第380話 王国の終わり
Side 五十嵐颯太
集まった高校の時の友達と担任の先生だった菊池麻衣子先生と一緒に、異世界の町を見学していると、冒険者ギルドに人が詰めかけていた。
「あれ、なんだ?」
「あそこが冒険者ギルドだけど、何かあったのかな?」
「ほう、あれが冒険者ギルド」
人が集まっている冒険者ギルドの入り口で、人をかき分けながら中に入ると、掲示板の周りに人が集まっていた。
どうやら、一つの貼り紙が原因のようだ。
俺は、見えない貼り紙を見る前に受付に足を運んだ。
受付で詳細を聞けばいいと考えたからだ。
「すみません」
「はい、冒険者ギルドへようこそ」
「あれ、何があったんですか?」
受付嬢は、俺が指さした掲示板を見てため息を吐く。
そして、詳細を教えてくれた。
「はぁ~、お騒がせしてすみません。
あれ、冒険者ギルドで貼り出している情報なんです」
「情報?」
「ええ、冒険者の皆様は、近隣の情報を得て依頼を受けたりしますからね。
特に護衛依頼なんかは、情報が必要なところがありますから……」
「確かに」
「で、今回は商業ギルド経由で教皇が暗殺されて、教王聖国の教皇が変わったというものです。そして、その教皇の命でブリーンガル王国へ宣戦布告したということです」
「教皇が暗殺?!」
「新教皇が、宣戦布告?!」
「……そうなんです」
陸斗と悟が驚いていたが、俺はあの浮遊帆船団の目的が分かって納得した。
確か、暗殺された教皇はちゃんとした女性だったはず。
そんな教皇が戦争をするとは思えなかったが、教皇が代わっていたのなら納得だ。
でもそうなると、やはり弱体化したブリーンガル王国が狙われたということだな。
確か、教会が召喚した勇者たちはすでに、教会から離れているはず。
みんなで元の世界に帰るために、いろいろと考えていたからな。
「でも、何でみなさん集まっているんですか?」
「何か、食い入るように見ているみたいだけど……」
俺が、教会の動向を考えていると、かな恵と陸斗が受付嬢に質問する。
「それは、各国の動きが知りたいんだと思います。
ブリーンガル王国のことはもちろん、その他の周辺諸国の動きも知っておこうと情報を確認しているんだと……」
「貼り紙一枚で、そんなことまで分かるんですか?」
「ああ、あれは、地図になっているんです。
で、どこのどの方角にある国は、どういう状況かを記してあるんです。
だから、あの貼り紙を見ればどの国がどういう状況なのか分かります。
詳しくは、現地の国に行って調べるしかありませんが……」
へぇ~、地図で表してあるのか。
それなら、どの方角に行けばどの国があるのか分かるし、その国がどういう状況なのかもわかる。
詳しくではなく、大体のことが書かれているということか。
詳しく知りたければ、現地か現地から来た人に聞いて情報収集をしろということだな。
「あの、ブリーンガル王国からこの町に、人々が避難してくるなんてことは……」
凛が、気になることを聞いた。
どうやら、戦争があると知って不安になったことを質問したのだろう。
地球でも、難民の問題があるからな~。
「ブリーンガル王国から避難してきている人は、だいぶ前から増えていますね。
例の浮遊島が落ちたときから、周辺国へ避難する人が出ているようです」
「じゃあ、増えているということは……」
「戦争が始まる前に、ということでしょうね……」
▽ ▽ ▽
Side ???
ブリーンガル王国王都の王城の謁見の間では、国王が荒れていた……。
「馬鹿者っ!!」
「!!」
謁見の間に響く、国王の怒号。
そして、国王の前には跪き報告を行った一人の王国騎士。
その周りには、各貴族の大臣や騎士が直立不動でいる。
「へ、陛下……」
「教王聖国が宣戦布告してから、わずか十日しかたっていないのに兵が集まらんとはどういうことだ!!
各貴族に、通達は出してあるんだろうが!!」
「つ、通達はしてあります!
しかし、浮遊島の墜落の影響で、各貴族の領地では大変な騒ぎが起きているらしく……」
「一年だ! 浮遊島墜落から一年だぞ!!
貴族どもの領地では、一年も民の暴動を押さえられんのか!!
それほど、この国の貴族は無能ぞろいなのかぁ!!!」
肩で息をしながら、国王は怒りをあらわにしている。
すでに国境からの、教王聖国の浮遊船団が通過したとの報告は着ていた。
敵はすぐそこまで来ているのだ。
明日にも、この王都は戦場となるはずだ。
にもかかわらず、戦える騎士や兵士がいない!
「宰相! 我が国の浮遊帆船はどうだ?!」
「各地からかき集めて、三十二隻揃えました」
「たった、三十二隻だと?!」
「……それと、すぐに戦闘ができる浮遊帆船が少なく……」
「何隻だ?!」
「……六隻が、戦闘可能です」
「……」
国王は、いきなり全身の力が抜けて玉座に座り込んでしまった。
戦える浮遊帆船がない。
たった六隻では、ただの的だ……。
すでに、王都から民が逃げ出しているという報告も聞いている。
もはや、この国は終わりだ……。
「……な………せ」
「は? 何でしょうか、陛下?」
「すぐに、王都中に避難命令を出せ!」
「へ、陛下?!」
「イガルガ! 妻と子供たちを頼むぞ!!」
「ハ、ハハッ!」
「他の物たちも、すぐに王都を離れよ!
ブリーンガル王国は終わるが、皆は生き延びるのだぁ!!」
「陛下っ!」
「宰相! 集めた浮遊帆船で、人々をできるだけ逃がせ!」
「あ、ああ……」
「急げっ!! 敵はすぐそこまで来ている!
時間が無いぞ!!」
「「「「ハハッ!!」」」」
ブリーンガル王国国王の最後の命は発せられた。
国王は、国を捨てて人の命を取った……。
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