第342話 ファンタジーの牙



Side 五十嵐颯太


コアルームでエレノアの報告に、俺の理解が追いつかなかった。

どういうことだ?


「……繋がったって、どういうことだ?」

「そのままの意味よ。

天界の門と魔界の門は、異世界側にある天界の門と魔界の門に繋がったのよ」

「いや、それは分かったけど……」


困惑する俺の態度を察して、ミアがエレノアに言う。


「エレノア、マスターはどう繋がったのか知りたいのよ。

このダンジョンにある二つの門と、異世界側にある二つの門がどのように繋がったのか」

「あ、なるほど」


エレノアは、ミアの意見で納得して説明してくれた。


「マスターは、天界がどういうところか知っていますか?」


天界? 確か、ガブリエルが天使たちを押し込んだ後、様子を見るために覗いたことがあったんだよな。

その時の天界は、きれいなところだったって印象だったな……。


「この間覗いたときに見たけど、きれいな場所だったな。

地表はすべて海になっていて、陸地はすべてが浮遊しているんだよね。

自然あふれる浮遊大陸が浮かんでいて、色とりどりの花が咲き誇る花畑があったり、神殿のような建物が数多く建っていたりするんだよね」

「そうです。

そして、天使や大天使が仕事をしていて、それを指示するのが神や女神といわれる方たちです。

召喚によって呼び出された天使も、天界では一般の天使として扱われ、紙や女神の監視の元で仕事をさせられるようです」

「悪魔と戦おうとしていた天使たちが、あんなに大人しく仕事をしている姿は、目を疑ったよ……」

「その天界に、扉がある神殿を確認しました」

「扉?」


確か数ある浮遊島の中に、神殿が一つだけ建っていた島があったな。

そしてその神殿の中に、大きな扉が一つだけあった。

珍しかったし、他の神殿と違っていたから印象に残っている……。


「確かに、扉があったな……」

「その神殿に、もう一つ扉が出現して、ダンジョンの扉と繋がったのです」

「……なるほど、繋がるというのはそういうことか。

って、それってかなりまずいことじゃないの?」

「まずいことです。

しかもそれが、魔界の門でも起きているのです」


魔界の門でも起きたってことは、魔王に何か言われそうだな……。

異世界側の天界の門にも、門番がいたし……。


俺は、頭を抱えて考えてしまう。

異世界側に、どう報告したらいいのか、と。


ちなみに魔界も、天界と同じように陸地は浮いている。

だがそれは、地表が赤い海で覆われているためで、その海から魔素が生まれているらしい。

まあ、魔界について書かれた書物からの知識だから本当のところは知らない。


ガブリエルや、ミアたちは見せてくれなかったしな……。


しかし、繋がったとなると、地球で召喚された天使や悪魔が、異世界側へ出ていくことも可能ということになる。


「ということは、魔王も知っているってことか?」

「その、魔王ディスティミーア様から知らせてきたのです。

当然、知っているということでしょう」

「……」


再び頭を抱えてしまう。

これはすでに、何かしらあったということかもしれないな……。



俺たちが、繋がった二つの門のことを話し合っていると、ソフィアがコアルームに飛び込んできた。


「マスター?!

あ、ここにいましたか、マスター……」

「そんなに慌ててどうしたの? ソフィア」

「……エレノア、落ち着いている場合じゃないわよ!

マ、マスター! 大変です!」


こんなに慌てたソフィアは、珍しいな。

いったい何があったんだ?


「どうしたんだ?」

「ニュース! 日本のテレビのニュースを見てください!」

「ニュース? それも日本の?」


俺は、コアルームの操作盤を取り出して操作すると、空中に画像が映し出される。

そして、日本のテレビに接続するとちょうど、ニュースをしていた。


『見えるでしょうか?

現場は大変危険ということで、ドローンで撮影している映像をご覧になってもらっています。

分かりますか?

現在、北の大国の首都であるモルクワは、謎の怪物たちに襲われています!』


真面目な声で、淡々と現在どのような状況なのか実況している。

映しだされる映像には、逃げる人々や襲われる人々、そしていろいろな化け物が映し出されている。


ドローンの上空からの映像ではあったが、怪物がどんなものかはよく分かった。


「……これは、スタンピードのようですね」

「スタンピード?

数多くの魔物による暴走か?

ファンタジー漫画やアニメによくある……」

「はい、その認識で間違いありません。

ただ今回は、それが現実に、しかも地球で起きたということですが……」


映像を見ながら、俺とミアは冷静に話し合っている。

そこへ、実況しているアナウンサーの声が響く。


『ああ! 今、北の大国の軍隊が攻撃を開始しました。

住民たちを避難させるために、軍を導入したようです!』

『相模さん? ミサイル等は使われていないんですか?』

『……はい、ミサイルは使っていないようです。

やはりここは、国の首都ですからミサイルで簡単にとはいかないのだと思います』

『分かりました!

また、中継すると思いますが一旦スタジオに戻します』

『……分かりました』


画面はスタジオに戻り、コメンテーターなどが自身の見解を言っている。

他のコメンテーターなどと話し合いながら、番組は進んで行った……。


「魔物のことを言っているコメンテーターは、いなかったな……」

「やはり、ファンタジー的発言はまずいと思ったのではないでしょうか?」

「だが、映像に出ていた魔物は、ゴブリンやオーク。

それに黒い狼や四本腕の熊など、魔物ばかりだっただろう」


映像には、その魔物が銃などの射撃で倒されるところまで映っていた。

というか、映像にはドラゴンらしき魔物が映っていたみたいだぞ?


「ソフィア、スタンピードの発生場所は分かるか?」

「え~と……、ここだと思うわ」


操作盤を操作し、空中に地図を映しだすと、ソフィアは指で襲われている都市から東をなぞっていきある場所を指した。


「……ここって」

「はい、核ミサイルが収容されている軍事基地の一つです。

例のある国に打ち込まれた核ミサイルの、発射場所……」

「……」


つまり、ファンタジー世界の仕返し……?






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