第352話 量産化



Side ???


都内にある有名工業企業のオフィスがあるビルの七階、会議室。

ここに、ダンジョンパークの武器屋に買いに来た男二人が、この企業の重役と研究員の男女二人を前に座っている。


テーブルの上に、持参したスーツケースを置くと蓋を開けて中身を見せる。


「ほう、これがダンジョンパーク内で売られている武器か……」

「……どちらも、映画などで出てくる銃と変わらない形をしているんですね」

「持ってもいいですか?」

「はい、どうぞ」


持ってきた男が許可を出すと、研究員の女性は魔導銃の方を手で持ってじっくり観察する。

銃口のない銃の形状をしている。

まるで、玩具の光線銃のようにも見えるが、重量はズッシリとあった。


「これは、重いですね。

銃の重さは、命の重さとも言われていますが、なるほど……」

「こっちの銃は、軍などで使われているものと変わりませんね……。

ただ、弾が違うのか?」


拳銃からマガジンを取り出し、弾を外して確認する。

通常の弾丸とは、弾の形が違うようだ。


「なるほど、なるほど……」

「へぇ~、なるほど……」

「……あ~、どうかな?

うちで、再現できそうか?」


横で見ていた重役の男が、痺れを切らしたのか研究員の二人に聞いてきた。

それを聞いて、研究員の二人は答える。


「そうですね……、こちらの銃は再現ができると思います。

うまくすれば、量産も可能でしょう」

「「おお…」」

「ただ、こっちの魔導銃の方は難しいですね……」

「そ、そうか……」


重役の男は、少しがっかりした。

しかし、何が再現できないのか気になり、銃を持ってきた男が質問する。


「それで、どこが再現が難しいと?」

「まず、魔導銃には銃口がありません。

その代わりに、ここに宝石のような石がはめ込まれています。

おそらくこれが、魔石というものなのでしょう」

「さらに、この銃身の部分に……見てください」


研究員の女性が、魔導銃を解体して銃身の部分を見せる。

すると、そこには幾何学模様のような物が、淡く光っている。


「……これ、何でしょうか?」

「おそらく、これが魔法陣だと思われます」

「ほう、これが魔法陣」

「この魔法陣に、ここのマガジンにある魔力が供給されて魔法を発射することができるものと思われます。

また、ここの部分。この魔石……」


魔導銃の後ろの部分に、また魔石がはめ込まれている。

ただ、この魔石は小さく豆粒ぐらいの大きさしかない。


「赤い、ですな……」

「これが、火属性の魔石と思われます。

ですので、この魔導銃は火の魔法を撃ち出すものではないかと……」

「……では、この魔石を交換すれば…」

「ええ、別の属性の魔法が撃ちだせると思いますよ」

「ほう~、よくできているのだな……」


説明を終えた女性研究員は、魔導銃を元の状態に戻してスーツケースに戻した。

解体した魔導銃を、手際よく元の状態に戻したことで持ってきた男たちは安堵した。


「市川部長、この魔導銃は無理ですが、こちらの銃に関しては量産も視野に入れて大丈夫と思います」

「そうか……。

しかし、この魔導銃の量産は難しいのか?」

「はい、私たちでは…いえ、今の世界の名だたる企業でも、難しいと断言できます」

「そうか……」


研究員二人の意見を聞き、重役の男は考える。

ここで、再現可能な銃のみの研究を引き受け量産にこぎつけるか、それとも、魔導銃も研究対象にして研究費が大丈夫なのか……。


「市川部長、ここは魔導銃は専門の人を雇うというのはどうですか?」

「ん~、専門家、か……。

だとするなら、ダンジョンパーク内で人材を確保しないといけないんだが、あそこは日本の法律は働かないからな……」

「ですが、研究も再現もできないものをお金だけ使って研究するだけでは、きたるダンジョン開放に間に合いませんよ?」

「……よし、ここは我が社の力を見せてやるか!」


こうして、ダンジョンパーク内に魔導銃の量産工場を立てるために奮闘することになる。

また、対魔物用の銃火器の研究、量産も同時進行で行うこととなった。


ただ、こういう企業は他にもいるようで、政治家と繋がりのある企業がコネを使って動き始めた……。




▽    ▽    ▽




Side 五十嵐颯太


大学進学が決まり、いよいよ高校卒業まで暇になる今日、朝の教室で陸斗が新聞片手に騒いでいた。


「颯太! 颯太!」

「何だよ陸斗、朝から騒がしいな~」

「これだよ、これ。

北海道と秋田で、ダンジョンの民間開放が始まるって記事だよ!

知ってたか? 颯太」

「知ってるよ。

ダンジョン開放の件で、ダンジョン企画内でも騒いでいたからね。

父さんたちが、ぐったりしていたよ……」

「そ、そうか……」


ダンジョン開放に伴い、ダンジョン企画にいろんな企業やその企業と繋がりのある政治家たちが意見を聞きに押し寄せたらしい。

そのため、ここ最近まで朝からずっと会議会議だった。


中には、ダンジョンパークも開放したらどうだと、訳の分からない陳情もあったらしい。

というか、ダンジョンパークは民間企業のダンジョン企画によって運営されてますよ?

つまり、民間に開放されてます!


また、このダンジョン開放に敏感だったのが、例のダンジョンコアを持つダンジョンマスターたち。

ダンジョンマスターの中には、自身の正体を話して企業と協力するマスターも現れた。


そのため、他の企業もダンジョンマスターを採用するために好待遇を提示したりと、ここ最近は世間を騒がしていたようだ。


「それで、颯太は行くの?」

「北海道や秋田のダンジョンに?」

「そうそう。

敵情視察ってやつ?」


凛が、解放されるダンジョンがダンジョンパークのライバルになるとでも思っているらしい。

開放されるダンジョンと、ダンジョンパークは目的が違う。

だから、ライバルになることもないし人の流れが変わることもないと思う。


「必要ないよ。

元々の目的が違うからね~」

「そうなんだ……」

「ああ」


……大丈夫だよね?







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