第339話 後悔の時間
Side ???
ドイツのバイエルン州にあるミュンヘンの町で、ひっそりと営業しているカフェ。
その一角の席に、全身を黒で固めた男が本を読んでいた。
そこへ、一人の女性が向かい側の席に座る。
男は、チラリと女性を見て確認すると、テーブルの上に呼んでいる本とは別の本を置く。
それは、男が鞄の中から取り出した本で、赤い表紙をしていた。
向かい側の女性は、その本を手に取り中を確認する。
すると、本の中はくりぬかれていて袋に入った白い粉が収まっていた。
その袋を見て、女性はニヤリと笑みを浮かべる。
そして、自身の鞄の中から分厚い封筒を取り出し、男の前へと置いた。
男は、チラリとその封筒を確認すると頷く。
そして、女性は本を鞄の中に納めると、おもむろに立ち上がり店を出ていこうとする。
ところがそこへ、別の女性が出ていこうとする女性の腕を掴んだ。
「?!」
驚く、本を受け取った女性。
その女性を見て、腕を掴んだ女性は警告する。
『薬物に手を出すと、身を亡ぼすわよ~』
「!? だ、誰よあんたは!」
『善意の第三者よ~』
「ふ、ふざけるなッ!」
そう叫ぶと、掴まれた腕を振り払い鞄の中から銃を取り出し、銃口を向けて構えた。
その騒動を見た男は、すぐに椅子から立ち上がり、封筒を取ると裏口から逃げるために走り出す。
『逃がすわけないでしょ?』
「?!」
腕を掴んだ女性がそう言って、指を鳴らすと男が近づいた裏口が消えた。
「な、何だッ?!」
『逃がさないわよ、北康介』
その名を聞いて、男は驚いた表情で振り返って女を見る。
「なぜ、俺の名前を……」
「こっちを見ろ! 女!!」
『うるさい』
女は、銃を構える女を見て文句を言った後指を鳴らした。
すると、女の持つ銃が木の銃に変わる。
「な、何これ?!」
『撃ったら、あなたもケガをするわよ?』
「化け物がッ!!」
そう言って引き金を引き、木でできた銃が爆発。
だが、銃弾は女に向けて撃ち出される。
「キャアッ!!!」
『おっと~』
撃ち出された銃弾は、女が素早く避けて掴まれた。
そして、手に大ケガをして蹲る女。
その光景を見ていた男、北康介は膝から崩れ落ちる……。
「な、何なんだよ……」
そんな感想を呟きながら、カフェの店内を見渡すが、数人いる客は何事も起きていないように寛いでいた。
まるで、男たちの騒ぎが分からないような感じだ……。
「何で、誰も気づいてないんだよ……」
『私が、そうさせているからに決まっているじゃない~』
「ば、化け物か? あんた……」
いつの間にか、男の目の前に移動していた女は、男の目を見てニコリと笑う。
すると、男の目のハイライトが消える。
そして、男から表情が消えた……。
『さぁ、行きましょうか~』
「……はい……」
女が指を鳴らすと、男と女だけが消える。
そして、カフェ店内に悲鳴が響いた。
手を大ケガした女に、カフェの店員や客がようやく気付いたのだ……。
▽ ▽ ▽
Side ???
ドイツのザクセン=アンハルト州の州都マクデブルクにある倉庫の中には、三人の男たちが椅子に座って縛られていた。
だが、男たちは暴れたり怯えたりすることなく大人しくしている。
そして、男たちの後ろには、一人の女が立っていた。
『さて、後はあの姉妹だけですね~』
そこへ、倉庫の中に三人の女性がいきなり現れる。
ぼーっとして目の焦点の合っていない女性二人と、絶世の美女がニヤリと笑いながら男たちの後ろに立つ女を見た。
『イシュタル、前島姉妹を連れて来てやったぞ』
『あら、ルシファー。
こっちに来ていいの? あなたにはあなたのターゲットがいるんじゃないのぉ~?』
『細島きり江か?
あの女なら今頃、日本の警察に出頭しているころだぜ』
『さすが、ルシファー。
魔王といわれるだけはあるわねぇ~』
『フン!
で? こいつらを集めて、何するつもりなんだ?』
前島姉妹を、用意されていた椅子に座らせると近くに落ちていたロープで縛る。
他の男たちと同じように、椅子と一体となった。
『フフフ♪』
そう笑うと、指を鳴らして五人全員を正気に戻す。
が、ルシファーの連れてきた前島姉妹だけは元に戻らない。
「……は? こ、ここはどこだ……」
「な、何だ?!」
「!? !!」
三人の男たちは、周りを見渡しながら驚くが、前島姉妹はぼーっとしたままだ。
イシュタルは、ルシファーを見る。
ルシファーは、イシュタルの視線を感じ取り、同じように指を鳴らして前島姉妹を正気に戻した。
どうやら、イシュタルとルシファーの使う魔法が違うようで、お互いの魔法に干渉できないらしい。
「はぇ?」
「わ、私、どうして……」
『は~い、みなさん! 注目してくださ~い』
イシュタルがそう言うと、椅子に縛られている五人全員が一斉に、イシュタルを見る。
そして、イシュタルを見た男たち三人は、目を見開いて驚き体を動かして少しでもイシュタルから離れようとした。
だが、椅子に縛られているため藻掻くだけで動けなかった。
だが女たちは、イシュタルよりもその側にいるルシファーに驚き、同じように逃げようとするものの、藻掻くだけで動けなかった。
「ヒッ!」
「な?!」
「ヒィィ!!」
「嫌ぁ!!」
「ヒィッ!!」
五人のそれぞれの反応を見て、ルシファーはイシュタルを見る。
『イシュタル、一体どんな捕まえ方をしたんだ?』
『それは私のセリフですよ?
あの姉妹の怯え方は、尋常ではありません』
『……ま、まあ、いいじゃねぇか。
それより、こいつらどうするんだ?』
『フフフ、もちろん楽しい楽しい後悔の時間ですよ~』
悪魔のような笑顔に、さすがのルシファーもドン引きである。
これから始まることに、ルシファーは見なかったことにしようとここに誓った……。
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