第354話 民間に開放されて



Side ???


冬の秋田ダンジョンの入場の列に、俺たちは並んでいる。

今日は、大学をサボって友達と一緒に来たのだ。


「飯島君、これ、本物なの?」

「恋華さん、ここで出したらダメですよ。

一応ここ、日本の法律が働いているから銃刀法違反で注意されますよ」

「……ダンジョンに入るまで、出せないってこと?」

「そうですね。

政府は、ダンジョン特別法で何とか準備できるようにしようとしているようですけど……」

「まあ、始まってから不備があるのはいつものことよね」

「ですね~」


多島恋華たじまれんかさんは、二年先輩の児島大樹こじまたいき先輩の彼女だが、トイレに行ってしまったせいで、今ここにいない。

俺の友達の彰の奴も同じくトイレだ。


もうすぐダンジョンに入れるっていうのに、遅いんだよな~。

……もしかして、大きい方か?


「いや~、すまんすまん」

「大和、場所確保していてくれて、サンキュー」

「もう、大樹君遅い~」

「悪い悪い。トイレが異常に混んでてな」

「もう少しで、ヤバかったっすよね~」


俺と恋華さんの間に、児島先輩と黒木彰が入ってくる。

他に並んでいる人の表情が少し曇るが、トイレで抜けていたと分かると、しょうがないなと諦めたようだ。


横入りはダメだけど、トイレはしょうがないよね。

列に並んで一時間。ここまで混んでいるとは思わなかった。

この様子では、北海道ダンジョンの方もかなり混み合っているのかも……。

その時、ようやくアナウンスが聞こえた。


『お待たせしました、秋田ダンジョンを開放します。

順番にダンジョンに入りましたら、すぐに武器、防具などを準備ください』

「お、ようやくか~」

「待たせすぎだぜ」


こんなにも待った訳は分かっている。

開放式典が行われていて、お偉いさんの話が長かったせいだろう。

関係したお偉いさんが、来ているのを見たからな。


『順番に! ゆっくり、お進みください!』

「飯島、黒木、頼むぞ?

俺は恋華を守らないといけないからな~」

「ありがとう~、大樹君」

「了解です」

「まあ、任せてくださいっス」


……彰に誘われたときは、他の友達と一緒に行くのかと思ったらまさかの先輩の付き添いとはな。

しかも、イチャイチャされている横で、俺と彰が警戒しないといけないのかよ……。


ダンジョン舐めんな!

……といいたいけど、先輩にはいつもサークルで世話になっているからな~。

はぁ~、しょうがない。

今日は、諦めて予行練習と思って割り切るか……。




▽    ▽    ▽




Side 五十嵐颯太


本日午後一時、北海道ダンジョンと秋田ダンジョンが民間に開放された。

それと同時に、ダンジョンにはたくさんの人たちが入っていった。


ダンジョン前の町は大盛況で、ダンジョンに入る人たち以外の人も来ていたらしい。

さらに、各局の中継も行われていて、日本中が盛り上がったようだ。


ただし、それはダンジョン開放から三時間ぐらいの間だけの話だ。

三時間後、ダンジョンから血まみれの人たちが運び出されてからは、その様相を一変してすぐにダンジョンも町も閉鎖されてしまった。


それからは、日本中からバッシングが相次ぎ日本政府は謝罪に追われてしまう。



『こちら、現在封鎖中の秋田ダンジョン前です。

本日午後一時から、ダンジョンが解放されましたが、来場者が多すぎて装備を整えられていなかった学生がダンジョンに入ってしまい、重傷を負うということがありました。

さいわい学生たちは、命に別状はなかったものの、政府は安全面での配慮が足りなかったと謝罪し、安全面の見直しのために、一時的にダンジョンを封鎖するとのことです。

また、今回……』


俺はテレビから流れるニュースを聞きながら、リビングのソファでくつろいでいた。

夜遅くのニュースでも、夕方と同じような内容で繰り返している。


「颯太、もう寝なさいよ~」

「は~い、これ終わったら寝るよ~」

「……」

「何? 母さん」

「いえ、今日はこのニュースばっかりねぇ」

「しょうがないよ。

ダンジョン開放してみれば、民間人に重傷者が出たんだから」

「ダンジョンパークなら、すぐに回復できたのにね~」


ダンジョンパークは、異世界の冒険者ギルドなどの知識や経験が役に立っているからね。

ちゃんとしているんだよな~。


「政府は、今回の事故の反省を生かして再開させるのかな?」

「ん~、たぶん再開はすると思うわ。

でも、反省を生かせるかは運営を任されている企業の力次第かしら……」

「運営か……。

確か、政府主導の企業だったっけ?」

「そうなのよねぇ~」


大丈夫かな?

ダンジョン企画にも、何度か研修に来ていたって聞いたけど教わるって人たちの態度じゃなかったって父さんが文句言ってたっけ……。


『政府は再開を急いでいるようで、ダンジョン企画に協力を要請しているようです。

……次のニュースは……』


俺は、一緒にニュースを聞いていた母さんの方を見ると、母さんは驚いた表情をしていた。

……どうやら協力の話は、初めて聞いたらしい。


本当に、どうなっているんだか……。




▽    ▽    ▽




Side ???


「今日は、びっくりしたな~」

「ああ、俺たちの前に並んでいたあの高校生たちが、運ばれていったんだろ?」

「先輩も、彼女さんも唖然としていたからな~」

「まあそのおかげで、ダンジョンが一時的に閉鎖になってしまったんだが……」


でも、そのおかげで先輩のイチャイチャ攻撃から解放されたんだし。

重傷を負った高校生たちには申し訳ないが、俺としては助かったよ……。


「彰、今度こそは、友達だけで行きたいな」

「だな。次は翔太たちを誘っていこうぜ~」

「ああ、ダンジョンが再会される日を楽しみにしているよ」


あ~、ダンジョンが早く再開するといいな~。






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