第310話 分かっている仕組み
Side 五十嵐颯太
「あ~、ダンジョンコア探索アプリ、ですか……」
「なんや、浩。
そのアプリに、なんか文句でもあるん?」
昨日から、世間を騒がせているダンジョンコア探索アプリの話になると川田浩君が嫌な表情をする。
何か、あるのだろうか?
「いや、文句はないんだけど、このアプリのおかげで司が大変なことに、な」
「あ~、それはええんや。
世界にばらまくダンジョンコアは、すでにぜ~んぶばらまいたからな」
「それじゃあ、何か問題があるの?」
「五十嵐さんは、司がばらまいたダンジョンコアの事、どこまで分かってます?」
「どこまで? 確か……」
冴島司君と川田浩君の間で、いろいろ制限をかけて造られたダンジョンコアだよな。
元は、異世界のダンジョンコアを模倣して造られた疑似ダンジョンコアを、さらに百に砕いて造られたコピーコアというのは分かっている。
砕いた理由は、疑似ダンジョンコアといえど地球人には魔力器官がないため、それを体に植えつけるためと育てるため。
さらに、ダンジョンコアにレベルを設けたのは、DPで交換できる品物のリストを制限するためと階層を制限するため。
つまり、レベルが上がるごとに階層が一つずつ増えるということだった。
一つの階層の広さは、通常が東京ドーム一つ分で、フィールド階層が東京ドーム四つ分だったか。
「……て、事かな」
「よ~知ってますやん。
だいたいあってますけど、一つだけ俺でも分からんことがあります」
「冴島君が、分からないこと?」
「はい。
それは、世界中にばらまいたダンジョンコアの総数です」
「え」
「ええ?!」
「司、知らんかったんか?!」
隣に座っていた森島さんに責められるも、冴島君は困った表情で森島さんを宥める。
「そ、それが、な?
世界中にばらまいた時の記憶がないねん。
浩とダンジョンコアのこと話しとった時から、由香に俺の部屋で胸倉掴まれて起こされた時まで記憶がとんどんのや」
「そうなのか……」
なるほど、つまり冴島君の記憶がない時というのは、黒いダンジョンコアに操られていた時というわけか?
冴島君の意識までのっとるとはな……。
「まあ、ダンジョンマスターに成ったとしても、コピーコアは世界中にばらまかれている。
そうそう高レベルのダンジョンマスターが誕生するとは、思えないけどね。
それにもし、高レベルのダンジョンマスターが生まれたとしても、問題はダンジョンをどうするかだろう」
「ですよね。
五十嵐さんのようなダンジョンパークを造る、とはいかないでしょうから……」
「有象無象のダンジョンの中で、どれだけオリジナリティを出せるかやな……」
「オリジナルなダンジョン……。
どんなダンジョンが出てきたとしても、似たり寄ったりってことやな」
ダンジョンをどこに出現させるか。
どんなダンジョンにするか。
どうDPを稼ぐか。
どんな利用方法をとるか。
そして、仲間を作ったりしてダンジョンの中にダンジョンを造るとか?
まあ、どんなダンジョンが出現しようとも、しばらくは混乱するだろうな。
「ところで、川田君。
君が手に入れたダンジョンコアは、異世界のオリジナルになるんだけどどうするか決めた?」
「はい、今三人で話しあっているところです。
三人の中で、自分のダンジョンを持っているのが由香だけなので、相談にのってもらってます」
そう言えば、人の住めるダンジョンを形成していたのって森島さんだけだったんだよな。
冴島君は、ダンジョンをほぼ物置のようにしていたんだっけ。
まあ、ゴミ捨て場としてダンジョンを使ってDPを貯めていたらしいから、しょうがないんだろうけど……。
……もしかすると、黒いダンジョンコアってゴミ捨て場として使っていた冴島君への、ダンジョンコアからの意趣返しだったのかもしれないな……。
▽ ▽ ▽
Side ???
どこかのビルにあるオフィスで、机に置いてあるパソコンと睨めっこしている女性がいた。
「時雨さ~ん、これ、計算間違えてますよ~」
「ええ~、その計算パソコンでしたんだよ?
間違っているわけないでしょ~」
「じゃあ、入力が間違っていたんじゃないですか?」
「……なるほど」
「じゃ、間違いを直して提出してくださいね~」
「クッ、了解」
「あ、それ、あと一時間で提出締め切りなんで、急いだほうがいいですよ?」
「ええ~?!」
時雨は、すぐに計算間違えしたと思われる資料を再確認する。
確か、このフォルダにあったはずだと探すが見つからない。
時間だけが、刻々と過ぎていった。
「うう~、この計算間違えした資料はどこ~」
半泣き状態で探すも、なかなか見つからない。
その時雨の様子を、後ろから計算間違いを指摘した女性が白い目で見ていた。
「まったく、毎日あちこち出かけるからですよ。
探索アプリの実験だとか何とかで……」
「まあ、あのアプリのおかげで会社の名前が売れたんだからそういじめてやるな」
「社長! 時雨さんを甘やかしてはいけません」
「そうそう、すぐに趣味に走ってしまうんですから……」
「あ~、今回の探索アプリも自分がダンジョンマスターに成ったから作った、だったか?」
「ええ、知り合いに頼み込んで作ってもらったとか」
「それにその知り合い、私たちに教えてくれないんですよ~」
「確かに、そんなすごい人なら、うちに引き抜きたいよな……」
白い目で見ていた女性の側に、会社の社長という若い青年が女性を宥めるも、周りの同じ女性社員が白い目で見ていた女性に同調する。
時雨は、自身の会社でも趣味に走る人で有名のようだ……。
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