第385話 治療状況
Side 五十嵐颯太
ダンジョンパークのコアルームで、今日もミアから報告を聞いている。
教王聖国が暴走している異世界は、現在は静観ということにした。
俺たちが、その世界に対してできることはないからな。
どの勢力が覇権を取ろうと、町一つを運営している身としては何もすることはない。
せいぜい、難民を受け入れて町を大きくするぐらいだな。
それよりも、問題なのはもう一つの異世界だ。
地球の世界各地に出現しているダンジョンから、異世界への道が発見され各国が異世界との繋がりを取り始めた。
日本などの早くから異世界と繋がった国は、すでに貿易を始めるところもあり地球側も異世界側も利益を上げているらしい。
だが地球側は、化学が進んだ世界。
異世界の、魔法が進んだ世界とは異なるため研究しようといろいろな物が異世界へ流れていった。
今回の原子力発電所から消えた、核燃料棒もその一つだ。
だが、研究対象がヤバかった。
地球側から、異世界の貿易相手に警告などは出しているがすでに燃料棒の行方は分からなくなっていた。
「ん~、盗賊ギルドで死者が五十人って……」
「病気で臥せっている者を合わせれば、百人以上だそうです。
ギルド職員、ギルド登録者などなど、現在も犠牲者は出ているそうです」
「燃料棒を盗むように依頼したものは?」
「それが、依頼を出して報奨金をギルドに預けた後は姿を消したとか……」
「それだと、受け取りは?」
「運搬ギルドへ、別に依頼していたようです。
運搬先は、国境にある帝国の砦ブルゲルナにある研究所だそうです」
ということは、帝国が依頼したということか?
でも、どうやって核の存在を知ったんだ?
それに、原子力発電所のことも……。
「……帝国の方は探ってみた?」
「はい、そちらはエレノアが探ってくれました」
「で、どうだった?」
「はい、どうやら帝国は一枚岩ではないようですね。
そのため、領地や砦などで独自に研究などがおこなわれているようです。
帝国の皇帝など上層部が知るのは、結果が出てからのようです」
「それじゃあ、何かが起きるまで何も分からないってことじゃないの?」
「帝国はそれだけ、力があるということではないでしょうか」
「なんだかな……。
でもそれじゃあ、盗賊ギルドに依頼したのは帝国ではなく研究所のある砦単体でってことになるな……」
「もしくは、研究所が独自に、ですね……」
ということは、盗まれた燃料棒は砦の研究所にありそうだけど、犠牲者はかなり出そうだな……。
この研究所の依頼に関わった人たちは、もれなく犠牲になりそうだ。
「放射能汚染浄化魔法を教えておいて、正解ってことかな……」
「ですね。
でも、よろしかったんですか?
エリクサーの提供をして……」
「犠牲者は、なるべく減らしたいからね。
特に、日本にいる異世界人はね……」
「そうですか……」
ミアは、微笑みながら呆れているかかな。
でも、異世界人は犠牲になっていいなんてことはな……。
それにしても、どうやって核のことを知ったのか……。
貿易をしている異世界人たちも、核の知識はないはずなんだけどね~。
▽ ▽ ▽
Side ???
北海道ダンジョンの近くにある病院の一室に、異世界人の三人が入院していた。
放射線被ばくということで隔離された病室ではあるが、手厚く治療されている。
また、今回の治療にあたっては、現代医学と魔法治療を融合させて行われるという試みも行われており、ある意味実験医療ともいえた。
『ん~……』
『……ミリフも、顔色が良くなったみたいだな』
『ええ。もう、苦しそうにしていないわね……』
ベッドに寝かされているミリフを、隣のベッドから見て安堵するカナフ。
その向かい側のベッドには、ソホンが上半身を起こして座っている。
この三人は、少し前まで被ばく患者としてこの病院に入院したのだ。
それから、現代医学での治療や魔法での治療が試みられ、どこからか提供のあったエリクサーをも使用して回復している。
『カナフはどうだ?
嘔吐を繰り返すほど、症状が酷かったが……』
『もう大丈夫よ。
あの時のように体は怠くないし、気分も落ち着いている』
『ということは、俺たちは助かったんだな……』
ソホンが安堵すると、声が聞こえた。
『その通りだ。君たちは助かったんだ』
『誰だ?』
ソホンとカナフが周りを見渡す。
すると、カーテンが自動で開いて、窓の向こうにいる三人を確認した。
白い服を着た男が一人。
そして、薄いピンクの服を着た女性が二人確認できた。
『私は医者だ。
君たち三人の治療を担当させてもらった、荒木田という。
こっちの二人は、君たちの治療の手伝いをしてくれる、喜田と西城だ』
『喜田早苗です』
『西城きみえと言います』
『君たちの症状について説明したいが、いいかな?』
ソホンとカナフは、お互いを見て荒木田の方を向くと頷いた。
『よし。
まず、君たちは放射能被ばくになっていた』
『放射能、被爆?』
『そうだ。
君たちが原子力発電所から持ち出した燃料棒には、高濃度の放射線が出ていてな、その放射線を間近で浴び続けたためになった病気だ』
『……』
『本来なら、即死してもおかしくはないんだが、そうならなかったのは、君たちが使ったアイテムボックスというスキルのおかげだな』
『アイテムボックス……』
そう聞いて、ソホンとカナフは、今も寝ているミリフの方を見る。
ソホンたちの中で、アイテムボックスのスキルを持つのはミリフだけだった。
『……いつの間にか、ミリフに助けられていたのか』
『私たちのパーティーで、一番のドジっ子なのに、ね』
ソホンとカナフは、ミリフを見ながら笑顔になっていた……。
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