第384話 無知
Side ???
北海道ダンジョンから行くことのできる異世界。
その異世界に入って最初の町から、北へ少し行った場所に国境がある。
地球人たちと交流のある王国と、王国と何度も戦って今は停戦している帝国との国境だ。
その国境から少し離れた場所にあるのが、帝国の砦。
その名を、ブルゲルナの砦と言う。
そして砦の地下は、天然の洞窟を利用した秘密の研究所となっていた。
「……これが、異世界の例の物なのか?」
その秘密の研究所にある大きな倉庫に、二人の男がいた。
一人は、いかにも研究員といった姿をしていて、もう一人は軍服を着ていた。
そして、軍服の男がしゃがんで棒状の物に触れようとしていた……。
「おおっと、触るなよ?」
研究員の男に止められ、軍服の男は不満な表情で研究員を見る。
「なぜだ?」
「今魔道具で、それの空間を隔離しているんだ」
研究員の言葉を聞いて、軍服の男は棒状の物の周りを見る。
すると、赤い蓋のような物が横にしている棒状の物の左右に設置されていた。
赤い蓋のような物から、何か魔力結界のような物が放出されているようだ。
「……そんなに危険なものなのか?」
軍服の男は、研究員を見て質問する。
すると、研究員の男は頷いて答えた。
「ああ、かなり危険だ。
ここに運び込んだ、運搬ギルドの連中の何人かが犠牲になったほどだ。
それに、盗賊ギルドの連中も、何人か原因不明の病に侵されて治療中らしいぞ」
「そこまで……。
でも、今は隔離しているんだから大丈夫なんだろう?」
「……それがな……」
「ダメ、なのか?」
顔面蒼白になる軍服の男。
言い辛そうにする研究員は、じっと棒状の物を見つめる。
「一応魔法結界で隔離しているとはいえ、放射線というものが常に出ているらしい」
「放射線?」
「ああ、人体にとって毒になる、目に見え無い光りみたいなものらしい。
それが、魔法結界をも突き抜けて出ているそうだ……」
「それじゃあ、ここにいるのも危険じゃないのか?」
「ああ、危険だ……」
「早く言えよ! すぐに退避するぞ!!」
軍服の男は、そそくさとその場を後にして、研究員の男は、ゆっくりと軍服の男の後を追った。
放射線が出続けている金属の棒こそ、原子力発電所から盗み出された燃料棒だ。
それがそのままの状態で、地面に置かれていた……。
▽ ▽ ▽
Side ???
ブルゲルナ砦の地下にある牢屋。
ここに、北の大国から送られてきた男が捕まっていた。
その男は、北の大国の大学で助教授として働いていた男なのだが、国内に出現したダンジョンを探索中に、この異世界への道を発見した。
好奇心のまま、この異世界へ来たが繋がっていた場所がこの砦の倉庫で、砦内をうろついている間に兵士に捕らえられ尋問を受けるも言葉が通じず、牢に入れられていた。
その後、砦の研究所の研究員に、魔法で記憶を見られて核の存在を知られる。
興味を持った研究員たちが、核の材料になりえる原子力発電所の燃料棒を盗むように依頼をした、というわけだ。
「あ~~……」
ボーっと、牢の床を見つめているだけの男。
魔法で記憶を見られた影響で、こうなってしまったようだ。
だが研究員たちは、記憶を見られればいいので死なないように記憶を覗いているようだ。
そこへ、牢に一人の女が近づいてくる。
牢を見張る兵士の男が気づき、立ちあがって敬礼する。
近づく女は、手で制して敬礼をやめさせた。
「そういうのはいいわ。
それで、どう? 変わったことはなかった?」
「いえ、あれからずっとあの状態です」
鉄格子越しに、ぼーっとしている男を見る女研究員。
最後に記憶を見た後から、ずっとこの状態らしい。
「そう……。とりあえず、死なせないでね」
「分かりました」
「ところで、あなたは異世界の話は聞いたかしら?」
「確か、この砦に異世界との道ができたとか、ですか?」
「ええ、この男が現れた倉庫にあったそうよ。
こちらから、何人か偵察に送っているけど、やっぱり問題は言葉ね」
「こちらの言葉が通じないとか」
「そうなのよね……。
この男の記憶から、かなり有用な物があることが分かっているんだけど、向こうの戦力が分からないから攻めようがないのよね……」
男の記憶から、向こうの異世界に結構な戦力の武器があることが分かってはいたが、言葉が通じず文字も読めなかった。
これでは調べようがない。
そこで、隣国の王国を利用することにした。
隣国の王国も、異世界と繋がりができたらしく貿易を始めていたのだ。
貿易ができたということは、言葉が通じるということ。
その秘密を、王国に潜り込ませていた密偵から報告を受けて、その翻訳の魔道具を何とか入手することに成功。
帝国はそれを使って、北の大国とか言うところへ潜入し核爆弾なるものを知った。
男の記憶で見たものと、同じ威力を持ったものということが分かり調査を開始。
そして材料に、原子力発電所で使われているもので代用ができると分かり、盗み出すように依頼したというわけだ。
こちらでも、その核爆弾なるものを作りだし、北の大国に潜り込ませた者たちが戦力を調査し終われば、帝国から戦力を送り込める。
そして、北の大国を占領して異世界からこちらの世界の国々へ攻め込めるというもの。
帝国の上の連中はそんなことを考えているらしいが、そううまくいくはずないだろうに……。
「まあ、私たちはいろいろな研究ができるから、協力しているだけなんだけどね」
「は、はぁ……」
「とにかく、この男を死なせないように気をつけてね」
「り、了解しました」
兵士は敬礼する。
研究員の女は、フッと笑うと左手をフリフリして牢を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます