第379話 異世界側の町で



Side 五十嵐颯太


ダンジョンパークの第七階層の町から、異世界側の町へとたどり着いた陸斗たち。

みんな魔力酔いの症状もなく、異世界の空を見上げて背伸びする。


「ん~~…」

「んん~~…、ハァ」

「ここが、本物の異世界の町か~」


町を見渡して、陸斗が感想を言う。

そして、恭太郎があるものを発見した。


「お、おい、颯太!」

「ん? どうした?」

「どうしたじゃねぇよ! 空! 空を見ろよ!!」

「空?」


恭太郎が大声で騒ぐから、その場にいたみんなが恭太郎の指さすあたりの空を見上げる。

すると、大多数の浮遊帆船が飛行していた。

この町から、かなり離れた上空を移動しているようだ。


「すげぇ~~」

「あんな大群で、どこに向かっているのかしら?」


凛の疑問にハッとし、浮遊帆船の向かっている方向を見る。

あの方向は……。


「あの浮遊帆船が向かっている方角は、確かブリーンガル王国があったはずだな」

「へぇ、ブリーンガル王国っていうのか。

颯太、どんな国なんだ?」

「だいぶ前に、戦争を仕掛けてきた国。

そして、天使族の恨みをかって浮遊島を落とされた国、かな……」

「……何、それ」

「どんな国なのよ……」


俺の説明に、みんな呆れていた。

そして、悟が持論を披露する。


「おそらく、ブリーンガル王国というのは王様たち偉い人たちが欲を出して、戦争を仕掛けたんじゃないのか?

大陸統一とか、世界統一とか言い出してさ」

「あ~、ありえるね」

「権力もった人って、すぐに勘違いするからねぇ~」

「そうそう、国の力なのに自分の力のように振舞うんだよな~」

「異世界物の物語だと、貴族ってすぐに平民を蔑んで扱うんだよね~」

「うんうん、それで見放されちゃって自身の領土が荒廃する。

それを平民のせいにして、自滅へ一直線とかね~」


貴族や王族のクズっぷりを話したり、平民の扱いについても話しているけど、みんな結構異世界物の話を読んだりしているんだな……。


「は~い、そこまで~」


パンパンと手を叩きながら、先生がみんなの話を止めてくれた。

どうやら、異世界の話で盛り上がりすぎたらしい。


先生から注意を受けながら、これからどうするか話し合うようだ。

そこへ、アリアナが俺に近づいてきた。


「ねぇ、颯太君」

「ん? どうしたアリアナ」

「空の浮遊帆船なんだけど……」

「ああ、それが?」


俺とアリアナは、顔を空に向け浮遊帆船の行方を見る。

すると、アリアナは指である物を指さして質問してきた。


「あれ、見える?」

「あれ?」

「浮遊帆船の後ろに、たなびく旗があるでしょ?」

「……ああ、あるな」

「あれ、どこの旗か分からない?」

「ん~…」


浮遊帆船の後ろに、たなびいている旗。

白地に青の十字が入ったシンプルなものだ。

フィンランドの国旗に似ているけど、縦の青の位置が違うんだよな……。


ん~、よく分からないな……。

あ、ここで人の出入りの監視や管理をしている兵士の人に聞けばいいか。



そう思って、俺は辺りを見渡し兵士の一人を見つけた。

そしてすぐに近寄り、空を指さして浮遊帆船にたなびいている旗がどこのものなのか聞いてみた。


「あの旗、どこの旗か分かりますか?」

「あの旗?」


兵士さんが、俺の指さす空へ視線を向けて驚いた表情をする。


「なっ! 浮遊帆船だと?! それも何な数の帆船が!!」

「気づいてなかったんですか?

かなり前から、飛んでましたよ?」

「な、なんと……。

す、すぐに、隊長に知らせないと!」

「そ、その前に教えてください!」

「?! あの旗は、教会の旗だ!

つまり、教王聖国の浮遊帆船ってことだよ!!」


そう叫ぶと、兵士の男は走って行った。

一応俺の質問に答えてくれる辺り、良い人なのかもしれない。


でも、教王聖国か。

教会の聖地にある王国で、ダンジョン討伐、魔王封印を声高らかに掲げて勢力を伸ばしている国だ。

教会という組織の最大の支援国。


でも、ブリーンガル王国に魔王はいないしダンジョンもないはずだ。

それに浮遊島の影響で、王国はガタガタだったはず。


「分かった?」


兵士の元からみんなのいる場所に戻ってくると、アリアナが俺に聞いてくる。

そう言えば、旗がどこのものなのか聞いていたっけ。


「ああ、あれは教会の旗だそうだ」

「教会? 教会が旗を?」

「正確には、教王聖国の旗だって。

教会の支援国で、最大の後ろ盾になっているらしい」

「へぇ~、それなら戦争に行くわけじゃないのかな?」

「ん~、どうなんだろう……」


教会の浮遊船と分かったけど、あの数は異常だ。

戦争に向かったとしか思えない。


俺が難しい表情で考えていると、先生の呼ぶ声が聞こえる。

全員集まって、町の見学に行こうという。


せっかく、みんなで本物の異世界に来ているのだ。

難しいことや物騒なことは考えずに、みんなで楽しく町を見学しよう。

この町がどんな発展をしているか、俺も知らないからな……。


でも、あの浮遊帆船の動きも気になるし、ミアたちに知らせて調べてもらうか。

ここ最近のことは、ギルドにでも行けば分かるかもしれないな。


みんなと町を回っているついでに、ギルドに寄って情報収集といくか……。







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