第344話 避難要請
Side 五十嵐颯太
北の大国やその周辺の国々に魔物が出現し、それぞれの国で軍や人々との戦いが始まってから二週間がたった。
その間に、状況はどんどん悪くなっている。
もはや、世界中で魔物の出現報告があり、それぞれの国のニュース番組を賑わせていた。
そして皮肉なことに、魔物が出現してから人同士の争いは減少していったのだ。
「すでに世界中で魔物の目撃情報があり、世界中で魔物との戦いが繰り広げられています。この日本でも、自衛隊が武器を持って魔物と戦っています」
「日本でも、か……。
それで、この要請が来たのか」
俺は、ミアからの報告を聞きながら空中に浮かぶ画面で、世界中で魔物と戦う軍兵士の様子を映像で見ていた。
そして、机の上に一枚の紙を取り出す。
それは、日本国総理大臣からのダンジョン企画への要請状。
日本人たちを、ダンジョンパークへ避難させたいというものだ。
特に、魔物が出現している地域や自衛隊が戦闘をしている地域の人々の避難を優先してお願いしたいというもの。
ダンジョンパーク内に避難することは構わないんだが、日本人全員を受け入れるには今のダンジョンでは狭いんだよな……。
「受け入れるのですか?」
「受け入れるしかないだろう?
それに、使っていないダンジョンコアがあるからそれで、避難専用のダンジョンを造るよ」
例の、実験ダンジョンのダンジョンコアだ。
実験ダンジョンはすでに消してあるから、避難用のダンジョンを構築する。
ファンタジーダンジョンパークと、九州ダンジョンパークと繋げて行き来ができるようにすればある程度の食糧問題は起こらないはずだ。
後は、避難してきた人たちが住む住居だな。
まあ、住む場所に関してはまとめて住んでもらおう。
何かあった時、すぐに対処しやすいしね。
それとダンジョンは、一階層から三階層までを住居階層として開放して、四階層以下を食糧事情解消のために使うか。
俺の造るダンジョンは、基本魔物の出現はない。
まあ、そこだけは他のダンジョンと違うところかな……。
「とりあえず、ダンジョン企画を通して避難民の受け入れを了承する。
問題は、世界の方だな……」
「この二週間で、世界中に魔物の出現が確認されました。
それぞれの国の軍で対応していますが、息切れする国が出てきてもおかしくありません」
「そうなれば、その国の人々の安全が無くなると……」
「はい。
それと、アメリカ政府からダンジョン企画へお願いがきています」
そう言うと、ミアは一枚の紙を俺に差し出す。
全文英語で書かれたその紙は、アメリカの大統領からの直々のお願いだった。
「お願いという名の要請状だな。
アメリカの人々を受け入れてほしい、か。
アメリカにあるダンジョンパークは、全員を受け入れることはできないだろう?」
「ダンジョンの構造自体が違いますからね。
アメリカにあるのは、ファンタジーの戦いを主に階層を構成してありますから、人々を避難させるには構造を改装する必要があります」
「ん~、ダンジョンを改造するには、一旦中にいる人々を出す必要があるんだが……」
「すでに、避難している人々もいますし、難しいかと」
どうしたものか……。
「あ、森島さんと冴島君に協力を要請して、避難できるダンジョンを増やしてみよう。
それに、冴島君のお友達の川田君もダンジョンコアを持っていたはず」
「……それでも、世界中の人々を避難させるには……」
「いや、避難じゃなくて戦うための後方支援場所に使うんだ。
銃火器の工場や、弾薬の工場とか必要じゃないか?
他にも、研究所とかね。
そして、最終的に地球から魔物を殲滅するか、共存していくか決めないと……」
「共存、ですか……」
「異世界では、当たり前に共存している。
地球だからって、できないことではないだろう?」
「魔物の存在が当たり前になるまで、いったいどれほどの犠牲者が出るのか……。
それに、人間だけではありません。
他の動植物も……」
そうなんだよな……。
地球に生きる、すべての生物が関係する問題になってしまったな……。
どう解決すればいいのか……。
▽ ▽ ▽
Side ???
すでに新しい年を迎えたというのに、すでにそれどころではなくなっている。
テレビのニュースでは、連日にわたって世界中で化け物が出現していると報道しているし、その国の軍の兵士たちが戦っていると騒いでいた。
この日本でも、憲法九条違反だと五月蠅く言う連中が黙るほど、自衛隊と化け物との戦いが激しくなっていた。
そこで、戦闘地域の人々を避難させることが国会で話し合われた。
で、ダンジョンパークがその避難場所に選ばれ、国からダンジョン企画へ要請が出て了承されたんだよな。
それで今、魔物による被害が大きい地域から住民の避難が開始されている。
「……でも、何でダンジョンパークへ避難するんだ?」
「隆、何言ってんだ?」
「いや、何で避難場所がダンジョンパークなのかな~って」
「そりゃあ、安全だからだろ?
それに、ダンジョンパーク内には衣・食・住がそろっているってのもあるんじゃねぇか?」
「なるほど……」
俺たちの地域も、化け物が出現して暴れまわっていて犠牲者もたくさん出た。
それに対応するために警察が出てくるも、抑えることはできなかった。
そこで、自衛隊の出番となったのだ。
軍事行動だと、国会ですぐに問題になったが自衛隊と化け物との戦いが世間にテレビで報道されると国民によって反対派が黙らされた。
それほどまでに、自衛隊と化け物たちとの戦いは衝撃だったのだ。
俺も、テレビで見て衝撃を受けたんだよな~。
銃や戦車など近代兵器で武装した自衛隊に対し、化け物たちは剣や棍棒、そして魔法を使って襲いかかってきたんだ。
魔法だよ魔法!
何もない空中から、火だの雷だの氷だのが出現して襲いかかってくるんだ。
それに対して、自衛隊が必死に銃や手榴弾を使い、戦車や戦闘ヘリで攻撃をする。
お互い生か死かの戦いが繰り広げて、報道のカメラマンが必死にそれを撮影していた。
まさに、衝撃だったな……。
「隆! 次、俺たちの番だぞ。
ぼーっとしてないで、受付を済ませようぜ」
「あ、ああ、そうだな……」
俺たちは今、ダンジョンパークに入るために受付登録の列にいた。
俺たちの故郷は、化け物たちに襲われ避難してきたのだ。
俺の家族は全員無事だったが、隣にいる友達の家族は一時行方不明になってた。
でも、避難が開始されるって時に無事であることが分かったんだよな。
すでに、ダンジョンパークに避難していて友達がくるのを待っているらしい。
「ほら隆、順番が来たぞ」
「おお」
これから俺たち、どうなるんだろうな……。
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