第295話 触れてわかる正体



Side 五十嵐颯太


ファンタジーダンジョンパークの駐車場に、仮設のテントが張られた場所がある。

運動会なんかで見る、あの白いテントだ。

その周りを白い幕で覆い、中が見えないようにしていた。


ダンジョンパークの敷地の事で、少し勘違いをしている人がいる。

ダンジョンパークは、トンネル部分からがダンジョン内になる。

入り口ゲートからが、ダンジョンパークではないのだ。


その証拠に、トンネルを抜けると言葉の壁がなくなりどんな言語だろうと通じるようになるのだ。



さて、駐車場にある仮設テントの前にいる警備員に挨拶をしてテントの中に入る。

テントの中には、大きな宝石が中央にどんと我が物顔で存在していた。


「ん~、これが世界中で発見されているダンジョンコアか……。

確かに宝石のような輝きだが、かなり大きいな」


まずは、目で見て観察する。

ダイヤモンドのような輝きをしていて、大きさは縦横一メートルほどの大きさがある。

形は、丸みのある台形といった感じか。


「……俺の知っているダンジョンコアとは、形も大きさもちがうな」


吸収の前に、俺もダンジョンコアに手をついてみる。

すると、頭の上から女性の声が響いた。


『おめでとうございます!

ダンジョンコアに触れたあなたは、あなたは、あなた、あなた、あなた……』


女性の声が壊れたように、あなたという言葉を繰り返す。

そして、ある程度繰り返した後、触れているダンジョンコアに無数のヒビが入った!


その時、俺は電撃を受けたように全身が痺れる。


「これは?!」

『上位のダンジョンマスターが現れました!』


そう言うと、ダンジョンコアは音をたてて崩れた。

ガラスの砂のように細かいものになり、これ以降女性の声も聞こえなくなった。


そこへ、ミアとエレノアがテントの中に入ってきた。


「マスター! 先ほどの感覚は何ですか?!」

「私も、ビリッてきたんだけど、あれは何?」


どうやら、俺の感じた感覚がダンジョンの巫女であるミアとエレノアにも伝達してしまったらしい。

ということは、ここにいないソフィアやセーラ、ルナにも伝わっているかも……。

後で、教えておこう。


「……マスター、これは?」


ミアが、俺の足元に崩れ落ちているガラスの砂を見て聞いてきた。


「ダンジョンコアの慣れの果てだ。

俺が触れると、ダンジョンコアにヒビが入ってこうなってしまった」

「もしかして、マスターの力に耐えきれなかった?」

「いや、これはダンジョンコアじゃない。

ダンジョンコアをコピーして作った、コピーコアだ」

「コピーコア、ですか」

「疑似ダンジョンコアのようなもの?」

「ん~、いや、疑似ダンジョンコアとは違うな。

コピーコアは、元になるダンジョンコアをDPを使ってコピーしたものだ。

そうだな……、ダンジョンコアとダンジョンマスターが夫婦とするなら、コピーコアとコピーコアに認められたダンジョンマスターは内縁の夫婦といったところか?」


ミアとエレノアが、俺の説明を聞いて考えている。

どうも俺の説明が悪かったようで、うんうん唸りながら考えている。


コピーコアは、ダンジョンマスターがDPを使用して、ダンジョンコアをコピーしたものだ。

このコピーコアに選ばれたダンジョンマスターは、俺のようなダンジョンマスターとは少し違う。


それは、ダンジョンマスター権限の譲渡ができることだ。

通常のダンジョンマスターの権限は譲渡できない。

それは、いったんダンジョンマスターになると死ぬまでダンジョンマスターなのだ。


そのため、寿命がダンジョンコアと連動して不老になったり、ダンジョンコアの魔力が自身の魔力として使えたりと、本当にダンジョンコアと一心同体となる。


ただし、ダンジョンコアが壊されるとマスターも同じように死ぬことになるが、マスターが死んでもコアが無事なら新たなマスターを選出できるといった、理不尽なところもあるが……。


このコピーコアが全世界にばらまかれたものだというなら、元になったダンジョンコアがあるはずだ。

そして、その側にはコアに認められたダンジョンマスターがいるはず。


「……よく分かりませんが、コピーコアがダンジョンコアではないことは分かりました。

それと、コピーコアの大元のダンジョンコアがあることも」

「つまり、その大元を探し出して吸収するなり壊すなりするってことね?」

「ああ、そうしないと世界中でダンジョンコアが溢れることになると思う」

「……でも、このコピーコアはDPと交換で増やしているんですよね?

そんなにDPがあるんですか?」

「そうね、そんなにあるならもっと別の物に使いそうな気がするけど……」

「それなんだが、どうやら大元のダンジョンコアは、コピーコアが稼いだDPの一パーセントを自分のDPにしているんだ」

「え? それは本当ですか?」

「それじゃあ、コピーコアが百個ばらまかれたら、コピーコア一個分のDPが大元のコアのものになるってこと?」


エレノアは、どんな計算をしているんだ?

実際は、そんなに単純ではないだろうが大元のコアは、コピーコアをばらまけばばらまくほどDPが儲かると。


「まあ、そんなにうまくいくわけないけどな。

今回の詐欺件を考えれば、この作戦には人の欲を計算に入れていない。

もし計算に入れていたとしても、プラスに働くだけと高をくくっているんだろうな……」




▽    ▽    ▽




Side ???


日本のある都市の住宅街、建ち並ぶ住宅の一軒の玄関から女性が一人入っていった。


「ただいま~」

「……」


玄関でブーツを脱ぎ家に上がると、階段に座って女を見る男がいた。

じっとまるで睨むように、女を見ている。


「フフフ。私を睨むなんて、どうしたの?」

「……どうしたのかじゃねぇ、この薬はどういうことだよ」


男は、金色のポーションと黒いポーションを持って女に見せる。


「何って、性別変更ポーションと若返りポーションじゃない。

フフフ……」


そう言うと、女は自身の腕を撫でながら男に流し目を送る。


「見て、この若々しさ。

シワシワだった老婆が、この若さを手に入れられたのよ?

あなたも、私の身体を堪能したでしょう?」


この言葉に、男は立ち上がってキレる。

そして、罵詈雑言を女に浴びせるのだった……。







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