第386話 困難な回収
Side 荒木田
ダンジョン企画の依頼で、ファンタジーダンジョンパークの町で行われている魔法と現代医学の融合が役に立つ時が来た。
だが、最初の依頼が放射線被ばくの患者とはな……。
確かに、放射線の被ばく患者の治療法を魔法治療に求めて、ダンジョンパークの町で早い段階から研究は行われていたが、この研究は例の大地震による原子力発電所から漏れた放射能をどうにかするためのもの。
被ばく患者の治療に、放射能汚染の除去を主眼に研究はしていたが……。
今、目の前の隔離部屋の中にいる三人の患者は、放射線のことなど知らなかったのだろうな。それどころか、その毒性も知識に無かったのだろう。
そうでなければ、あそこまで体が蝕まれていなかったはずだ。
「……説明、いいかな?」
寝ている女性患者に、視線を送り微笑み合う二人の男女。
その二人に、これから説明しなければならないのだ。
君たちが死なずに済んだ理由が、アイテムボックスというスキルのおかげだということ。
アイテムボックスは、空間魔法の一種らしく、空間を隔離して物をしまえる特殊スキルだ。
そのおかげで、燃料棒から出る放射線を、一応遮断できていたためすぐに重症とはならなかった。
アイテムボックスから、出して依頼品の燃料棒をギルドへ納品する。
その時に、燃料棒から出る放射線を浴びたため、症状が出るのがあんなに遅かったのだ。
それで助かったのだから、運が良いと言えるだろう。
何せ、燃料棒を納品した盗賊ギルドのギルド職員をはじめ、燃料棒を運搬した運搬ギルドの者たちの犠牲者はかなり出ていて、死者で言えば五十人は超えているそうだ。
ダンジョン企画の全面協力のもと、被爆者に対しての治療は始まっているが、何人が助かるのか全く分からない状況だそうだ。
隔離部屋にいる三人に、放射線の恐ろしさとか説明して理解してもらえるか……。
▽ ▽ ▽
Side 五十嵐颯太
「放射線を吸収するシールドか何かが、開発できればいいんじゃないかな?」
「そうですね……。
魔石に吸収することができればいいのですが、それだと新たな兵器として使われそうですよね……」
ミアとコアルームで、帝国の砦の研究所に運び込まれた燃料棒をどうやって回収運搬するか話し合っていた。
何せ、運ぶだけでも大変なのだ。
回収となると、さらに大変な代物。
しかも、砦にいる帝国の兵士や研究所の研究員にどれだけ危険なものかを説明する必要もある。
また、どこから知識を得たのかも聞きださないといけない。
そんな厄介な砦からの回収を話し合っていると、エレノアがコアルームに飛び込んできた。
「マスター、大変よ!」
「エレノア? 慌ててどうしたんだ?」
「砦に潜入させた、虫ゴーレムからの映像を見て!」
そう言うと、空中に虫ゴーレムからの映像を映しだした。
三つのモニターが出現し、それぞれに砦内部の映像を映しだす。
「……おい、これって」
「?!」
驚いて、エレノアに声をかける俺に息をのむミア。
虫ゴーレムが映す映像には、砦で見張りに立っているはずの兵士から、砦内部の廊下に何人も倒れている兵士たち。
さらに、研究所と思われる地下の扉に手をかけて、倒れて動かない研究員。
まさに、全滅の映像だった。
いや、何人かはまだ呻きながら動いている。
だが、地下の研究所を映した映像には、研究員と思える人たちの動かない映像が映っていた。
「エレノア、全滅か?」
「遅かれ早かれ、そうなるでしょうね。
それより、これを見て!」
エレノアが、研究所にある倉庫の映像を映すと、そこに目的のものが映っていた。
原子力発電所から盗み出された燃料棒だ。
「これ、燃料棒か……?
数は、全部あるのか?」
「分かりません。
今、盗まれた数と映像から分かるだけの数を照らし合わせましたが……あ!」
その時、虫ゴーレムからの映像が突然切れた。
もしかして、放射線が強力すぎて支障をきたした?
「切れたぞ?」
「虫ゴーレムの魔石が割れたのね。
虫ゴーレムに使用している魔石は小さいから、強力な放射線の影響を受けたのよ」
「……となると回収には、やっぱり特殊なゴーレムを使用するしかないな」
「特殊?」
「ああ、ミアとも話し合っていたんだが、放射線を吸収するシールドとか魔石とかを付けたゴーレムで回収するのはどうかと思ってな……」
「ロボットとかはダメなの?」
「あの映像から、燃料棒はそのままの状態で盗まれている。
ロボットでは、運び出せないだろう。
特殊なゴーレムで、アイテムボックスを使用して運び出すしかないが……」
「運搬中も問題なのね……」
厄介な物を、盗み出してくれたよ。
回収するのも一苦労だ。
でも、そのままにしておけば異世界が大変なことになるだろう。
砦にいる者たちが全滅しようとも、国境にある砦だ。
帝国は再び人を送り込んでくるし、調査もされる。
その度に、犠牲者が増えるのもな……。
帝国側が、厄介な砦、呪われた砦として始末する場合は、おそらく魔法でということになる。
そうなれば、核爆弾と同じだ。
いや、劣化ウラン弾とかいうやつか?
放射能物質のある砦を、魔法で始末して辺りに拡散させてしまう。
そうなれば、どんなことになるか……。
「今さらながら、地球人は厄介な物を使って生活しているんだな……」
「そうですね……」
ミアが頷いてくれるが、エレノアは何をいまさらと言いたげだ。
はぁ~、これからどうするかな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます