第383話 盗んだ者たちは……



Side ???


北海道ダンジョンの近くにある町の、ホテルの一室。

この部屋のベッドには、一人の女性が苦しそうに寝ている。


『ハァ、ハァ、……』

『ミリフ……』


苦しそうに寝ている女性の傍らで、心配そうに見守るだけの女性。

その二人の耳は、エルフと同じように尖っていた。

だが、この二人はエルフという種族ではない。


そこへ入り口の扉が開き、男が入ってきた。


『ミリフは、大丈夫か?』

『ソホン!』

『カナフ、オールから聞いて飛んできたんだ。

ミリフはどうなんだ?』


ベッドの傍らにいたカナフという女性が立ちあがり、部屋に入ってきたソホンという青年に抱き着く。

そして、二人でベッドに寝て苦しんでいるミリフという女性に近づいた。


『ずっと苦しんでいるのよ。

魔法も薬も効果が無いの……』

『一体、何があったんだ?

オールの話だと、この間の依頼を達成させてからおかしくなったって聞いたが……』

『……この間、ギルドからある依頼をされたの。

ここ、日本の泊発電所というところで大事な物を盗み出してほしいってね』

『盗み出してほしいって……』

『日本の電力発電の研究のために、っていう依頼だったわ』

『だが、盗むなんて……。

この国の人たちは、話せばある程度は教えてくれるはずだ。

それに国家機密でない限り、情報は開示してくれると思うが……』


カナフは、頭を横に何度か振る。


『依頼者の話では、国家機密に準ずるようなことだって言っていたから教えてくれないだろうって。

だから、数ある発電所という施設から盗み出してくれないかって……』

『て、帝国のためだよ……』

『ミリフ!』

『ミリフ?! 大丈夫か?!』

『だ、だいじょう、ぶ。

胸の、この辺が、苦しい、けど……』

『胸の、この辺?』

『そこって……』


ミリフが手を置いた場所は、心臓のあたりだ。

ということは、心臓が苦しいということになる。

しかも、魔法でも薬でも治らない苦しみ……。


カナフとソホンの顔色は、一気に青くなる。

もしかして、カナフはとんでもない病にかかってしまったのではないか、と……。


病による衰弱も、ミリフにあらわれていた。

その時、カナフが自分の口を手で押さえると、ホテルの部屋にあるトイレへと走って移動する。

そして、勢いよく入ると激しく嘔吐した。


『おえぇ~……』

『カナフ?!』

『ハァ、ハァ、おえぇ~……』

『……』


激しく嘔吐するたびに、カナフの表情が悪くなる。

まるで、ミリフの病が移ったかのようだ……。


『一体、どうなっているんだ?』


二人の症状に困惑するソホン。

どうすればいいのか、右往左往していると部屋の入り口のドアがノックされた。


――――コン、コン。

『すみませんお客様。ちょっとよろしいでしょうか?』

『はい!』


ソホンは、嘔吐するカナフをそのままに入り口へ移動する。

そして、入り口のドアを少し開けた。


すると、勢いよく扉が開けられ、白い服に身を包んだ男たちが部屋の中へ入ってきた。

それも、五人ほど。


『なッ! 何だ?!』


白い服を着た男たちは、何かの機械を取り出してすぐにスイッチを押す。

すると、大きな音とともにセンサーが振り切れた。


「佐々木さん、ここで間違いありません!」

「ブリット、例の魔法を!!」

『了解!』


そして、ブリットと言われた小柄な白い服を着た男が詠唱を始める。


『な、何が……』

「しっ! 黙ってください!」

『あなたは……』


最後に入ってきて、ソホンの隣に来た白い服の男に止められる。

その事に困惑していると、小柄な男の詠唱が終わり魔法が行使される。


『【レディエイションバニッシュ】!!』


その魔法が行使されると、辺りの空気が変わった。

先ほどまでの、何か重苦しい感じが一切無くなったのだ。

すると、白い服を着ていた男の一人がマスクを取り、ソホンの前にいた男に質問する。


「蟹田、ガイガーカウンターは?!」

「……放射線量、基準値以下! 問題ありません!」

「よし、すぐにこの部屋の人たちを外へ!

場所を移動するぞ!」

「了解!」


敬礼して、白い服を着ていた三人は奥の部屋の寝室へと入っていく。

また入り口から、さらに何人か入ってきた。


『な、何が……』

「ソホンさん、ですね?

ちょっとお話を聞かせてもらえますか?」

『え? え?』

「大丈夫です。

同じ部屋に泊まっているカナフさん、ミリフさんはこちらで治療いたしますので」

『ち、治療?』


隣にいたマスクを取った白い服の男に、部屋の隅に連れられて行き、いろいろ質問される。

その間に、ベッドに寝ていたミリフは台に乗せられて運び出され、カナフも女性二人に連れられて部屋の外に連れて行かれた。


「ご安心ください、私たちは、警察です」

『警察?』


白い服の下から、黒い手帳を出し中を見せた。

何やら文字が書かれていて、目の前の男の写真が張ってある。

おそらく、身分証明の何かだろう。


「私たちは、あなたたちも被害者だと考えています」

『被害者?』

「はい。今回ギルドの依頼で、盗み出したんですよね?」

『え……』

「ここの、泊原子力発電所から、ですよ……」


目の前の男の鋭い目が、ソホンを見つめている。

ギルドの依頼も分かっていて、ミリフたちが盗み出したことも知られている。

さらに、その依頼の内容も。


ある研究機関からの依頼による混乱は、こうして幕を閉じていく。

だが、事件はまだ解決していない。


依頼の内容、帝国に研究機関、それに何より、盗み出された燃料棒はどこに行ったのか……。







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