!』
『……マスター、この死体は地球人のようです』
『地球人?』
『はい。
骨格などの感じから、北の大国かヨーロッパの北あたりの人間ではないかと思われます』
『……死後八日といったところですね』
俺は死体のひどい状態に引いてしまったが、ミアとセーラは死体に近づいていろいろ調べたようだ。
それで、死後八日の北の大国かヨーロッパの地球人ではないかと結論付けた。
『……攫われてきた人かな?』
『……着ていたと思われる服装から、軍人ではないかと思われます。
もしかすると、どこかのダンジョンからこちらの世界に来て帝国に捕まったとかではないでしょうか』
『なるほど……。
とすると、核の知識はこの軍人からの可能性が高いな……』
『では、帝国と取引をしている地球人が北の大国かヨーロッパ北方のどこかに?』
『分からないが、もしかすると、な』
これは回収作業が終わったら、調べてみないといけないな。
とりあえず、死体はこのままで捜索を続けるか。
『とにかく今は、他を捜索するぞ』
『この死体は、そのままにしておくのですか?』
『周りの虫たちが死んでいるだろう?』
『はい』
『この虫たちは、死体に取りついていた虫だ。
だが、今は死んでいる』
『……なるほど、腐敗が進み虫が湧いた後で死んでしまったと』
『そうだ。
そうなると、この地球人が死んで虫が湧くまでは何もなかったということ。
その後、何かが起こって砦が全滅したということだ』
『……いったい何が……』
『その原因が、どこかにあるはずだ。
が、今は燃料棒の回収を優先させよう』
『『分かりました』』
俺たちの操る人型ゴーレム三体は、部屋を後にして死んでいる兵士三人をそのままに奥を目指して進んで行った……。
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