第298話 女の正体



Side 五十嵐颯太


陸斗からの電話で、駅前の待ち合わせ場所に来た。

そこには、陸斗と一緒に一人の女性がいる。

だがその女性は、陸斗の言っていた相沢美咲ではなかった。


「待たせたな、陸斗」

「いやいや、相沢さんと話していたんでまった感はなかったぜ」

「え~と、久しぶりですね相沢さん」


俺は、女性に対してそう挨拶をする。

彼女から、敵対的な感じはないから彼女の嘘に合わせた。


「久しぶりです、五十嵐君。

私のこと、覚えていないかと思っちゃいました」

「相沢さんのこと、忘れるわけないだろ?

同じように向こうに行ったんだから……」

「え? 向こうって?」

「フフフ、陸斗さん、それは秘密ですよ?」

「そ、そうなの?」


陸斗は、オロオロしながら俺に助けを求める。

が、俺は笑うだけで何もしない。


「……じゃ、じゃあ、俺はこれで」

「はい、ありがとうございました、陸斗君」

「あ、ああ」


俺は手を合わせて、拝むように謝っておく。

すると、陸斗は何かを察したように笑顔で手を振りながら歩いて去っていった。


……さて、俺は女性の方を向くと真顔になる。


「なぜ、相沢さんの名前で俺を呼んだんだ?」

「私のこと、覚えていてくれたんですね?」

「ああ、森島由香さん、だろ?

俺と同じように異世界人召喚で呼ばれた、魔力なしのハズレ異世界人。

そして、俺と同じようにダンジョンコアを埋め込まれた改造人間……」


そう、この女性は、俺と同じように異世界人召喚で呼ばれた犠牲者の一人。

それも、魔力がなくハズレと言われて魔術師からダンジョンコアの移植手術を受けた、俺と同じ改造異世界人だ。


「……移動しませんか?

ここは、人の往来が多すぎる気がします」

「た、確かに……」


駅から出て来る人や駅に入る人など、ここは人の往来が多い。

こんなところでする話じゃないよな……。


俺は、森島由香を連れて、近くの喫茶店に入った。

そして、店の隅にある離れた席に座った。

ここなら、聞いている人もいないだろう。


「いらっしゃいませ」

「え~と、私はコーヒーと卵サンドを一つ。

五十嵐君は?」

「え? あ、ああ、俺はコーヒーと……、彼女と同じものを」

「畏まりました」


席に座るとすぐに店員がきて、注文を聞いていく。

森島由香は、席に座るとすぐにメニューを見て注文を決めた。

俺は、まごまごして森島と同じものを注文することになってしまった……。


何だか、恥ずかしい……。


「そ、それで、よく俺の居場所が分かったな……。

向こうで改造された後、別れたきりだっただろ?

あいつ、冴島司は元気か?」

「……おぼえていてくれたんだね、私や司の事。

忘れていると思ってた……」

「……なあ、その喋り方、いつまで続けるんだ?」

「フフフ、酷いやん。

せっかく関東弁で喋ってたのに、うちの喋り方、おかしかった?」

「おかしいというか、その喋り方で覚えていたからな。

イメージと合わなくて、もやもやしてたんだよ」

「え~、何やそれ~。

でも最近は、関西弁喋る同級生が少なくなってなぁ~。

うちも自然と、あまり喋らんようになったんや」

「じゃあ、今は無理にしゃべっているってことか?」

「そうやで、関西弁だけで喋ることはなくなったな~」

「……」


大阪に住んでいるのに、関西弁をあまりしゃべらなくなっているなんて……。

そう思って彼女を見ると、すぐに神妙な面持ちで話し始める。


「五十嵐君、お願いがあるの!

うちの幼馴染の、冴島司を止めて!」

「……は?」


止めてって、どういうこと?


「冴島を止めてって、あいつ何かしているのか?」

「五十嵐君は、気づいているよね?

今世の中に、ダンジョンコアが出回っているのを……」


俺は、勢い良く立ち上がった。


「……まさか?」

「うん、ダンジョンコアをばらまいているんは司……」

「何のために?!」

「……私には教えてくれんかった。

それに、最近は何か薬でもしとるんちゃうかってくらいおかしくなっているみたいで……」


薬?


「まさか、本当に薬物に手を出して……」

「ちゃうちゃう! 司は薬に手を出したりなんかせぇへん!

……そうじゃなくて、性格が変わったみたいになってな……。

五十嵐君は、どう?

何か、今までの自分じゃしないようなこと、してへんか?」

「今までの自分では、したことないようなこと……」


俺は、椅子に座りながらこっちに帰ってからのことを思い返していた。

そして、あの実験ダンジョンのことを思い出す。


混乱、人の死、そして国の崩壊。

そんなことをしておきながら、俺の心は何ともなかった。

普通なら、人を死なせてしまったとかで傷ついたり悩んだりするものだが……。


もしかして、俺もおかしくなっている?

なぜ?


「……どうやら、心当たりがあるような。

それな、埋め込まれたダンジョンコアが原因やで」

「ダンジョンコアが?」


俺は、自分の胸に埋め込まれたダンジョンコアの位置に手を置く。

服を通して、ダンジョンコアの一部が外に出ているのが分かる……。


「五十嵐君、いくつダンジョンコアを取り込んだ?」

「え?」

「私たちに埋め込まれたダンジョンコアは、取り込んだダンジョンコアの数で侵食度合いが変わるらしいの……」

「侵食?」

「ええ、これは私を手術した魔術師から聞いたことなんだけどね?

ダンジョンコアってのは、本来意思を持っているの。

でもその意思は、人の意思のような強いものではないから普段は抑え込まれているのよ。

だけど、いくつものダンジョンコアを取り込むと、だんだんダンジョンコアの方が強い意思を持つようになる。

そして、最後にはダンジョンコアが人を乗っ取ってしまうんや……」

「そんな危ない物を埋め込まれていたのかよ……」

「最初は、人の気持ちが薄らいでいくらしいで。

それから、だんだんと思考が鈍くなり、最後はダンジョンコアと入れ替わる言うとったわ、その魔術師」


怖い話だな……。

でもそれなら、人の感情が鈍くなるってのが当てはまっているかもしれない。

ということは、ダンジョンコアをこれ以上取り込むことはやめた方がいいってことだな。


でも、それなら森島が心配している冴島は、どれだけのダンジョンコアを取り込んだんだ?






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