第289話 驚きの投稿動画 2



Side エレノア


私たちはコアルームで、ダンジョンマスターになったという少女を探していた。

意図して、ダンジョンマスターになったのではないとはいえ、このことをほっておくものはいないだろう。


ある者は接触するか、言いくるめて利用するかもしれない。

またある者は、新興宗教の教祖に祭り上げてしまうかも……。


でもこれは、ダンジョンマスターが有益なものだということが分かっている者だけ。

大半の者は、小説や漫画などの知識で羨むだけかもしれない……。



「見つけたわ、エレノア!」

「さすがミア!

それで彼女は、どこでダンジョンマスターになったの?!」

「新潟県新潟市の自宅ね。

住宅街の庭に現れるなんて、想定外だわ……」

「詳しい場所は分かる?」

「ええ、新潟市の○○○○よ。

名前は、大場美百合。年齢は十五歳。

今年、市内の中学を卒業予定らしいわ」

「そこまでわかるの?」

「彼女、ダンジョンパークで冒険者として登録してあったわ……」


これで、彼女の居場所が判明した。

私はすぐに、虫ゴーレムを向かわせる。


もし万が一、彼女に何かあった場合に、虫ゴーレムが側にいれば、私たちがその虫ゴーレムを目指して転移することができるし、虫ゴーレムを彼女に取り付けさせれば、彼女ごと虫ゴーレムをダンジョンパークに転移させることができる。


どちらにしろ、彼女を守ることができるはず……。


「ミア、彼女のダンジョンってどんなものだか分かる?」

「動画の投稿日から考えれば、初期も初期のダンジョンだと思うわ。

だから、階層も少なくDPも初期値しかない状態ね……」

「ダンジョンマスターの、初心者というわけか。

これは、接触してダンジョンのことを教えたほうがいいのかしら?」

「ん~、そこはマスターと相談してからね」

「私たちでは、どうすればいいか分からないか……」

「それに、彼女の手に余るようならマスターに吸収してもらえば大丈夫だと思うし……」

「それも一つの手か……」


そうね、ダンジョンコアを吸収すればダンジョンマスターから解放されると思うし、大丈夫よね……。


「あ、マスターからメールが……え?!」

「どうしたの? ミア」

「エレノア、大変なことになったわ……」

「?」


……大変なこと?




▽    ▽    ▽




Side 五十嵐颯太


四時間目の授業が終わり、昼食となった。

久しぶりに、高校の授業を受けたような気がするが気のせいだろう。


今日の昼食は、購買で購入したコッペパンにパックのコーヒー牛乳で済ませる。

このコッペパンには、餡子と生クリームが挟んであっておいしいのだ。


「あれ? 颯太、今日は購買のパンなの?」

「ああ、たまにはこういうのもいいだろ?」

「じゃあ、私のお弁当のおかず、別けてあげる」

「お、ありがとう」


教室で、凛と一緒に昼食を食べていると陸斗が近づいてきた。


「颯太、颯太、颯太!」

「……陸斗、昼食はいいのか?」

「そんなの、さっき食い終わったよ。

それよりも、これ見ろよ!

大変なことになっているぞ?!」


そう言いながら、持っていたスマホの画面を俺に見せる。

また、例の女の子がダンジョンマスターになった映像か?

朝も見ただろう?


そう思いながらも、スマホの画面を見ると違う映像が流れた。



『見てるか~!

噂のダンジョンマスター少女!

そして、異世界大好きなロマンを愛する者たちよ!

これを見よっ!!』


そう叫んで、大学生ほどの青年が後ろに隠していた大きな透明の宝石を見せた。


『そうだ! 見覚えがあるだろ?!

これこそ、ダンジョンマスターになるために必要なダンジョンコアだぜ!!

実は、あの女の子の動画を見てから俺も探したんだよ。

近くの山にある洞窟を探したらさ、奥まで続いていてな?

で、一番奥にこれがあったのよ~』


そう言いながら、ダンジョンコアをペシペシと叩く。


『つまり~、俺もダンジョンマスターになったぞ!!』


「な、何じゃこりゃ!!」

「なんじゃこりゃあって、またダンジョンマスターになったっていう報告動画だな。

しかも、今度は男のダンジョンマスターだ」

「……ねぇ颯太、これいったいどうなっているの?」

「分からない。

いったいどうなっているのか……」

「もしかして、この動画の意味って、俺たちにもダンジョンマスターになるチャンスがあるってことなのか?」

「……私たちが?」

「俺も、凛も」

「ダンジョンマスター?」

「ああ。颯太と同じ、ダンジョンマスター……」


俺はすぐに自分の携帯を取り出し、ミアにメールを出した。

二人目のダンジョンマスターが誕生したようだ、と。

そして、他にもダンジョンが生まれていて、誰かがダンジョンマスターになっている可能性があるとも伝えておいた。


動画の中の彼は、ダンジョンマスターになってどんなことがしたいか夢を語っているようだが、初心者で彼が語る夢の実現は無理だ。

まずDPが、圧倒的に足りない。


「?! このままダンジョンマスターが増えると、大変なことになる!!」

「え? 颯太、どうしたんだ?」

「颯太? 何が大変なの?」

「凛、このままダンジョンマスターが増えると、大変なことになる!」

「ま、待って颯太。

落ち着いて、何が大変なことになるのか教えて?」

「……この動画の人のように、これからダンジョンマスターになる人が増えるということは……」

「いうことは?」

「ダンジョンマスターの、初心者が増えること」

「……そうだな、動画の人は初心者だな」

「動画の人も夢を語っているが、叶えるにしても圧倒的に足りないものがある」

「足りないもの?」

「DP、ダンジョンポイントが足りないんだ」

「DP?」

「ダンジョンマスターが、何をするにもDPが無いと何もできない。

ダンジョンマスターになって、最初にあたえられるDPは千~一万だ。

DPと交換で、ダンジョンを成長させるんだが千~一万では、交換できる物も限られている。

また、ダンジョンマスターはダンジョンの防衛もしないといけない」

「それは、ダンジョンコアを壊されるとまずいからな」

「まずいなんてものじゃない。

ダンジョンマスター時に、ダンジョンコアを壊されると死ぬことになる」

「え」

「え?」








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