第309話 四人で集まって



Side 五十嵐颯太


森島さんが、冴島君を救って一週間が経過した。

この一週間で、いろいろと世間が騒いでいたがその件も含めて森島さんたちが俺に面会を求めてきた。

これからのことを、俺に相談したいらしい。


そこで、ダンジョンパークの中にある喫茶店で会うことにした……。



ダンジョンパークに来園したとき、最初に訪れる町の中にある喫茶店『ぼるごん』の個室に、俺と森島さん、冴島君と川田君の四人が座っていた。


「あ、あの、改めて初めまして。

冴島司いいます。

この度は、由香にアイデアを授けてくれたそうで、ありがとうございました」

「そんな改めて、お礼を言われるようなことはしてないよ。

冴島君を救ったのは隣に座る森島さんだ。

お礼は、森島さんに、ね」

「もちろんです。由香にも何度も言いましたが五十嵐さんにもお礼が言いたかったんで」


テーブルをはさんで、冴島君が座ったまま頭を下げてお礼を言ってくれる。

さっき駐車場で待ち合わせして、初めて会った時もお礼を言っていたし、これ以上はいいんだけどね……。


それほど、嬉しかったということだろうか。


「あの、川田浩です。

この度は、俺のせいでこんな騒ぎになってしまい、本当に申し訳ありません。

それに五十嵐さんにも、大変お世話になってどうお礼をしたらいいのか……」

「あ~、川田君も、会ったときに謝罪とお礼を貰ったから、ね?

これ以上は、もういいから……」


俺は、彼ら二人の謝罪とお礼に苦笑いを浮かべた。

また森島さんは、私は関係ないと運ばれてきた紅茶を口にしていた。


「そ、それにしても、三人ともダンジョンパークに初めてとは知らなかったよ。

結構有名な場所だからね。

何度か、来たことがあると思ってこの喫茶店を選んじゃったんだけど……」

「いえ、気にせんといてください。

うちも一度は来てみたかった場所ですから……」

「俺も、あこがれていたんですよね……」

「そうそう、大阪からは遠いねんなぁ~」


なるほど、確かに大阪から一番近いダンジョンパークはないからな。

最初のダンジョンパークは関東より、九州ダンジョンパークも遠くて、アメリカダンジョンパークは論外か。


「でも、次のダンジョンパークは造りにくくなるんじゃないか?」

「何で? 司」

「いや、例のダンジョンコアの件はそのままにすることにしたやんか。

世界中にダンジョンコアがばらまかれてあって、急に消えたら大混乱になるからゆうて……」

「そうだよな……。

今あるダンジョンコアが急に消えたら、恩恵が無くなって大混乱だよな……」

「だからや。

だから、ダンジョンパークに来なくてもダンジョンがそこら中に出現することになるやろ?」

「まあ、DP稼ぐためにも増えるだろうね。

でも、このダンジョンパークにしかないものもあるんだよ」

「このダンジョンパークにしかないもん、ですか?」

「ああ」


そこへ、個室のドアをノックする音が聞こえた。


―――――コン、コン。


「はい、どうぞ」

『失礼します』


ドアが開いて、中に入ってきたのは猫獣人の女性だ。

ウエイトレス姿で、トレイに注文したサンドイッチやスパゲッティが載っていた。


冴島君や川田君は、その猫獣人の女性の可愛さにぼうっとしている。

どうやら、見とれているようだ。


「こちら、ご注文の品です」

「ありがとう。テーブルの上に置いてくれるかな?」

「はい、失礼しますね……」


そう言って、トレイの上のサンドイッチやスパゲッティをテーブルの上に置いていく。

その時、座っている冴島君と川田君の間から手を伸ばして品物を置いていく。


そして、お約束通りに冴島君の肩に猫獣人の女性の胸が当たり、それに気づいて謝った時、猫獣人の尻尾が川田君の顔に当たってしまう。


「あ」

「あ、済みま、はにゃ?!」

「はぶっ」

「ああ、済みません済みません」

「ああ、大丈夫です。

ウエイトレスさん、ありがとう」

「で、では、ごゆっくり」


照れながらも一礼して、慌てて部屋を出ていった。

それを、冷めた目で見る森島さん。

肩をさすりながら、表情を崩す冴島君。

頬を触りながら、尻尾の感触を思い出している川田君。


まあ、お約束だよな~。


「どう? このダンジョンパークにしかないものが、分かったかな?」

「は、はい、はっきりと!」

「俺も分かりました!」

「……なるほど、確かに猫獣人やなんてこのダンジョンパークにしかおらへんな」


そう、ダンジョンはこれから増えるかもしれないけど、ファンタジーの住人に会える場所はダンジョンパーク以外ないのだ。

だから、ダンジョンパークはこれからも安泰である。


「はぁ~、良いな~、五十嵐さん。

あんな住人たちが、五十嵐さんのダンジョンに住んでくれているなんて……」

「そうやねぇ~。

うちも五十嵐さんが、ダンジョンマスターっていうんは知っとったけど、ここまでの規模とは思わへんかったわ……」


森島さんが、俺のことを知ったのはダンジョンコアの埋め込み手術の時。

その時、冴島君にも出会っているはずなんだけど俺も冴島君も覚えていない。

たぶん、手術の時の麻酔やら何やらの魔法の影響で覚えていないのだろう。


森島さんも、俺をこっちで見かけて思い出したくらいだからな。

それだけ、向こうでは埋め込まれた後に会うことなんてなかったし、それぞれで生きていくのに必死だったということだろう。


「あ、せや。

五十嵐さん、若返りポーションの件、ありがとうございます。

五十嵐さんやろ?

若返りポーション飲んでもうた人の、制限時間ちゅう呪いを解いてくれたんは」

「ほんまに、重ね重ねありがとうございます!」

「ありがとうございます!?」


勢い良く頭を下げる冴島君と川田君を、何とか宥める。

まあ若返りポーションの制限時間は、呪いではないかと気づいたのはエレノアだったんだけどな。

それで、解呪ポーションを飲ませてみれば、若返りポーションの制限時間が解除されて亡くなる人が減ったのだ。


ダンジョン企画の研究チームの成果にしておいてもらったけど、結構な騒ぎになり研究チームに多額の研究費をと国会で議題に上がってしまったほどだ。


その辺は、十分に研究費はあるからと棄却されたが、あのままだと本当に通ってしまいそうだったのが恐ろしい。


そうそう、騒ぎといえば今世間を騒がせている物がある。

ダンジョンコア探索アプリだ。







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