第340話 密売人の仕置き
Side ???
ドイツのザクセン自由州の州都ドレスデンにある民家の一室で、二人の男が金を数えていた。
通常であれば、スマホ一つで決算できるのだが、扱っている品が品なため現金での取引にしていたのだ。
「マーク、そっちはどうだ?」
「ああ、帳簿の通りの金額だよオーランド。
ごまかしとかは、一切無い」
「よし、それじゃあ、売り上げから十パーセントを引いた金額が俺たちの取り分だ。
いくらになる?」
「ん~、六万七千五百ドルだな。
後は、元締めに納めて来月ってところか……」
鞄に、残りの売上金を詰めていると、部屋に誰かの気配がした。
マークは、ふと気になって周りを見渡すが、ビジネスパートナーのオーランド以外誰もいない。
変だなと、首を傾げながら立ち上がり、部屋を出るためにドアに手をかける。
すると、ノブが回らない。
ガチャガチャと弄るが、ドアが開くことはなかった。
力ずくでドアを開けようとするが、ビクともしない。
「どうなっているんだ?」
「どうした? マーク」
「いや、ドアが開かないんだよ。
ノブも回らないし……」
「建付けが悪いのか?
……まあ、この家もかなり古いからな……」
そう言いながら、マークの前にあるドアに向かい、開けようとノブに触るが回すことができなかった。
「あれ?」
「な?」
思いっきり押したり引いたりするが、ドアが開くことはなかった。
その時、マークたちの後ろから女性の声が聞こえた。
その声に、マークたちはすぐに振り向くと美しいブロンド髪の女性を見つける。
今までマークが座っていた椅子に座り、鞄の中に入れていた紙幣の一部を取り出して見ている。
『なぁ、このお金、どうすんだ?』
「……誰だ?」
『俺か? 俺はルシファー。
言い伝えじゃあ、堕天使とか魔王とか呼ばれているらしいな』
「……」
マークは、ルシファーと名のる女に呆れていたか、オーランドは冷汗を流して警戒していた。何故なら、この部屋に入るための唯一のドアはオーランドの後ろにあるドアだけ。
後、この部屋に窓は無い。
何故ならこの部屋は、民家の地下にあるからだ。
なら、この女はどうやってこの部屋に入ってきた?
オーランドは、考えれば考えるほど目の前にいる女が恐ろしくなってきた……。
もしかしたら、本当に堕天使ルシファーかもしれないのではないかと。
『で、この金どうするって?』
「それは、仕入れ先に支払うお金だ。
間違いないように、今までかかって数えていたんだ。
っていうか、お前誰だよ!」
『さっき言ったじゃん。
ルシファーだって。耳、聞こえないのか?』
「女ッ!」
マークは、懐から銃を取り出しルシファーに向けて構えた。
その行動を見て、オーランドも同じように腰から銃を取りだして構える。
「いいから、その鞄から離れろっ!」
『へぇ、俺に銃を向けるとは、良い度胸してるよ……』
「ふざけんな!」
「待て、マーク!
女、聞きたいことがある。
お前、どこからこの部屋に入ってきた?」
『ん? どこからって……』
オーランドの質問を聞いて、マークが銃を構えたまま側に近づく。
「オーランド、何質問してんだ?」
「いいか? マーク。
あの女は、いつの間にかこの部屋にいたんだぞ?」
「それは……、俺たちが金を数えている時にでも忍び込んだんだろ?」
「ここは地下一階。
入り口は、俺たちの後ろにあるドアのみ。
それもノブを回すタイプだ。音も出る。
いくら金を数えるのに夢中になっていたとして、ドアが開くのに気づかいほどか?
それに今、後ろのドアは開かないんだぞ?」
「……」
マークとオーランドの二人が、ひそひそ話をしながら表情を青くすると、ルシファーがニヤリと笑った。
その笑顔に、マークとオーランドはゾクッと背筋が凍る。
『俺は魔王、どんな所でも入って来れるさ。
金庫の中だろうと、核施設の中だろうとねぇ~』
「ヒッ」
その時、オーランドは恐怖で銃の引き金を引いてしまう。
銃口から、三発の銃弾が発射され、ルシファーの顔に直撃した。
……しかし、弾はルシファーの顔にめり込むことなく弾かれる。
『……いッ、た~』
「………嘘だろ……」
「銃が、きか、ない?」
ルシファーは、少し涙目になって顔半分を右手で抑える。
『効かないわけじゃないぜ。
現に、弾が当たったところが痛いしな……』
「だ、だが……」
『傷つけることができない、ってだけだ』
「お、お前! 何しに来たんだ?!」
『フフフ、ようやく聞いてくれたか?!』
そう言うと、ルシファーは椅子から立ち上がり、二人の前まで歩きだす。
それに怯え、後ずさりするマークとオーランド。
「クッ」
「チッ」
『よくぞ聞いてくれた!
俺は、お前たち薬の売人を始末しに来たんだよ!』
「?!」
「だ、誰の命令だ!」
『命令じゃあない、お願いだ。
イシュタルという女神からのな!』
そう叫ぶと、ルシファーは黒い六枚の翼を背中に出現させ、大きく広げた!
マークとオーランドは、いきなり出現し、広げられた六枚の黒い翼に目を奪われる。
そして、すぐにマークとオーランドの目がら光りが消えた。
『フッ、地球の人間は操りやすいな。
すぐに俺の魅了にやられて、操り人形になる……』
銃を構えていた腕が降ろされ、銃が床に落ちる。
するとルシファーは、金の入った鞄をマークに持たせると、命令を告げる。
『お前たちは、この鞄を持って警察に出頭しろ。
その時、薬の売買ルートや入手ルートも詳しく教えるんだぞ?』
「はい……」
「分かりました……」
その返事を確認して、ルシファーは指を鳴らす。
すると、扉の鍵が外れ、開いた。
そして、ゆっくりとマークとオーランドは部屋を出ていった……。
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