第291話 切っ掛けを作った者



Side 大場美百合


朝、庭の掃き掃除をお母さんからお願いされ、嫌々ながらも箒を持って庭に行くと黒い穴のような物がブロック塀に開いていた。

何これ? と近づいてじっくり見ると、穴の奥が見える。


「……何か、光る物があるみたいだけど……」


穴の奥に、光る物を発見するもどうにも嫌な予感がする。

そのため、中に入ろうとは思えなかった。


穴から離れようとゆっくり後ずさりすると、いきなり穴が私を吸引した!

何を言っているのか分からないけど、その表現が一番今の状況を示している。


「な、何よ、コレ……」


足を踏ん張り、穴の吸引に逆らうもすぐに吸引力が強くなり、私は穴に吸い込まれた。

そして、吸い込まれた勢いで穴の奥まで運ばれ、大きな宝石にぶつかる。



「……い、痛い……」


吸引がなくなり、立ち上がろうと手をそえたのが穴の奥にあった大きな宝石だった。

そして、周囲に響く女性の声。


『おめでとうございます!

ダンジョンコアに触れたあなたは、ダンジョンマスターになりました!

ステータスを更新します!』


そして、すぐに激しい頭痛に襲われ、しゃがみこんだ。

が、すぐに頭痛はなくなり再び女性の声が響く。


『ステータスの更新が終わりました!

ダンジョンを構築してください。

あなたの初期ダンジョンポイントは、九千二百です!』


ステータス?

ダンジョンパークでもらった、ギルドカードに確かあったけど……。

そう思い、ポケットに入れていたギルドカードを取り出す。


「ウソ……」


そこに表示されている職種の項目に、ダンジョンマスターと表示されていた。

私、本当にダンジョンマスターになったんだと、愕然としてしまう。


……でも、私これからどうすればいいの?



ダンジョンマスターになってしまったのなら、それはそれでしょうがない。

泣いても嘆いても、ダンジョンマスターをやめることはできない。

ならば、これからを考えないと……。


こういう時、頼りになるのはSNS!

確か、異世界物の小説や漫画もネットの掲示板に相談して、何とかなっていた記憶がある。

この場所でも、スマホが通じているから早速書き込む。



『庭にできた穴に入ったら、大きな宝石見つけて触ったらダンジョンマスターになった!

これからどうしたらいいの?』


……これで、いろいろアドバイスが貰えるはず!




……十分ほど経過したけど、最初の妄想乙の書き込み以来、誰も書き込まない……。


「美百合~、ごはんできたよ~。

美百合~?」


庭で、お母さんが私を呼んでいる。

どうしよう、このまま何のアドバイスも貰えないままだと……。

とにかく朝食の後、動画で投稿しておこう。


証拠を見せれば、親身になってアドバイスをくれるかもしれない……。

そう考えて、私はダンジョンマスターになったという報告動画をあげたのです。




▽    ▽    ▽




Side ???


俺がダンジョンマスターになったという女の子の動画を見つけたとき、全身に雷が落ちたような衝撃が走った。

そして、これだ! と思ったね。


それから俺は、すぐに着替えると外へ出た。

何カ月ぶりかの外は、少し肌寒かったが今は夜。

人と会うことはないだろうと、山に向かって歩いた。


山に向かって歩くだけで、こんなにも息苦しくなるが俺の野望のためにもここは我慢のしどころだ。

そして、三十分ほどで山の麓に到着した。


だが、そこから始める坂道を見上げて、すぐに心が折れる。

そのため、坂道を上らずに周りを散策して、黒い不思議な穴を見つける。


「……これは、もしかしてあの女の子が見つけた黒い穴と同じもの?」


じっと黒い穴を見つめると、穴の奥に光る何かがあるのが分かった。

これだ! と思った俺は、躊躇せずに穴に飛び込んだ。

そして穴の奥に進み、光る大きな宝石を発見。


すぐに、これだ! と思い近づいてその宝石に触った。

すると、周囲に女性の声が響いた。


『おめでとうございます!

ダンジョンコアに触れたあなたは、ダンジョンマスターになりました!

ステータスを更新します!』


俺にステータスが?! と驚くもすぐに激しい頭痛に襲われ、しゃがみこんでしまった。

そして頭痛はすぐに無くなり、再び女性の声が響いた。


『ステータスの更新が終わりました!

ダンジョンを構築してください。

あなたの初期ダンジョンポイントは、五千八百です!』


来た! 来た来た!! キターーーーーーー!!!

俺はすぐに、定番の魔法の言葉をその場で叫んだ!


「ステータス!」



が、空間に叫んだ言葉が響くだけで、何も起こらなかった。

俺以外いないのにもかかわらず、ものすごく恥ずかしい!!


「どういうことだ?

こういう時は、俺のステータスが表示されるはずだろ?

今まで読んでいた、異世界物の小説や漫画ではすぐに現れるはずなのに……」


何故かは分からないが、ステータス表示はなかった。

だから、ダンジョンポイントの使い道を考えると、交換可能なリストが俺の目の前に表示された。


「これは出るのか……。

俺のステータスが出ないのは、理解できないな……」


そんなことを考えながら、交換リストを見ているといろいろな物が表示されていた。

しかも、項目ごとに分かれているようだ。


「こんなにもいっぱい交換が可能だと、逆に交換しにくいな……。

これはちゃんと計画を立てて交換しないと、大変なことになる気がする」


今まで、計画を立てて行動したことなんてあまりなかったが、ここは計画を立てたほうがいい気がする。

絶対後悔しないためにもな!


「でもその前に、とりあえず俺も、ダンジョンマスターになったという報告動画を投稿しておこう!」


そして、俺も動画を撮って報告動画をあげたのだった……。







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