第307話 処置の後で
Side 五十嵐颯太
冴島司君の部屋で行われた、川田浩君への殺人未遂に森島由香さんによるダンジョンコアへの制裁を見て、ミアとエレノアが俺に正座を要求した。
で、俺はコアルームにて正座をするのだった……。
「……さて、マスターには聞きたいことが山ほどあります」
「ミアの言う通り、私も聞きたいことがあります」
正座した俺を見下ろすように、ミアとエレノアが仁王立ちしている。
なんか怖い……。
「先ほど、森島由香さんへ電話していましたよね。
あれは、今見た出来事のことで連絡されたんですね?」
「あ、ああ。
冴島司君が、取り込み過ぎたダンジョンコアを破棄させるにはどうすればいいか提案をしたんだよ」
「……なるほど、取り込んだダンジョンコアは取り込んだマスターと繋がりができている。
だから、破棄するには直接取り出すしかないってことか……」
「取り込んだダンジョンマスターが、自らダンジョンコアを破棄することはないからね。自分で自分の手足をもぎ取ろうとは思わないのと一緒だよ」
そう、取り込んだダンジョンコアは、自身の手足と同じ。
取り込んでしまったら、二度と離そうとは考えないらしい。
「で、何ですか?
あの、森島さんが手に嵌めていた手袋は……」
「あれは、『女神の癒やし手』と呼ばれる魔道具だ。
身体に傷をつけることなく、体内の処理ができるものだよ。
向こうだと、主に解体業者が使っていたな……」
剥製なんかを作る時や、体に傷をつけることなく体内にある異物を取り出すこともできるから、結構重宝していたらしい。
使い方は、人それぞれだ。
中には、暗殺者たちが使ったなんて噂も聞いたことある。
だから、一部の者たちからは『悪魔の手袋』なんて呼ばれているとか……。
「それじゃあマスター、あのセリフは何?
うちの右手が真っ赤に燃える! っていうあのセリフ……」
「唖然とするだろ?
あの時、冴島君に警戒されてはうまくいかないからな。
だから、冴島君に唖然としてもらうために、俺と森島さんで考えたんだ」
「あれって、あるアニメのセリフのパロディですよね?
……まあ、確かに冴島さんは唖然として油断しましたから、森島さんの癒やし手による攻撃が当たりましたからね……」
あの時、少し間が開いたのは森島さんの羞恥心だろう。
だけど、あのセリフを言わないと冴島君が油断しないからな。
まあ、冴島君を警戒させたのは、森島さんがドアを蹴り飛ばしたためだったみたいなんだが……。
それにしても、川田君にも責任をとらせると言っていたけど、ああいう形でダンジョンマスターにしてしまうとはね。
本人も望んでいたダンジョンマスターだけど、大丈夫かな……。
「それで、これからどうなされるんですか?」
「どう、とは?」
「冴島さんを、正常なダンジョンマスターに戻しましたが、いまだ世界中にコピーコアはばらまかれたままです。
これを一気に消去することになると、大混乱が起きてしまいます。
世間に出回ったポーション類も、回収のめどは立たないでしょうし……」
「ん~……」
確かに、世間に出回ったポーションの回収は不可能だ。
また、正常なポーションを出回らせたとしても、犠牲者は出てしまうだろう。
特に、若返りポーションの生存時間は何とかしないといけないか……。
「とりあえず、この三人と話し合ってポーション類をどうするか考えよう」
「ポーション類ですか……」
「ポーション類に関しては、注意喚起で何とかするしかないんじゃない?」
「それやると、若返りポーションの件で冴島君と川田君は事情聴取されるだろうね……」
「で、逮捕ですか?」
「警察に逮捕されて済む問題じゃないだろう。
何らかの対策をしておかないと……」
犠牲者は、多そうだな。
特に、若返った政治家や官僚に政府関係者……。
それに、世界にも出回っているらしいし……。
地球、終わるか?
「ミア、ダンジョン企画で調べた結果、若返りポーションなどの危険性や安全なポーションとの交換を知らせてくれ。
後、コピーコアの仕様変更を考えるように言っておくか……」
「分かりました。
マスターのお父様に連絡しておきます」
「はぁ~、同じダンジョンマスターでこうも違うのね……」
「何言ってるんだ? エレノア。
同じだよ、俺も冴島君も森島さんも。
ダンジョンコアに翻弄されて、人の心を無くしかけたことがある。
違いは、ダンジョンサポーターがいないところぐらいか……」
「つまり、私たちのような存在が、冴島さんや森島さんにいないということですか」
映像に映る、冴島君、森島さん、川田君の三人。
気を失っている冴島君に、後処理をしている森島さん。
川田君は、何かを我慢しているようで、表情が悪い。
まあ、何を我慢しているのか分かってしまったが……。
今回の騒動の後始末を考えると、何から手を付けていいのか分からなくなるな……。
▽ ▽ ▽
Side ???
パソコンの前で、女がキーボードを叩く音だけが聞こえる薄暗い部屋。
そこには、パソコンに向かう女だけではなく、それを監視するように立っているもう一人の女がいた。
「どうだ?」
「待って~……、もうすぐ、分かると思うから~……」
「……」
この会話が、何度か繰り返されている。
立って監視している女が、我慢できなくなって声をかけるも、作業は終わらず再び黙って監視するしかなかった。
だんだん、立っている女がイライラしてきたとき、キーボードを叩く音が止まった。
そして、座っていた女が立ち上がり監視していた女の方を向く。
「終わった!」
「終わったか?!」
立っていた女は、急いでパソコンの前に移動して画面を見る。
そこへ、キーボードを叩いて作業していた女が立っていた女の側によった。
「時雨さん、いいですか?」
「ああ、頼む。陽子」
「いきますよ~」
そう言って、キーボードのキーを押す。
すると、画面にプログラムが勢いよく走っていく。
やがて、画面が真っ暗になるとある地図が表示された。
「出た!」
「……これ、日本の地図ですね。
場所は、大阪のようですけど……」
「構わない、場所が分かればこっちのものだ!」
「では私は、休みますね~」
「ああ、ご苦労様」
そう言うと、キーボードを叩いていた女の陽子は、部屋に備え付けてあるベッドに飛び込んだ。
もう一人の時雨という女は、すぐに部屋を出てどこかへ走って行った。
この二人がしていたことが何なのかは、少しして世間を騒がせることになる……。
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