第381話 教王聖国の事情



Side ???


教王聖国の中心にある都市の大聖堂。

そこに神を模った石像の足元に、質素な玉座が鎮座していた。

だが今は、誰もそこに座っていない。


その玉座から、三段ほど下がった場所に豪華な玉座が用意され一人の男が頬杖をついて機嫌悪く座っていた。

貧乏ゆすりをしながら、イライラを表現していると、一人の聖騎士が男の前で跪いた。


「モントーリ様、ブリーンガル王国の滅亡を確認し、教王聖国の支配下に入りました。

このまま浮遊帆船を率いて、南進いたします」

「南は、トルダート王国だったか。

あの国も、旧ブリーンガルの影響で疲弊していたな」

「はい、東にできたダンジョン攻略の際に、自国の兵を出して全滅。

その後、両国間での小競り合いで決着がつかず、かなり疲弊したようです」

「チャンスだな。

ブリーンガル王国を飲み込んだ勢いで、トルダート王国も飲み込んでしまえ!」

「ハハッ!」


そう返事をすると、聖騎士の男は立ち上がり、謁見の間を後にした。

そして、聖騎士の男と入れ替わるように、近衛騎士隊の男が謁見の間に入ってきた。


「モントーリ様、ご報告いたします」

「コルト近衛騎士隊隊長、見つけたのか?」

「申し訳ございません。

レニフィスティア教皇様を、見つけることはできませんでした……」

「どこに行かれたのか、見当はついているのか?」

「いえ、教皇様の行動に関しては、こちらでも把握できておりませんでしたので……」

「言い訳はいい。

とにかく、レニフィスティア教皇様を近衛騎士隊の総力を挙げてお探しするのだ!!」

「ハハッ!」


近衛騎士隊の隊長は、モントーリに一礼すると謁見の間を後にした。

近衛騎士隊は教皇直属の騎士隊であるため、いくら現在教王聖国を動かしているモントーリとはいえ、跪くことはないのだ。


一時期、レニフィスティア教皇により枢機卿を降ろされ、教会から破門されたモントーリだったが、レニフィスティア教皇が行方不明になるや、他の教会のお偉いさんたちに政治手腕を買われ、教王聖国の宰相に任命されていた。



再び、謁見の間に一人となったモントーリは、先ほどまでのいら立ちを忘れたかのように笑みを浮かべた。


「……探せ、探せ。

お前らの光であるレニフィスティア教皇は、暗殺者に怯えて表舞台には出てこれまい。

つまり、二度と私の前には現れることはないということだ。

クフフ……」


そこへ、紙の石像の後ろから姿を現した女が一人。

空席の質素な玉座に座る。


「あら、ご機嫌ねモントーリ」

「……シオネか。

何の用だ? お前たち暗殺隊には、レニフィスティア教皇の暗殺を依頼したはずだが?」

「フフフ、ええ、受けているわ」

「ならば、こんなところで遊んでないで、さっさと教皇を殺せ!」

「教皇を殺して、教王聖国を自分のものにするのかしら?」

「フン! これだから、学の無い者は相手にできんのだ。

教皇が死んだことが世間に知られれば、宣戦布告が教皇の命令したことと証明できんだろうが!」

「……」

「教皇には、生きていてもらわねばならん。

だが、実際は死んでいてもらいたいのだ」

「つまり、生きているという事実だけがほしい、と?」

「教皇の偽者など、どうとでもなる。

お前たちが本物の教皇を殺した時点で、偽物の教皇に帰還してもらう手はずだ。

そして、いつまでも、私の傀儡として在り続けてもらうのよ……」


そう言って、自分に酔ったモントーリは大声で笑いだす。

自分のものになった教王聖国を想像して、機嫌が良くなったのだろう。


玉座に座ったまま聞いていた女は、足を組んだまま笑みを浮かべたまま、モントーリを見下ろしていた。


「(フフフ、小さい男ね。

本物の教皇を殺して、偽物の教皇を傀儡にしたら教王聖国が自分のモノになったって考えているなんてね。

何故追放されたあなたが、宰相なんていう地位にいるか考えないのかしら……)」


その時、モントーリが振り向いた。


「何だ?」

「いいえ、私は何も……」

「フム、なぜかバカにされたような気がしたのだがな……」

「……」


女は玉座から立ち上がると、見下ろしながらモントーリに告げた。


「とりあえず、依頼は任せてちょうだい。

私の配下の暗殺者たちは優秀よ?

必ず、レニフィスティア教皇を殺してあげるわ」

「フッ、頼んだぞ?

高い依頼料を払っているのだからな」

「ええ、任せなさい」


そう言うと、神の石像の陰に隠れて気配が消えた。

どこかに移動したようだ……。


「……何しに来たのか分からんが、これで教皇も終わりだ。

後は、教王聖国の今の戦力を削るために、教皇の字で宣戦布告状を作成したのだ。

教王聖国が、周りの国々に戦争を仕掛けていく。

クフフ、俺の教会への復讐ももうすぐだ。

いつまでも、侵攻されっぱなしのわけがない。

何れかならず、反攻される。

そうなれば、泥沼だ!

クハハハハ! 私に貸しを作ったと思うなよ!

私は、私をこの地位に押した貴様らにも牙をむいてやるわっ!!

これで、教会も終わりだぁ!!!」


モントーリの独白は、誰もいない謁見の間に響き渡った。

教会に復讐するためだけに、自分の今までの功績や才能までをも利用し目的を果たそうとする。

壊れてしまった男の復讐は、すでに始まっていた……。




▽    ▽    ▽




Side ???


魔王ディスティミーアの隣で、紅茶を飲みながら寛いでいた行方不明になっているはずの教皇レニフィスティア。

そして魔王が、テーブルの上にある魔道具を止める。


「聞いてた?」

「ええ、しっかりと……」

「この男、すでに暗殺者たちが我らの味方と気づいてもいなかったな……」

「だから、追放されたのです。

本来は、もっと頭を使った行動をとるはずなのですが……」

「追放された後で、おかしくなったか?」

「おそらくは……」


テーカップをテーブルの上のソーサラーに置くと、教皇は、悲しそうな表情になる。


「復讐に取りつかれ、周りが見えなくなって自身の才能も……」

「で、どうする?」

「今はこのまま」

「今は?」

「はい、今はこのまま、モントーリの好きにやらせます」

「そうか……」


いくつか国が無くなり、教王聖国も危なくなるかもしれないが……。







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