第306話 処置と罰



Side 川田浩


雰囲気が変わった司から、距離をとるように部屋の端による。

だがここは司の家の司の部屋、逃げ場はない。


この部屋の出入り口は、司の向こう側だ。

窓も右側にあるが、ベッドが邪魔ですぐに移動できない。


そして、俺がまごまごしている間に司がニヤリと笑って声をかけてきた。


「もうええやろ? 浩」

「な、何がだ?」

「俺の企みに気づいたんだ。

この後、浩がどうなるか、気づいているんやないか?」

「……」


ま、まずい、本当に司の様子がおかしい!

このままでは……。


俺は何とか逃げようと周りを見渡すが、司の部屋にあるベッドや本棚に机などが邪魔をしてうまい具合に逃げ場がない。


「浩~、始まりがあれば終わりがあるんやで~」

「司?!」


その時、司の部屋のドアが勢いよく開いた。

そこには、家の外で警察の対応をしていたはずの森島由香がドアを蹴り飛ばして入ってきたのだ。


「そこまでや司!!」

「由香?!」

「な、何や由香?!

俺の部屋のドアを蹴り飛ばすなんて、物騒やないか!

それになんや、その腕に嵌めてるんは?!」


由香をよく見れば、腕に真っ赤な手袋をはめて部屋に入ってくる。

あんな腕の肘の上まである手袋、物語に出てくるお姫様が着ているドレスなんかでしか見たことない……。


それに、手の方が真っ赤に染められているのは、何か意味があるのか?


「……うちのこの手が真っ赤に燃える!!」

「?!」

「ゆ、由香?」

「司を助けろと、轟叫ぶっ!!」

「!!」

「……」


恥ずかしいセリフを叫びながら、由香が司に素早く襲いかかる。

そして、由香のセリフに合わせて長い手袋の手の部分が光りはじめた!


あれ、もしかして魔道具なのか?


「な、何やコレ?!」

「司! 覚悟しぃやっ!!」


そう言うと、光る赤い両手を司の体に突き刺した。

それも、司の心臓がある胸の所に!


「ガッ!!」

「くうぅぅ……」


由香は突き刺した両腕を動かして、何かを探している。

でも、確かに両腕は司の胸に突き刺さっているのに、一切血が噴き出していない。


どうなっているんだ?


「あった!」

「ゆ、由香、それ……は……」

「司! あんたは、ダンジョンコアを取り込み過ぎたんや!

だから、今、取り込み過ぎたダンジョンコアを、強制的に破棄したる!」

「アガアァァ!!」


司が苦しみながらも由香の腕を掴むが、由香はそれを気にすることなく無理矢理司の胸から水晶玉のような透明な球を両手で掴み取り出した。

そして、さらにその透明な水晶玉に真っ赤に光っている右手を潜り込ませ、黒い水晶玉を取り出した。


「これや! これが、今の司に影響を与えとるダンジョンコアや!」

「や、やめ、ろ……」


俺の目の前で繰り広げられる出来事に、頭がついていってないが、何となく由香がしていることは分かった。

司を狂わせた元凶を、由香はその手に掴んだのだろう……。


そして、由香が右手に力を入れると黒い水晶玉にヒビが入り、次の瞬間には粉々に砕け散った。

ガシャン! と、ガラスを割った音が部屋に響いた。


「!!!」


司はビクンビクンと二回痙攣した後、ピクリとも動かなくなった。

もしかして……?


「心配あらへん。

司に影響を与えとった元凶が無くなって、意識が飛んだだけや」

「そ、そうか……」

「それより、浩。うちに何か言うことがあるんちゃうの?」


由香に睨まれ、俺は今までのことを思い出し、頭を下げてお礼を言った。


「助けてくれてありがとう、由香」

「ええよ。

それより浩には、責任とってもらおう思うてるし……」

「せ、責任?」

「せや」


そう言うと、左手に持っていた透明な水晶玉に右手を突っ込み、薄い水色の水晶玉を取り出す。


「これを、浩の体に埋め込ませてもらうで……」

「ゆ、由香? それって、もしかして……」

「せや、ダンジョンコアや。

それも、異世界のダンジョンコアやでぇ~。嬉しいやろぉ~?」


由香は、いい笑顔で俺に近づいてくる。

その笑顔は、絶対碌なことにならない笑顔だ!

昔から、由香の笑顔でよかったことなどない?!


俺は、由香から逃げようとするが逃げ場など司に襲われそうになった時から無かった。

焦る俺に素早く詰め寄り、持っていた薄い水色の水晶玉を俺の胸に押し込んだ!


「ガッ?!」

「大丈夫や、痛いんは最初だけやから、なぁ?」

「ゆ、由香……」


俺の胸に突っ込まれた由香の右腕は、注射のように一瞬チクリとして、後は何も感じなかった……。

そして、由香の右腕だけが引き抜かれる。


由香の腕が引き抜かれた後、すぐに自分の体に力が入らなくなってその場に崩れ落ちてしまった。


「あ、……え?」

「浩の体内に入ったダンジョンコアが、魔力の通り道を作っとるからな。

今、全身に力、入らへんやろ?」

「あ、ああ……」

「うちらも、ダンジョンコア埋め込まれたときは力、入らんで困ったんや。

特に、一番理性えぐったんは排泄垂れ流しやったことやな~」

「は、え?」


な、何だってぇ?!

俺、司の部屋で、おもらし確定か?!

そ、そんな……。

すまん、司!

そして俺! 何とか我慢しろぉ~……。


「これも、天罰や。受け入れ、浩。

それと……」


由香がそう言って、再び透明な水晶に右手を突っ込み薄い黄色の水晶玉を取り出す。

あれもダンジョンコアなのだろうか……。


「このダンジョンコアは、うちが引き受ける」

「え」


そう言って、薄い黄色のダンジョンコアを真面目な表情をした由香は自身の胸に突っ込んだ。

少し表情が歪んだが、すぐに元に戻る。


そうやって、透明な水晶から何個か取り出し、俺に二つ、由香に二つ取り込ませると、透明な水晶を気絶している司の胸に戻した。


「……ふぅ、これで司のダンジョンコアは四つになったはずや……」


そう言うと由香は、安堵の表情を浮かべた……。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る