第331話 闇バイト



Side ???


都内にある大型スーパーの駐車場の一角、そこで私は待ち合わせをしている。

手には、黒い革製のバッグを持っていた。

顔がバレないように、サングラスに大きなマスクをして立っている。


寒くないように、少し着ぶくれてはいるが目印の赤いマフラーが目立っていた……。



しばらくしてそこに、白いバンが横付けされる。

そして扉が開き、金髪の男が声をかけてきた。


「今日もご苦労様、彩ちゃん」

「……」

「返事ぐらいは返してほしいねぇ~。

まぁいいや。で、例のものは?」

「ん」


私は、手に持っていた黒の革製の鞄を男につき出す。

金髪の男は、ニヤニヤしながら鞄を受け取り中身を確認する。


「……目的のもので間違いない。

それじゃあ、次の獲物はコレだ。お父さんのために、頑張りなよ?」

「クッ?!」


私は、金髪の男に睨みつける。

こんなやつらの言うことを聞かなければならない、自分にも腹が立つ!

こんなやつらに騙された、父親にも腹が立つ!

こんなやつらに! こんなやつらに!!


金髪の男は、ニヤニヤしながら車のドアを閉めて走り去っていった。

私の手には、次の場所が書かれた紙が握られている。


私の従魔を、ケットシーの能力を、こんなことのために使いたくない。

そんなことを考えていると、涙が出てくる……。


私は、俯いていた顔をあげて歩き出した。



先月、闇バイトに応募してしまい今の状況になっている。

通常のバイトを紹介している冊子を見て応募したのに、なぜかその応募先が闇バイト先で私の個人情報が漏れていた。


そして、詐欺の受け子や売春を紹介されそうになった時、私が九州ダンジョンパークでケットシーをテイムしていることを知られ、ドロボーをすることになった。


もし断れば、弟はもちろん、両親にも危害が及ぶと脅され、嫌々ながらもドロボーをする羽目になった……。


何度も辞めよう、警察に行こうとするのだが、その度に私を監視しているのか、連中の手の者が現れるのだ。

何度か、襲われそうになったこともある。


私はこのまま、こんなことを続けなければならないのだろうか……。




▽    ▽    ▽




Side ルナ


私の目の前には、例の怪盗となっていたケットシーがいます。

どうやら、私が目印のために付けていた虫ゴーレムに気づいていたようですね。

こんな、繁華街の裏路地に誘い込むのです。


何か理由があるのでしょうか?


「まずは、自己紹介にゃ!

吾輩はケットシーのサスケ、ご主人様のことであんたに頼みがあるにゃ!」

「私は、ダンジョンマスターの従者ルナ。

ダンジョン巫女の一人です。

それで、私に頼みとは何ですか?」


ケットシーのサスケが驚いています。

どうやら私を、ダンジョン巫女の一人とは思わなかったみたいですね。


「お願いにゃ! ご主人様を助けてほしいにゃ!!

ダンジョン巫女様なら、ご主人様の今の状況を何とかしてくれるはずにゃ!!」

「……詳しい話を聞きましょう」


そう言うと、嬉しそうな顔をしてサスケのご主人様のことについて話してくれました。

闇バイトなるものに騙されて、犯罪に手を貸していること。

警察に出頭しようとすると、犯人たちに脅され家族の危険をチラつかされること。


何とかしようと足搔くものの、監視する者がいてどうにもならないことなど、いろいろと話してくれました。


「お願いにゃ! 連中をどうにかして、ご主人様を解放してほしいにゃ!!」

「……」


私は考えます。

もしかすると、このケットシーはウソを言って煙に巻こうとしているのではないか?

それとも、言っていることが事実で本当に困っている状況なのかもしれない、と。


……私では、判断ができません。

ここは、マスターの意見を聞きましょう。

そして、ミアたちの意見も聞いた方がいいでしょうね。


「分かりました、こちらで調べて対策を立てましょう。

もうしばらく、我慢してください。

私たちが、何とかしてみますので」

「よ、よろしくお願いしますにゃ!!」


満面の笑みで、私に頭を下げて喜んでいます。

私が、ダンジョン巫女ということで信用しているのでしょうか?

それとも、ミア様たちの実績が従魔たちにも周知の事実として知れ渡っているのでしょうか?


とにかく、まずはマスターに相談です……。




▽    ▽    ▽




Side セーラ


大型スーパーから、一時間ほど離れた場所にある住宅街。

そこに、三階建ての家があります。

どうやら、この家が買い物に来ていた風の精霊の住処らしい。


気配を消し、姿を消して家に近づきました。

すると、女の子たちの声が聞こえてきます。


『レイジ~、このお菓子はうまいな!』

『そうそう、僕たちの好みが分かっているなんて、今夜は寝かせないぞ!』

『バ、バカ! そんなことを大声で言うなよ?!』

『おお~、照れてる!』

『『『あはははは!』』』


楽しそうな声が聞こえてくれけど、レイジという人以外全員女の子のみたい。

それに、レイジという人は、全員と関係を持っているようです。


私は、玄関から庭に移動してリビングらしき場所の窓に近づき、中の様子をうかがう。

すると、何かに気づいた一人が私に向かって声を荒げた。


『誰だ! 庭にいるのは分かっているんだぞ!!』

『え? どうしたウィンリィ、庭に誰かいるのか?』

『うむ。今、空気が動いた気がしたんだ!』

『空気がって……』


レイジという人が、窓に近づきカーテンを思いっきり開ける。

……だが、私の姿は見えず庭には誰もいない。


『誰もいないみたいだぞ?』

『おかしい……』


じっと、中にいる女の子たちが私の場所を見る。

私のいる場所が怪しいことは気づいているが、姿が見えず困惑している感じだな。

このまま、じっと動かずやり過ごそう……。


『……もういいかな?』

『待て! 何かが動いた!

隠れていないで出てこい!! さもないと……』


そう言って女の子の一人が、魔法で攻撃するために詠唱を始めた。

まずい! このまま魔法を使わせるわけにはいかない!


そう焦った私は、消していた気配と姿を現した……。







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