第311話 嵐の前の平和



Side 五十嵐颯太


森島さんたちとの報告会が終わり、それぞれの日常に戻ったある日の学校で、陸斗がある情報を持ってきた。


「陸斗、こんな情報、どこで仕入れてきたんだ?」

「隣のクラスに、中学の時からの友達がいるからな。

そいつから仕入れてきたんだ」

「朝、いつもどこに行っているのかと思ったら……」

「各クラスに友達がいるからな、挨拶だけは交わしているんだよ」

「マメね~、陸斗は」


凛が、陸斗のマメさに感心している。


「それにしても、ダンジョンに引きこもり……」

「な? 今、社会問題になっているらしいぞ?」

「ダンジョンの有効利用が模索されている時に、引きこもりに使われるとはね……」

「あと、ダンジョンマスターの間で狭いアパートも人気になっているらしい」

「……まあ、ダンジョンの出入り口が置ければダンジョン内は、東京ドーム一つ分の広さだしな」

「家賃の節約になるということね……」


今朝の情報番組でも、ダンジョンの利用状況が問題になっていたな。

少し前は、動画配信者が人気になっていたが、今や、ダンジョンマスターが人気上位になっているらしい。


ダンジョンマスターに成って、スローライフがトレンドとか?


「そういえば、動画配信にポーション売ってスローライフとかいう動画が配信されていたな……」

「ダンジョンマスターが増えて、各ポーションが売りに出されていたわね」

「医者要らずなポーションが、高値で取引されているぞ」


そう言って、スマホのオークションサイトを見せてくる陸斗。

病気治療用の回復ポーションが、数百万円で取引されていた。

他にも、ケガや欠損部位の治療など、多種多様のポーションがサイトに出回っている。


これも、ダンジョンマスターが増えてDPと交換して出品しているのだろう。

金などをそのまま出品、あるいは換金するとなると、いろいろ調べられるとかで今は敬遠されているが、そのうちお金に変えられるならと出てきそうだ。


いや、裏ではもう出回っているかもな……。


あるネットのサイトでは、DPの稼ぎ方なるものが載っているし、それで稼いだDPで交換して各種ポーションをサイトで売る。

そんなことをしていれば、生活に困らない。


……なるほど、ダンジョンマスターが人気職種になるのも分かる。

分かるが、何かが違う気がするのは俺だけだろうか?


「ちょっと前に話題になった、若返りポーションも高い値で取引されているのね……」

「対応策があるからな。

それで、若返りが安全だとなれば……」

「人気になるのも、しょうがないのか……」

「で、颯太は今の状況をどうにかしないの?」

「そう言われてもな~。

ダンジョンコアをばらまいた本人が、どれだけばらまいたか分からないっていうのだからどうしようもないな」

「対策なし、なのね……」

「今は、な」


そう、今はどうにもならない。

このまま、ダンジョンマスターが増えていき、人々の生活が変わっていくとは思えないからだ。

結局、今までの延長線上にしかない。


何か、とんでもないことが起きない限りは……。




▽    ▽    ▽




Side 冴島司


「司、そう言えば例のDP獲得の仕組みは、どうなっているんだ?」

「仕組み? そう言えば、そのままやったな。

五十嵐さんにも、DPが集まる仕組みをどうにかしておけって言われとったな……」


ダンジョンボードを出現させ、今のダンジョンの状況を確認する。

このボードには、世界中にばらまかれているダンジョンコアから送られるDPの数値が表示されている。


五十嵐さんに注意されて、何とかできないか調べていて何とかこっちに入るパーセンテージを極力少なくした。

最初一パーセントやったのを、今は0.01パーセントまで減らしとる。


「俺の所に入るのを切ることはできんかったけど、極力パーセンテージを減らしたんや」

「それじゃあ、今どれくらい入ってきているんだ?」

「え~と……、ん?」

「どうした? 司」

「……毎分DP一が入って来とる」

「毎分一?

ということは、一時間で六十。一日で千四百四十。

一週間で、一万八十。一カ月で、四万三千二百。一年で、五十二万五千六百か。

まあまあじゃないか?」

「アホ! パーセンテージ減らした言うとるやろ!

元のパーセントやと、今言うとった数字に百をかけぇ?!」

「百をかける?

ん~………、司、ヤバいんじゃないか……」

「せや、ヤバいんや?!

五十嵐さんが言うとった通り、何とか切る方法を探さんと……」

「これが、世界中にばらまいた結果か……」


今世間を騒がしとる、ダンジョンマスターたちがDPを稼ぐのに四苦八苦しとる中、俺は勝手に増えていくDPに恐ろしさを感じてしもうた。


こんな増え方、絶対したらあかんやり方やないか?

そんな罪悪感を意識しながら、俺はダンジョンボードを操作して何とかしようとしとった……。


『司~、クリスマスどうするん~』

「げっ?! 由香が来た!」

「司、そんなに驚くということは、何やらかしたんだ?」

「何にもやらかしてないで?!」


なぜか、うちに上がって俺の部屋に近づく由香にドギマギしてしまう。

それを浩に注意されて、なんか悪いことしたガキみたいやないか!


そこへ、俺の部屋のドアを開けた由香が現れた。


「司~! ……何や、浩もいたんか?」

「ああ、クリスマスどうするか話していたんだよ」

「なら、ちょうどええわ。

うちも、司や浩とクリスマスどうするか相談したかったんや」


由香は、そのまま俺の部屋に入ってきてコタツに入ってくる。

幼馴染やと、こんなに遠慮がないんやな~。


「で、クリスマスどないする?」

「他の友達も誘って、みんなでってどうだ?」

「ええな~、ケーキも食事も司が用意するんか?」

「何でやねん?!

俺だけに、用意さそうとすんな!」

「ええやん、今年はお騒がせしたんやし~」

「それは……」


今年もこうして、みんなで過ごすことになるんかな?

来年は、高校二年生や。

恋人に、由香はどうなんやろう……。







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