第353話 アメリカの方針



Side 五十嵐颯太


『こちらが、明日、民間に開放される秋田ダンジョンです。

こちらのダンジョンを管理運営するのは、ダンジョンパークを運営しているダンジョン企画さんではなく、日本政府主導で設立された、ダンジョン運営企業ダンジョン日本とのことです』


朝食前のリビングでテレビをつけると、朝の情報番組をしていた。

その番組内で、新人の若い女性アナウンサーが、明日開放予定の秋田ダンジョンの紹介をしている。


また、ダンジョン日本の広報の男性が出て来て、秋田ダンジョンの全容を紹介していた。


『こちらが、ダンジョンパークを参考に作られた探索者ギルドですね?』

『はい、ダンジョンに潜るためには、ここで探索者として登録していただき、ダンジョン前の町に入るようになります』

『なるほど~。

では私も、登録してみましょう。よろしいですか?』

『はい、わかりました。

ではこちらのカウンターで、登録をお願いします』


そう言いながら、広報の男性がカウンターに案内する。

カウンターには、受付嬢が待機していて探索者登録に関する手順を紹介してくれる。

アナウンサーは、実際に登録するわけではないようだ。


登録の手順を紹介し終わると、広報の男性とアナウンサーは連れ立って次の場所へ移動していく。

次は、町の入り口にあるゲートだ。


ここは、ダンジョンパークと同じになっているんだよな。


「父さん、これってダンジョン企画が協力しているの?」

「おう、協力しているぞ。

ダンジョンに関しては、ダンジョン企画がすでにマニュアル化しているからな。

参考までにと言っていたが、こう見るといろいろとパクっているな……」

「まあ、それはしょうがないよな……」


ダンジョンの管理運営は、ダンジョン企画の方が先達だからな。

参考という名のパクリでもおかしくはない。


それから、ダンジョン前の町の様子も映し出されるが簡単な紹介で終わった。

武器屋があるとか、防具屋があるとか、道具屋があるか、な。

これは、ダンジョンパークの町と被るところだからなのかもしれないな……。


そして、町中を通り抜け大きな洞窟の前に到着する。


『井上さん、ここが秋田ダンジョンの入り口ですね?』

『はい、ここからが秋田ダンジョンということになります。

この先に行くには、あちらのゲートに登録カードを提示していただいて入ることができるわけですね』

『へぇ~、すごい大きな洞窟ですね~』

『高さ五メートル、横幅三メートルですので、車で入ることもできるんですよ。

大量の荷物があっても、運び込むことが可能なのです』

『それは、便利ですね~』


……便利かどうかは疑問だが、車が入るのは珍しいかもしれない。

でも、魔導力の車なんかが走るならわかるが、自動車が、ねぇ~。



「朝食の用意ができたよ、お父さん、お兄ちゃん」

「お~う」

「はいはい」


俺はテレビのスイッチを消し、テーブルに着く。

いつもの通り、家族そろって朝食を食べる……。


それにしても、ダンジョンから魔物が溢れ出てから約二か月。

いまだに、ダンジョンパークに避難している人はいる。

ただ、被災地となったダンジョン付近の場所は、国が土地を買い取ってダンジョン運営に力を入れている。


被災者へのケアや保証金など、今回は国が主体となってやっていた。

地震の時の被災者への補償などは、少し力の入れ方が違うようだ……。


まあ、国のやることだからな。

痒いところまで手が届くとはいかないと思うが、できるだけ細かいところまで手を届かせてほしいものだな……。




▽    ▽    ▽




Side 五十嵐颯太


コアルームで、ダンジョンパークの報告をミアたちから聞いていると、ソフィアがコアルームに入ってきた。


「マスター、アメリカの野良ダンジョンが民間に開放されることが決まりました。

それに伴い、アメリカのダンジョンパークを政府が買い取るという話が来ているのですが……」

「え? ミア、何か聞いてる?」

「えっと……、あ、ダンジョン企画から来ていました。

こちらですね」


机の上にあった書類の中から、三枚ほどの書類封筒を取り、俺に手渡してきた。

三通も来ていたのか……。

一つ一つ、封筒を開けて中の書類に目を通す。


すると、アメリカの野良ダンジョンの解放の話から、ダンジョンパーク内にある町をダンジョンの側に移築するとの話が書かれてあった。

だが三通目の書類には、議会での話し合いにより移築よりもダンジョンパークの引っ越しで経費を少なくできないかということだ。


「……アメリカの経費削減のために、ダンジョンパークの引っ越し?

それなら、例のレベル制のダンジョンコアを使って町を作った方がいいんじゃないかな……」

「ですね。

アメリカには、そう提案しておきましょう。

もし断るようなら、アメリカダンジョンパークの撤退も考えたほうがいいかもしれません」

「撤退か……」


俺は、少し神妙な表情で撤退について考えた。

もしこのまま、野良ダンジョンが地球に増えればダンジョンパークの存在意義がなくなるような気がする。


ファンタジーを地球で味わえるようにと、ダンジョンパークを開園したが、地球は魔素で包まれすでに魔法が使えるようになれる子供も生まれている。

このままいけば、ファンタジーが夢でなくなる日が必ず来る。


そうなれば、ダンジョンパークは必要なくなるだろう。

いや、その日はもうそこまで来ているのかもな……。


「マスター?」

「ん?」

「もし、ダンジョンパークを閉園するときは教えてくださいね」

「え?」

「ダンジョンパークを閉園しようとも、私たちはマスターとともにあります。

それに、地球がファンタジーの世界になろうとも、異世界と繋がっている場所はここだけです」

「あ、そう、だな」


そうだよな、地球がファンタジーな世界になろうとも、異世界と繋がっているのはここだけ。

地球と異世界を行き来できるのは、このダンジョンパークだけなんだよな……。


もうすぐ卒業するからと、少し考えすぎてしまったな。

それに、すぐのすぐ、ファンタジーの世界になるわけじゃない。

これからも、頑張ろうか!







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