第300話 悪友



Side 五十嵐颯太


「それで、冴島君をそんな状態にした奴ってのは……」


喫茶店の隅で、向かい合って話し合う俺と森島由香さん。

真剣な表情で話し合う俺たちは、恋人同士には見えないと思う……。


「川田浩っちゅう奴や」

「川田浩……」

「川田は、司の友達で同級生や。

それに、同じ趣味を持っとるからクラスでも一番仲がええ二人や」

「へぇ~」

「ただなぁ~、この川田っちゅうんは異世界願望が強かったんや……」

「異世界願望?」

「最近、ようあるやろ?

異世界物の小説やら漫画やらアニメが。

それで、異世界に行ってみたい~っちゅう夢を持ってるんや」

「あ~、何となく展開が読めた……」

「せや、そんな川田に司は話してもうたんや……」


なるほど、冴島司は異世界に行ってみたい願望の強い川田浩に異世界に召喚されて苦労したという話をしてしまい、羨ましがられた。

で、異世界に行けないならせめて、冴島君のダンジョンマスターの力で何とかならないか、と。


「異世界には行けないけど、ダンジョンマスターにならできるかもしれないと?」

「せや、で、ダンジョンコアをDPで交換して、川田に渡してもうたんや」

「……ちょっと待って、ダンジョンコアをDPで交換して?

それじゃあ、今世間で出回っているダンジョンコアは……」

「コピーコアの事やろ?

ばらまいとんのは司やけど、作りだしとんは川田の奴や。

あいつが作りだして、司が世界にばらまいとる」


え? もしかして、二人で今の状況を作りだした?


「でも、そうだとすると何でコピーコアなんて……」

「分からへん。

分からへんけど、数が必要なんやないか?

こんなに、ばらまくってことは……」

「確かに……」


コピーコアをこれだけばらまくのは、それだけ数が必要ということか。

もしかしたら、それが何かしらの意味を持っているってことか。


例の女も、詐欺をしてまで数を集めていたしな……。


「冴島君の居場所は、今、分かっているんですか?」

「それが分からへんのや。

川田の奴も姿、くらましとるらしいし……」

「大阪の吹田という所にいるとだけ、分かっているんですけどね……」

「大阪の吹田?」

「はい、こっちで調べたらコピーコアの集めたDPの一部がそこへ流れているみたいなんですが……」

「吹田は、司の実家がある所や。

もしかしたら、司は実家の近くにおるかもしれへん!」


そう言って、森島さんは立ち上がる。

そして、急いでサンドイッチとコーヒーを飲み込む。


「……うち、急いで大阪に帰るわ!

司の実家に行ってみる! ほな!」

「へ?」


そう言うと、喫茶店を出ていった。

支払いを俺に押し付けて……。


俺は、伝票を手に取る。


「……まあ、良いんだけどね……」


その後、会計を済ませて喫茶店を出た。

急いでいるのは分かるけど、一言ほしかったな……。




▽    ▽    ▽




Side ???


俺の名前は、川田浩。

ダンジョンマスターの初心者や。


ある日、親友の冴島司の様子がおかしかった。

何日も休んだ後、教室に入ってきた司は少し苦しそうな表情をしていた。

何かあったのか気になった俺は、その日のうちに聞いてみるとどうやら異世界に行っていたらしい。


異世界?!

それを聞いて、俺は司の心配より羨ましいという感情が勝っとった

どんなに行きたくて、行きたくて仕方ないファンタジー世界、そこに司は召喚されとった。


それが、どんなに酷い状況だったとしても羨ましかった……。


だからやってしまう。

俺は、司に頼んでしまったんや。

俺も、司と同じダンジョンマスターになってみたい、ダンジョンマスターにしてくれんか、と。




▽    ▽    ▽




Side ???


喫茶店で五十嵐君と別れた後、すぐに泊ってたホテルを引き払って新大阪行きの新幹線に乗った。

そして新幹線に乗ってから、喫茶店の支払いをしていなかったことに気づき五十嵐君に悪いことしたなぁと反省する。


「五十嵐君に、悪いことしたなぁ……」


まあ、今さらやな。

それよりも、五十嵐君におうて良かった。

ここのところずっと探しとった、司の居場所が分かったからや。


五十嵐君が、探していてくれとったわけやないけど、コピーコア同士の繋がりから捜索するとは思えへんかった。

それに、DPが司に流れとったのも知らんかった。


たぶん川田のアイデアやろうな。

司といろいろ話おうて、ダンジョンコアの条件決めとったからな……。


「……それにしても、早く着かんかなぁ……」


せや、暇やし、うちのダンジョンがどうなっとるか調べてみようか。

うちのモフモフダンジョンを。


……恥ずかしい名前やなぁ。


うちはナップサックから、取り出したようにアイテムボックスからタブレットを取り出す。

このタブレットは、ダンジョンの操作盤と繋げてあるから、うちのダンジョンの様子が分かるんや。


「ほい、ほい、ほいっ。

お、映った……」


タブレットの画面には、ダンジョン内の様子が映し出された。

異世界の動物たちの様子や、獣人たちの生活の様子などが、何画面にも分かれて映しだされとる。


こうしてみると、うちのダンジョンは平和そのものや。

魔物がおらへんというんは、ある意味平和やけど強くなる言う目的からはズレる。

だから、疑似ダンジョンコアをつこうてダンジョンを造ってやった。


獣人たちの長を決めるんは、強さで決めるんやて。

ある時、獣人の集落でそんな話し合いがされとってびっくりやったな。

集落から、ダンジョンを探すために旅立たせようとしとったしな……。


だから、獣人たちの集落の近くにダンジョンを造ったったんやけど……。


「何でか知らんけど、獣人の女が長になったんよな……。

今まで男しか長にならんかったのに、何でなんやろ……」


おかしなこともあるもんやね~。


あ、ちなみに、うちのダンジョンは今住んどるマンションに設置しとる。

よそに公表する気、ないから。








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