第338話 マレーシアで



Side ???


マレーシアのクアラルンプールにある豪華なホテルに、一人の女性が入ってきた。

回転ドアを潜り、大きなロビーを進みフロントへ移動する。


『いらっしゃいませ』

『サエコ・マミヤの部屋を教えてくれるかしら?』

『あの、どういったご関係でしょうか?』

『ビジネス相手よ。

契約のために、部屋に来てほしいと言われているの……』


その時、訪ねた女性の目が赤く光る。

その目を見たフロントスタッフは、瞳の光を無くす。


『…そうでしたか。

え~と、サエコ・マミヤ様のお部屋は、2078号室になります』

『ありがとう』


そう言って、指をパチンと弾いた。

すると、スタッフの男の瞳に光が戻る。

そして、周りを見て何事もなかったかのように仕事に戻った。


女性はスタッフの男が元に戻るまでに、エレベーターフロアへと移動していた。

自身が乗るためのエレベーターを待ちながら、女性は笑みを浮かべる。


『フフフ、俺に掛かれば人を操るなど簡単だ……』


ポンッという音とともに、エレベーターの扉が開き女性は中に乗る。

そして、目的の階へ向かうのであった……。




▽    ▽    ▽




Side ???


2078号室の前に、一人のホテルスタッフの女性が立っている。

そして、ノックを二回した。

すると、中から女性の声が聞こえてきた。


『は~い、どちら様?』

『ホテルスタッフです。

マミヤ様宛てのお荷物をお持ちしました』

『ドアの側に、置いてくれる?』

『畏まりました』


そう言うと、小型の段ボール箱をドアの側に置き、ドアに向かって声をかける。


『では、失礼いたします』


そう一礼して、ドアを離れていった。

それを、ドアについているレンズから確認した女は、ドアを開けて荷物をとろうとして腕を掴まれた!


女は、腕の持ち主をすぐに確認すると、先ほどこの荷物を置いていったホテルスタッフの女だ。


「何を?!」


女は、腕を掴まれたまま部屋の中へ押し込まれると、部屋の中に転がされる。

床に勢いよく倒されて、腕と頭を打ってしまう。

だが、その痛みを忘れるほど怒りがこみあげていて、ホテルスタッフの女を睨んだ。


「何をするッ!!」


睨んだホテルスタッフの女は、ドアにカギを掛けてこちらを見る。

倒した女を見たホテルスタッフの女は、笑っていた。

いや、笑みを浮かべていたといったほうがいいだろう。


『ククク、サエコ・マミヤ。いや、本当の名は細島きり江、か』

「?! 何故その名を……」

『お前の居場所を教えてくれた奴がいてな……』

「! 組織に裏切り者が?! いや、組織にもここは教えてないはず……」


困惑するきり江。

ゆっくり立ち上がりながら、ホテルスタッフの女を睨みつけている。


「貴様、日本の警察関係者か?

それとも、別組織のヒットマンか?」

『どちらでもないよ。

俺は、お前にとっては死神だろうから、なッ!』


そう言い終わると、素早くホテルスタッフの女はきり江に近づき、首を左手で掴んでゆっくりと持ち上げた……。


「がァ、ア、ああ、あァァ」

『フフフ、もうこんな姿をする必要はないな……』


そう言うと、ホテルスタッフの女の姿から絶世の美女の姿へと変わる。

目を見開いて驚くきり江。

南米風の美女に姿を変えるが、女の瞳だけは真っ赤に染まって不気味だった。


その瞳を見つめるだけで、きり江は体の芯から凍えるような感じになる。


『俺の名はルシファー、お前たち人間からは魔王と呼ばれているものだ』

「ま、ま、おう……」

『安心しろ、俺の召喚者がお前を殺すなとの命令だ。

だが、お前の組織のことやこれからのことは保証しないが、なッ!!』

「!!!」


きり江は、ルシファーの目を凝視して意識を失った。

だが、きり江の肉体はルシファーによって操られることになる。


左手を離し、きり江を解放する。

すると、その場に崩れ落ちる。


『立て、きり江』

「はい……」


虚ろな瞳をしたまま、きり江はゆっくり起き上がる。

そして、ゆっくり立ち上がった。


それを確認した後、ルシファーは部屋にあるテーブルに移動して、その上に紙の束を置く。

もちろん、書くためのペンを何本か一緒に置いた。


『さあ、きり江。

お前の組織のことを、この紙に詳しく書いて説明しろ』

「はい、わかりました……」


ゆっくりとテーブルまで移動して、備え付けの椅子に座る。

そして、用意されたペンを持ち、紙に自身の組織のことを詳しく書き始めた。

もちろん、ルシファーに説明することも忘れていない。


ルシファーは、その説明を録音しながら黙って聞いている。



そして、一時間ほどの説明が終わると記載している方も終わった。

ペンを止めて、きり江は報告する。


「説明、記載、ともに終わりました……」

『よし、ではこれからお前は日本に帰り、警察へ出頭するのだ』

「はい、わかりました……」


そう言うと、ゆっくり立ち上がって部屋にあった荷物をまとめ始める。

しばらくして、服も着替え終わり、きり江はホテルの部屋を出ていった。

ルシファーをその部屋に残して……。


『……時間もまだ間に合うな。

これで、召喚者からの依頼は完了だ。

まったく、こんな簡単なことに俺様を使うとは……』


部屋の時計を見ながら、ルシファーは自身の行動力に感心する。

これで、俺は召喚者からの依頼は終了だ。

漸く、この身体ともおさらばできると喜ぶが、一つ忘れていることに気づいた。


『しまったッ?! あの女の全財産を、被害者に返金させるのを忘れていた!

クッ、クゥ~……』


悔しそうに唸ると、すぐにホテルの部屋から出てきり江を追いかけた。

もちろん、部屋を出る前に自身の姿を変えてからだ。






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