第293話 やっぱりそうだった!



Side ???


都内の某所、倉庫のような建物の中に半グレのような男たちが集まっている。

そこへ、スーツに身を包んだ二人の女性が入ってきた。


「戻りました~」

「……おー、直也か。

一瞬、誰かと思ったじゃねぇか……」

「俺の女の姿は、そんなに美人なのか?」

「美人だな、なぁ?!」

「ああ、美人だ」

「惚れちまいそうになるな」

「うんうん」

「……おいおい、やめてくれよ、気持ちわりぃ」


二人の女はその場でスーツを脱ぐと、すぐに机の上に用意していた金色のポーションを飲んだ。

すると、二人の女性の身体が光り性別が女性から男性に変わる。


「あ~、戻っちまった……」

「何残念がってんだよ、リーダー」

「そうそう、詩織さんにチクりますぜ?」

「やめろ! 詩織にチクったら絶対許さねぇぞ?」

「まあ、その前にリーダーがタダじゃあ済まねぇな……」

「詩織さん、おっかねぇからな~」

「俺たちがこんなことしてるって知ったら……」

「ああ! 俺の女の話はいいんだよ!

それより、首尾はどうなんだ?」


リーダーと呼ばれていた男は、直也と呼ばれていた男とその側で着替えていた男の方を向く。

それと同じように、周りの男たちも視線を向けた。


「二人のダンジョンマスター素人から、ダンジョンの譲渡を受けてきましたよ。

どちらもDPは、九千ほどでした」

「これで、今月に入って十二個目です」

「ならば、この辺りが潮時か……」

「どうしました、リーダー。

他のダンジョンマスターの居場所は分かっているんだから、交渉に行かないのか?」


直也は、消極的なリーダーに質問する。

もっと交渉して、ダンジョンの権限を回収したかった。


するとリーダーが、自分のスマホを操作してあるニュースサイトを見せる。


「『ダンジョン詐欺に注意?

厚生労働省の職員を装って、ダンジョンマスターの権限を譲渡させる詐欺が横行している。

政府は、ダンジョンの買取はしていないので注意してください……』

……バレたのか」

「ああ、だからここまでだ。

ここもすぐに撤収して、クライアントにダンジョンを渡して南米に逃げるぞ」

「リーダー、クライアントっていくら出してくれるんです?」

「これだけ出すってよ……」


リーダーは、手の指を二本出してピースの形にした。

それを見て、仲間たちは少しがっかりする。


「二本ってことは、二億ですか……」

「アホ。二億じゃねぇ、二百億だ!」

「二百億円?!」

「マ、マジですかい?」

「ああ、マジだ!

マジで、クライアントは二百億出すってよ」

「……詐欺じゃねぇよな?」

「前金で、百億貰ってる。

だからもし詐欺でも、百億で売れたってことになる……」

「直也、圭介、聡、蓮、百億でも俺たちの取り分はかなりの額だ。

リーダーが、持ち逃げなんてしねぇのは分かってんだろ?」

「まあ、詩織さんがいるからな」

「だな、詩織さんが持ち逃げなんて許すわけねぇし」

「詩織さん、マジ女神だよな~」

「詩織詩織ってうるせぇ!

俺の女を信用して、俺を信用しねぇってのはどういうことだよ!」

「……前があるからですよ、リーダー」

「うっ?!」


このリーダー、前の仕事の時にお金を持ち逃げしているのだ。

その額一千万円。

だが、それをリーダーの女の詩織さんの知るところとなり、その日のうちにボコボコにされて俺たちの前に土下座させられていた。


そして、持ち逃げされた一千万円とボコボコにされたリーダーの土下座とで許してほしいと、詩織さんにお願いされ俺たちは許した。


リーダーが詩織さんと別れない限り、俺たちは詩織さんに免じて一応リーダーをリーダーとして認めている。


「と、とにかく、クライアントに集めたダンジョンの権限を渡して、報酬をもらい日本を離れるぞ」

「了解~」

「それで、どれくらいダンジョンが集まったんだ?」

「え~と、俺と直也で七つ。圭祐と聡で三つか。

連とリーダーが四つだから、全部で十四ですね」

「十四のダンジョンの権限を集めたのか。

クライアントも喜ぶな」

「そうなんすか?」

「ああ、クライアントからは十以上集めてくれって依頼されているからな」

「それじゃあ、ここを引き払ってクライアントに譲渡しましょうぜ」


連がそう言うと、全員立ち上がり掃除をして倉庫を後にした……。




▽    ▽    ▽




Side 大場美百合


月末、沢口さんが言っていた振り込みがある日だ。

お父さんは、朝からソワソワして落ち着かなかったが、銀行に振り込みの確認に行って帰ってくると、かなり焦っていた。


「ど、どうしたんです?」

「た、大変だ?!

俺たちは騙されたらしいぞ!」

「騙された?」

「ああ、さっき銀行で振り込みを確認したんだが振り込まれてなくてな、銀行員に聞いたところ、ダンジョン詐欺にあったらしい……」

「ダンジョン詐欺?」


お母さんは、詐欺と聞いて顔色を青くしている。

私は、どういうことなのか始めは分からなかったが、お父さんの説明を聞いて驚いた。


今月の初めごろ、つまり私のダンジョンマスターになったという報告動画をきっかけに、日本中にダンジョンマスターが現れはじめた。

そして、そのダンジョンマスターをターゲットにした、ダンジョンの権限を買い取る政府の人が現れ始めたそうだ。


日本政府が、厚生労働省ではなく国土交通省の中にダンジョンマスター保護委員会を設立したことが発表されると、ダンジョンの権限を買い取っていた詐欺師たちは、ダンジョンマスター保護委員会の人を名乗って、詐欺を続けていたらしい。


だが、この詐欺が世間にバレると一斉に手を引き詐欺師たちは姿を消した。


で、ダンジョンの権限を売った私たちのような被害者が月末にどっと現れて大騒ぎになっているそうだ。


「ああ、十億円が……」

「……美百合、詐欺だったって」


お父さんとお母さんは、詐欺だったことでショックを受けている。

だけど私は、そんなにショックを受けていなかった。


私は、偶然ダンジョンマスターになったんだし、あのままダンジョンマスターだったとしても何もできなかったような気がする。

それに、今はダンジョンマスターという訳の分からない職種から解放されてスッキリしているのだ。


確かに十億円は惜しかったけど、今はこれでよかったような気がする……。







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