第355話 立場と命令
Side ???
都内にある、高層ビルの高階層にあるオフィスの中の一室。
そこは、今話題のダンジョン日本の代表がいる部屋だ
社長室といってもいい部屋は、会議室の様相をしていた。
そして、その一番前の席で横にいる社員の一人から書類を受け取り読んでいた。
「ん~、今回の事故は、入場口の装備確認を強化することで対応できそうだな」
「はい、それで大丈夫と思います。
ただ、上からの指示で人手を増やしておけ、と」
「上から、ね。
了解したと伝えておいてくれ」
「分かりました」
代表は、部下の返事を聞いて書類にサインすると、社員の男に書類を手渡した。
社員の男は、書類を受け取ると他の書類と一緒に持って、社長室を出ていった。
「はぁ~」
椅子の背凭れに、疲れた表情で寄りかかると力を抜いた。
そして、天井を見上げてぼ~っとする。
与党の政治家に媚を売って、次官として過ごしていたら、いつの間にかダンジョン日本の代表にさせられてしまった。
でも、俺の仕事は軽い神輿ってことなんだろうな……。
「つまり、何かあった時の切りやすい首ってことだろう……」
ダンジョン日本の社長ではなく、代表ってところも政治家たちの意図があるのだろうな。
本当の社長は、別にいて表に姿を現さずに、軽い神輿だけを変えていく……。
「はぁ~、ヤダヤダ……」
今回の事故も、上の方で原因が何だと発表していたけど、本来は俺が会見を開いて原因を説明する立場なんだがな……。
重要なことは、上に決定権があるのってホント、俺ってつくづく神輿なんだなと自覚してしまう。
自身の立場に、ため息を漏らしているとドアをノックされる。
「はい」
『森下です、よろしいでしょうか?』
「どうぞ~」
俺の許可とともにドアが開き、女性社員の森下さんが入ってくる。
「失礼します。
代表、ダンジョン企画の五十嵐様が面会を求めていますが」
「五十嵐さん?
……天下のダンジョン企画の社長が、何の用だろう?」
「いかがいたしますか?」
「面会許可を出して、ここへお通ししてくれ」
「畏まりました」
そう言って一礼し、社長室を出ていった。
彼女は、一応社長秘書となっているが俺の秘書ではない。
つまり、俺の立場は社長ではないということだ……。
▽ ▽ ▽
Side 五十嵐太郎
ダンジョン日本のオフィスの受付に来たが、やっぱりアポを取ってくるべきだったな。
受付嬢に、ダンジョン企画の社長が来たと言ってようやく取り次いでくれたからな。
事前にアポを取っておけば、すんなり取り次いでくれたのだろうが……。
受付前で待っていると、取り次いでくれた受付嬢が近づいてきた。
「お待たせしました。
代表が会うと言われましたので、社長室にご案内いたします」
「ありがとう」
受付嬢について行き、案内してくれた社長室の前につく。
そして、受付嬢が扉をノックした。
『はい』
「代表、ダンジョン企画の五十嵐様をお連れいたしました」
『入ってもらってくれ』
受付嬢は、社長室の扉を開けて中へ入るように促してきた。
「どうぞ」
「ああ、ありがとう」
私はそうお礼を言って、社長室の中へ足を踏み入れる。
受付嬢は私が社長室に入った後、一礼して扉を静かに閉めた。
私の目の前には、社長室ではなく会議室のような部屋がありそこに一人の青年が立っていた。
そして、笑顔で私に声を掛けてくる。
「ようこそダンジョン日本へ、五十嵐さん。
私が、このダンジョン日本で代表をしている
ダンジョン企画の社長である、五十嵐さんが訪ねてこられるとは……」
「初めまして。
ダンジョン企画で社長をしている、五十嵐太郎です」
私たちは自己紹介とともに、名刺を交換して握手する。
しかし、社長ではなく代表、か。
「今日は、どうされましたか?
わざわざ訪ねてこられたのには、何か理由があるのでしょう?」
「ええ、少し確かめておきたいことがありましてね?」
「確かめる?」
そうだ、確かめたいことがあった。
ダンジョンで事故が起き、死者は出なかったが重症者が複数出たのだ。
それにもかかわらず、明日にはダンジョンの開放を再開するという。
「今朝、ダンジョンの開放を再開されると聞きましてね?
明日再開とか、早すぎませんか?」
「……五十嵐さん、私の肩書、おかしいと思いませんか?」
「社長ではなく代表、ですか?」
「ええ、そうです。
私は、何かあった時の人身御供なんですよ。
本当のダンジョン日本の社長は、別にいます。
ですが、その社長は表舞台に出ることはないと思います」
……なるほど、本当の社長がダンジョンの再会を決めてその通りに動くしかないというわけか。
さらに、その社長とは与党の政治家の誰か……。
で、もし問題があれば、彼の首を切って代わりの代表を置くと。
「……早くても、上の命令には逆らえませんか」
「そういうことです」
そう言った彼の表情は、少し曇っている。
死者は出なかったため、責任うんぬんの問題にはならなかったが対策は取らなくてはならない。
……たいへんだな、彼の立場も。
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