第299話 異世界で生きる



Side 五十嵐颯太


前にも言ったことあるが、異世界人召喚で召喚された異世界人の中で、魔力を持っていなかった無能力者に行われた手術。

それが、ダミーコアを体に埋め込み魔力を発生させて、スキルや魔術を覚えれるようにしたものだ。


運が良かったのか、理論がきちんとしていたのかダミーコアを埋め込まれた異世界人、全員が無事生きてスキルや魔術を使えるようになった。


だが、その中でダミーコアではなくオリジナルのダンジョンコアを埋め込まれたものがいた。

それが、俺こと五十嵐颯太。

そして、目の前に座る森島由香。

最後が、森島さんの幼馴染の冴島司だ。


俺は、発現した魔力とダンジョンコアがかなり質のいいものだったため、王国のためにと無理難題を言い渡されたが森島さんたちはどうなったんだろうか?


他の異世界人のことは、気にしている暇がなかったからな……。


「……あの、森島さんは向こうでダンジョンを造っていたのか?」

「何? 急に。

でも、そうやねぇ。うちは、動物ダンジョンで生きぬいていたわねぇ」

「動物ダンジョン?」

「異世界にも、動物がいるんは知っとるやろ?

その動物だけが、うちのダンジョンに入れるように条件設定してな?

中は自然なフィールドダンジョンして、過ごしてもらってたわ」

「へぇ~」

「最初はDP少なくて、フィールドと条件設定したらほとんどなくなってな?

どうしようって困っとった。

だけど、森の近くに作ったおかげかもしれへんがすぐに動物が入ってくれてなぁ、何とか生きていくことができとった」


動物だけで、DPを確保するのは数がいないと難しい。

本当に、運が良かったのかもしれないな……。


「でも、動物だけだと難しいんじゃない?

DPの確保は……」

「そうなんよねぇ。

だから、獣人の子が動物に紛れてダンジョンに入ってきたんは驚いたなぁ」

「……獣人が入れた?」

「そうや、動物しか入れん条件なのに獣人が入ってきたんや」


……それって、獣人が動物と言っているようなものだぞ?

でも、何で動物限定ダンジョンで獣人が入れるんだ?


俺が、考え込むようなしぐさをしたのがおかしかったのか、森島さんがクスッと笑う。


「なぁ? おかしいやろ?

動物限定のダンジョンに、獣人が入ってこられんのは」

「……確かに」

「でも、それでうちは助かったんや。

獣人が入れることが分かってからは、その入ってきた獣人が仲間を呼び込み、いろんな部族を呼び込んでくれた。

で、こっちに戻るころにはたくさんの獣人の集落ができて、DPが結構たまっていたで」

「へぇ~、獣人様様というわけか」

「それでか知らんけど、変な称号を取っとったな」

「変な称号?」

「モフモフダンジョンの主っちゅう称号や……」

「そ、それは……」

「うちのことはええねん。それよりも司の事や」

「冴島司、か」


冴島司も、オリジナルのダンジョンコアを埋め込まれた異世界人だったな。

でも、どんなダンジョンを造って生きていたんだ?


「冴島君は、どんなダンジョンを?」

「……」


森島さんが、顔を横に振る。

それに伴い、長い髪が左右に流れる。


「森島さん?」

「司は、DPの初期値が少なすぎてな。

ダンジョン造っても、二階層までしか造られへんかった。

だから、DPを稼ぐためにゴミ処理ダンジョンにしたんや……」


ゴミ処理ダンジョン。

生活で出るゴミや、解体で出るゴミ、さらに素材とならない魔物の死体なんかを処理するダンジョンか。

確かに、そういうゴミをダンジョンに吸収させることでDPを稼ぐやり方もあるけど、本当にしている者がいるとは……。


「それから司は、王国の処理部隊ちゅうところに組み込まれてなぁ、あちこち連れ回されとったでぇ。

あの頃の王国は、連戦連勝な戦いばっかりしとったからな……」

「そ、それは……」

「王国からしたら、便利なダンジョンや。

必要なDPが溜まっても、部隊からの脱退はゆるさせぇへんかったわ。

あの送還される日まで、連れ回されとったらしいで……」

「……」


それは、相当ストレスが溜まっていたんじゃないか?

隷属されているから、逆らうこともできずに連れ回されていたら、冴島の心はかなり疲弊していたはず……。


「でも、こっちに帰ってきてからはうちをはじめ、司の家族や友達が慰めとったからな。

帰ってきたときの司を、みんなほっとけなくてな……」

「森島さんたちは、こっちに帰ってきたときどういう状況だった?

俺は、召喚される前の朝に目が覚めたんだが……」

「うちや司も、同じやったで。

朝、自分のベッドで起きたわ」

「それじゃあ、冴島君の家族は驚いたんじゃあ……」

「ああ、かなり驚いとった。

すぐに司に近寄って心配してくれたって言っとったで……」


そこへ、ようやく喫茶店の店員が注文の品を持って現れた。


「お待たせしました。

コーヒーと卵サンドイッチです」


そう言って、コーヒーと卵サンドイッチを二人分テーブルに置くと、伝票を置いた。


「ごゆっくり……」


そう言って、テーブルを離れていく。

俺は、ようやく来たか、とコーヒーに手を伸ばした。

そして、砂糖とミルクを入れてスプーンでかき回す。


「……うん、喫茶店のコーヒーだ」

「当たり前やん。

そう言えばさっきの質問やけど、五十嵐君はいくつダンジョンコアを取り込んだん?」

「えっと、今は四個だな」

「四個か……。

それなら、感情が少し薄くなったやろ? 人としての」

「……確かに、そうかもしれないな」

「私は、最初に埋め込まれたダンジョンコアだけやから一個や。

ただ、司はなぁ……」

「冴島君は、いくつか取り込んでいるのか?」

「例の処理隊の時にな、ダンジョンコアを九つほど取り込んだって言っとった」

「九つ?

それじゃあ、冴島君の心は……」

「それは大丈夫や。

さっきも言っとったが、みんなのおかげで召喚される前の司に戻っていったんや」


冴島司の心が癒されていったなら、止めてくれとは言わないよな。

ということは、何かあったのか?


「何かあったのか?」

「司の能力を知った奴がな、使わせ過ぎたんや。

そのせいで、司の心は完全に壊れた……」

「壊れた?」

「せや、そいつのせいで完全にダンジョンコアに飲み込まれたんや」

「それじゃあ、今のこの状況は……」

「司が暴走しとるせいや……」

「……」


誰が、どうやって暴走させたんだ?

冴島の能力を知った奴がって言っていたけど、それは誰だ?







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る