第387話 回収作業



Side 五十嵐颯太


異世界にある帝国の砦に、燃料棒が運び込まれてからどれくらいの時間が経ったのか分からないが、砦にいた人たちは全滅した。


北海道の泊原子力発電所から、燃料棒が消失して約一カ月。

砦に何時持ち込まれたかは不明だが、この一カ月で砦にいる者たちが次々と死んでいったのは間違いない。


しかも、砦から他の場所へ移動になった者がいないと言えないことから、もしかすると帝国内で放射能汚染が進んでいるかもしれない。


この短期間で砦にいる人が全員死んだということは、どれだけ放射能汚染の被害がすごいか分かるだろう……。


そんな帝国の砦から少し離れた場所に、人型ゴーレムを操って状況確認に来た。


『どうだ?』

『ひどいですね……。

一キロぐらい離れているのに、ガイガーカウンターが警告音を出しています』

『これ以上は、放射能を浄化してから近づかないといけないな』

『セーラ、魔法は届きますか?』

『……大丈夫です。

この魔道具ならば、十分届きます』


そう言うと、セーラがコアルームから操る人型ゴーレムが、背中に背負っていた大型の杖を手に持って上に掲げる。

長い杖の先には、大きな水晶のような魔石が取り付けられている。


『セーラ、砦を包むように放射能汚染浄化魔法を展開してください』

『はい!』


セーラの操る人型ゴーレムは、杖の持ち手の所にあるスイッチを押す。

すると、杖の先端の大きな水晶の形をした魔石が輝きだし、強い光を放つと砦全体が一瞬だけ光に包まれた。


そしてすぐに、ミアの操る人型ゴーレムは、手に持っていたガイガーカウンターを見る。

すると、警告音は鳴らずに平常値を示していた。


『ガイガーカウンターが、安全値を示しました』

『よし、砦に侵入開始!』

『『了解!』』


俺たちが操る人型ゴーレムは、帝国の砦に向かって走り出した……。




▽    ▽    ▽




Side 五十嵐颯太


砦の入り口まで移動すると、門の前に帝国の兵士が三人、折り重なるように倒れている。


『これは、どういう状況だ?』

『……マスター、あそこを見てください』


ミアの操る人型ゴーレムが、砦の門の側にある扉を指さす。

そこには、何人もの兵士が折り重なるように倒れている。

まるで、我先にと外へ出ようとしているようだ……。


『……ならばこの三人は、外に逃げれたもののここで力尽きたってことか?』

『おそらくは……』


その時、ミアの操る人型ゴーレムの腰に付けているガイガーカウンターから、激しい警告音が鳴った。


『?! マスター、再び放射線反応です!』

『セーラ!』

『はい! 放射線浄化シールドを展開します!』


放射線浄化シールドは、今回の燃料棒回収のために開発した結界魔法だ。

魔法のことに詳しくない俺たちは、魔法に詳しい魔王ディスティミーアに依頼して開発してもらった。


放射線のことを説明するのに苦労したが、魔法の開発はすぐにできた。

さすがは、異世界の魔王だ。

魔法に関しては、俺たちよりも知識があるな……。



セーラの操る人型ゴーレムが、杖の持ち手の下の方にあるスイッチを押す。

すると、杖全体が青く光り俺たちが操る人型ゴーレムたちを包み込んだ。


そして、ミアの操る人型ゴーレムの腰についていたガイガーカウンターの警告音が鳴りやんだ。

どうやら、放射線の遮断に成功したようだ。


『……成功したようだな』

『放射線は、シールドで浄化され続けます。

私たちが操る、この人型ゴーレムへの影響はないでしょう』

『よし、砦の中へ入るぞ』

『『はい』』


俺たちが操る人型ゴーレム三体は、砦の中へ進んで行く……。




▽    ▽    ▽




Side 五十嵐颯太


俺たちは、砦の内部をくまなく捜索していく。

砦のあちこちで、人が倒れて死んでいる光景ばかりだが、今はどうにかすることはできない。


後で、キッチリ浄化して埋葬してやろう……。


そして、砦の中心で地下への階段を発見。

ここが、研究所へ繋がっている階段だろう。


『ミア、ガイガーカウンターはどうだ?』

『……数値は変わりません。

放射線浄化シールドが、しっかり効いている証拠です』

『よし、地下に降りるぞ』


階段を一段一段降りていくと、一番下に鉄の扉があり帝国軍の制服を着た女性が倒れて死んでいる。

どうやら扉を開けようとして倒れ、そのまま亡くなったようだ。


持っていた書類とかが、大きな封筒に入ったままだ。


『扉を少し開けていてくれたのは、運が良かったのかな?』

『……とりあえず、中へ進みましょう』

『ああ……』


俺は人型ゴーレムを操って、鉄の扉を押す。

すると、ゆっくりと扉が開いていき、ある程度開くと動かなくなった。


扉の中に入り、扉の方を振り返ると人の死体が引っ掛かっていた。

どうやら、この死体が扉をこれ以上扉を開けられなかった原因のようだ。


『マスター、今は死体に構っている場合ではありません。

放射線浄化シールドが、どこまでもつか分からないのですから急ぎませんと……』

『分かった』


死体に手を合わせて、俺たちは奥へと進む。

廊下をまっすぐ進むと、再び扉があったが大きく開いていた。

誰かが開けたらしい。


俺たちは、その扉を潜り奥へと進んで行く。


『確か、研究所の倉庫に保管されているんだったか?』

『はい、エレノアの話ではそのようです。

別の場所に移動することは難しいでしょうし……』

『……倉庫がどこか、分からないな』


俺たちは、研究所のあちこちにある扉を開けて中を確認していく。

だが、扉の中の部屋には、研究所の職員と思われる人々の死体ばかりだ。


だんだんと、気が滅入ってくるな……。







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