第301話 近づく者



Side ???


大阪にあるマンションの一室から出てくる男子高校生。

扉の前で鍵をかけていると、一人の女性が声を掛けてくる。


「浩君、準備できた?」

「詩織さん。はい、準備できました」

「朝からごめんね? 私の都合で……」

「とんでもない! 詩織さんが謝ることじゃないですよ!」

「フフフ」


詩織は、焦る川田浩を見て笑顔を見せる。

その笑顔を見て、博はほほを染めた……。


「あ、あの……」

「ごめんなさい。何か、かわいくて」

「はぅ……」


浩は顔を真っ赤にして下を向いてしまう……。

そんな姿を見て、詩織はますますクスクスと笑ってしまう。


傍から見れば、この二人は恋人のように見えるかもしれない。

が、二人が出会ったのは、ほんの一週間前だった……。




▽    ▽    ▽




Side 雨宮詩織(ロザリー・ホーバー)


私は北へ逃げると見せかけて、大阪へ向かった。

それは、ある動画サイトにあった、ダンジョンマスターになったと言われる人が大阪に集中しているという報告動画を見たからだ。


世界中にばらまかれているダンジョンコアを集めると、ダンジョンのレベルが上がる。

さらに、ダンジョンのレベルが上がると、DPと交換できる品物が増えるのだ。


このダンジョンコアの仕様を見つけたのは、例の半グレ組織の直也という男だった。

ダンジョンコアをいくつも集めて、その仕様に気づいたらしい。


私の身体を使ったご褒美の時に、みんなには内緒ということで教えてくれた。

フフフ、もちろん私はそのお礼として……。


そして今、私のダンジョンレベルは十四。

DPと交換できる品物も、かなりのものと交換できる。

半グレリーダーをやった後に使ったあのポーションも、このレベルのおかげで手に入れることができたもの。


でも、私は気づいてしまった。

私たちは、このダンジョンコアの仕様というものを詳しく知らないことに。

もしかすると、本来の使い方を間違えていないかと。


そこで、ダンジョンマスターが多くいるという大阪に来て調べ始めた。

そしてこの男、川田浩に出会ったのだ。


初心で奥手な男子高校生。

私の美貌とこの身体で、骨抜きにして利用させてもらいましょう。


フフフ、楽しみねぇ~。

私のお願いを、何でも聞いて実行してくれるようになるなんて……。




▽    ▽    ▽




Side 五十嵐颯太


納得いかない喫茶店の支払いを済ませ、コアルームに戻るとミアが声を掛けてくる。


「マスター、例の女が大阪に現れました」

「大阪? 北に逃走したんじゃなかったっけ?」

「それが、川田浩という男子高校生に近づいたようです」

「川田浩?!」

「ご存じなんですか?」

「いや、例のコピーコアをばらまいている奴の親友が、その川田浩という名前なんだよ。

さっき、幼馴染という女子高生と会って話を聞いていたところだったんだ」

「幼馴染? 川田浩のですか?」

「いや、コピーコアをばらまいている方。

名前は、冴島司。

俺と同じく、異世界召喚で異世界に召喚されてダンジョンコアを体に埋め込まれたらしい」

「マスターと同じ境遇ですか」

「冴島司の場合は、初期DPが少なすぎて別の稼ぎ方をしたらしい。

それで、王国の部隊に組み込まれて大変な目にあったそうだ……」

「……」


冴島司の境遇を聞いて、神妙な面持ちになるミア。


「あ、それよりも、ミアに聞いておきたいことがあるんだが……」

「はい、何でしょうか?」

「ダンジョンコアを取り込み過ぎると、感情が無くなるって本当か?」

「はい、本当です。

正確には、ダンジョンコアの感覚になるということですが」

「ダンジョンコアの感覚?」

「はい。本来ダンジョンコアに、感情はありません。

マスターに分かりやすく言えば、AIのようになるということでしょうか。

人としての感情が無くなり、機械的に考えて行動するようになります」


……それって、何かの映画であったな。

機械的に考えて、人類を抹殺しようとしたとか……。


「……。どれくらいで、そんな感じになるんだ?」

「ダンジョンコアを、五十個ほど吸収すれば完全に機械的になります。

また、十個を超えたあたりから人の感情のタガが外れ始めますから……」

「……元に戻す方法はあるのか?」

「取り込んだダンジョンコアを破棄すれば、元に戻ります。

ただ、かなりの罪悪感に苛まれることになりますが……」

「そうか……」


だけど、元に戻れる方法があるのなら冴島司も元に戻るってことだ。

これは、森島さんに知らせておいた方がいいな。


俺はスマホを取り出し、森島さんに教えようとふと気づく。

連絡先を聞いていなかった……。


「……仕方ない、後で考えよう」

「マスター?」

「それよりも、よくダンジョンコアのことを知っているな」

「マスター、私はホムンクルスでダンジョンマスターのパートナーです。

ダンジョンコアのことはよく知っています。

これからも、ダンジョンコアのことで知りたいことがあるなら聞いてください。

私に分かることなら、どんなことでもお答えします!」

「ああ、これからも頼むよ」

「マスター、私たちを忘れては困ります!」

「そうそう、ミアだけじゃなくて私たちにも聞いてくださいね」

「ああ、エレノアやソフィア、セーラやルナにも聞くから……」


俺とミアの会話を聞かれていたようだ。

……まあ、コアルームでずっとモニターと睨めっこしながら調べていてくれたんだから聞こえるよね。


頼もしいホムンクルスがいて、大助かりだ……。


……そういえば、森島さんにはホムンクルスのパートナーがいないみたいだよな。

話を聞いていて、冴島司にもいないみたいだし……。


コピーコアに触れて、ダンジョンマスターになった人たちはどうなんだろうか?

確か、ミアたちホムンクルスはダンジョンサポーターだったはず。

ダンジョンマスターのサポートを目的として、少ないDPで交換できたはずだ。


初期DPでは交換できないかもしれないが、ある程度DPが溜まれば交換できたから人手不足解消に良かったんだが……。


ん~、必要なかったか、それとも交換リストに気づかなかったか……。








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