第302話 狙われる者



Side ???


大阪のとある町中の喫茶店で、俺と詩織さんが向かい合わせに座っている。

俺の顔を見ては、ニコニコと笑顔を向けてくれる。

本当に、かわいらしい人だ……。


金髪で茶色の瞳を持つ女性だが、名前から日本人なのだろうか?

金髪の人が珍しくなくなり、今では銀髪、赤に青や水色といろんな色の髪をした人が増えた。


詩織さんも、そんな人の一人なのかもしれないな。

うちの高校でも、最近髪形や色に関しての校則が撤廃されたばかりだからな。


「あの、それで詩織さんの聞きたいことって何ですか?」

「ダンジョンコアのことに関してなのよ。

この掲示板の質問に答えていたの、浩君でしょ?」

「ええ、俺です。

でも、よく分かりましたね。本名で書いていないのに……」

「実はね、この掲示板の運営で私、働いているの。

それに、最近ダンジョンマスターになって困っていたのよ。

そこにこの掲示板を見つけてね?」

「はは~、それで俺に連絡を……」


俺が投稿した、掲示板の運営の人だったのか。

でも、規則でこういうこと禁止されていなかったかな?


「あの、大丈夫ですか?

こういう個人情報を利用することは……」

「フフフ、黙っててね?

こんなこと会社に知られたら、クビになっちゃうから……」


そう言って、詩織さんは拝むようにウインクしてくれた。

何だろう、詩織さんがする仕草が可愛すぎてすべて許してしまいそうだ……。


「だから、ね?

私たち二人だけの、ヒ、ミ、ツ、ってことで、ね?」

「は、はい~……」


今俺は、顔を真っ赤にしていることだろう。

自分で、顔が熱いことが分かる……。

恥ずかしい~?!


し、詩織さん、前のめりにならないで~。

み、見えてはいけないものが見えるから?!


それからは、ダンジョンコアのことを少し質問されながら、俺の高校の事とか趣味の事とか雑談を時折交えて話をしていた。

そこで、ダンジョンコアの制作者の話になって、つい俺が考えたものだと喋ってしまった。


「え? 浩君が考えて作った者だったの?」

「考えたのは俺ですけど、ダンジョンコアを作ったのは俺じゃないです。

俺の親友の冴島司っていうやつなんです」

「へぇ~、冴島君が作ったんだ」

「ええ、羨ましいやつなんですよ」

「羨ましい?」

「ん~、詩織さんならいいかな……」


俺は、詩織さんの隣の席に移動して顔を近づけた。

……あ、いい匂いがする。


「ん? 何?」

「あ、その冴島司なんですけど……」

「うん……」

「異世界に召喚されたらしいんです」

「え? 異世界?」

「し~」


俺は内緒のポーズで、俺たちの周りを見渡す。

……どうやら、誰もこちらを気にしていないようで安心した。


「ね、ね、異世界ってどういうこと?」


詩織さんが、ぐっと近づいて来て質問してきた。

あ、やわらかいものが当たってる……。


「その冴島司ってやつは、こことは違う異世界に召喚されたんですよ。

で、ダンジョンコアを体に埋め込まれてファンタジーな力が使えるようになったんです」

「……それじゃ、今出回っているダンジョンコアは……」

「ええ、そのダンジョンコアは、冴島司の力を使って作りだしたものなんですよ」

「そうなんだ……。

そのダンジョンコアを考えたのは、浩君なのよね?」

「はい、俺です。

司に、俺もダンジョンマスターになりたいってお願いしたらダンジョンコアを作ってくれて、俺もダンジョンマスターになったんです」

「……でも、それじゃあなぜ、ダンジョンコアを大量にばらまいているの?」

「それは、人の容量の問題です」

「容量?」

「地球人は、魔法が使えません。

それは、魔素を溜めたり体に循環させたりする器官がないからです。

そんな地球人に、いきなりダンジョンコアを使ってダンジョンマスターにすると、ものすごい激痛が走り気を失うだけではなく、しばらく動けなくなるためです」


そう、その激痛は地球人の体に魔素を循環させるための器官を作りだすためにともなうものだ。

俺もその激痛を味わって、一週間ほど動けなかった。


その間の情けなさといったらもう……。


とにかく、そんな激痛のともなう危険なものと誤解されかねない物を他の人々が受け入れるわけがない。

そこで、一つのダンジョンコアを細分化して最初の激痛を小さくしようと考えた。


それと同時に、ダンジョンコアにレベル制を取り入れて数を集めるようにすれば面白いんじゃないかということも提案した。

すると、司も面白がってDPの交換できる品物の種類もレベルによって変えようかと提案してくれた。


こうして、ダンジョンコアを数多く作り、世界中にばらまいたというわけだ……。


「なるほど、そういうことだったのね……」

「どうです? 面白いでしょ詩織さん」

「うん、面白いわ。

……ねぇ、浩君」

「なっ、なん、れすか?」


詩織さんが、甘い声で俺の耳にしゃべってくる。

ああ、ダメ……。


「冴島司君、紹介してくれないかな?」

「……へ? いいですけど、何故です?」

「司君に頼めば、ダンジョンコアを別けてくれるかな~、なんて……」

「詩織さん、それなら俺に頼ってください!」

「浩君に?」

「はい、俺今、ダンジョンコアのレベル六十ほどありますから、少し分けてもいいですよ?」

「?! 本当? ありがとう、浩君!」

「あ」


これが、女の人の柔らかさと匂いなのか……。

もう、俺の理性が……。




▽    ▽    ▽




Side 雨宮詩織(ロザリー・ホーバー)


……さすが、DPで交換できる魅了ポーションよね。

抱き着いている、浩君の心臓の鼓動が激しくなっている感覚がある。

……本当に、初心な高校生。


私を魅力的に見せるように、魅了ポーションを付けて香りにも気を使った。

これで落ちない男はいないでしょう。


それにしても、冴島司……。

異世界に召喚さてたなんて話はどうかと思うが、こんな不思議なダンジョンコアなどというものがあるのだ。


妄想というわけでもあるまい。

フフフ、この浩君を使って冴島司という親友に近づくチャンスね。

ついでに、浩君のダンジョンコアもいただきましょうか……。


フフフ……。







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