第286話 教皇の告白
Side 教皇レニフィスティア
「フフフ……」
「……教皇様、何か良いことでもございましたか?」
大聖堂にある今日のいる部屋で、窓の外を眺めながら笑うと御付きのシスターミリアが声をかけてきた。
そんなに、嬉しそうにしていたのかな?
「笑っていたかしら?」
「ええ、とても良い表情で笑っておられましたよ」
「ム~ン、気をつけないと……」
両ほほを、両手でムニムニとマッサージしながら気を引き締める。
どうも、教会による魔王のダンジョンの大失敗の報告を聞いて、嬉しさが表情に出てしまったようだ。
私こと教皇は、魔王のダンジョンの攻略には反対の立場だったのだが、七人の枢機卿の意見があたかも教皇である私の意見のように世間に広まってしまった。
何とか、私は反対したと壇上での挨拶の時に言ったのだが聞き流されてしまった。
これも、七人の枢機卿が裏で手をまわしたからだったのかもしれない。
おそらく、あの集められた信者たちは枢機卿が手配した者たちだったのだろう。
……油断ならないな。
とにかく、私はダンジョン攻略に反対していた。
なぜか?
「フフフ……」
「あ、また笑っておられますね……」
「いやね、思い出していたんだよ。
私は、魔王のダンジョン攻略には反対していたのだが、七人の枢機卿たちによってあたかも私が望んだことのように広まってしまってね、大変だったなと……」
「そういえば、ダンジョン攻略が始まる前に教皇様がダンジョン攻略を反対しているという噂が流れていましたね。
枢機卿たちが、教皇様も賛成してくださっていると仰って噂を払拭されていましたが……」
「実際は、私は反対していたんだよ」
「そうだったのですか……。
でもなぜ、反対を?
魔王のダンジョンは危険なダンジョンです。
攻略も、冒険者たちではままならず、勇者まで投入しようという話もありましたが……」
勇者たちを、本格的に攻略に加えようとしていたのか?
……ということは、その前に教会勢力だけで攻略をしようと枢機卿たちが欲を出し、神殿騎士や神殿兵士を投入したわけか……。
ある意味、欲を出してくれた枢機卿たちに感謝だな。
「そうだね、ミリアには本当のことを話しておいてもいいかな。
これから話すことは、内密にしてくれよ?」
「もちろんです。
教皇様が内密にしたいことは、口が裂けても話しません!」
「いや、口が裂けるほどの拷問を受けたら大変なんだが……。
まあ、いい。
実はね、私と現魔王ディスティミーアは友人関係にあるのだ」
「……へ?」
おお、狐獣人のミリアの目が点になっている……。
まあ、教皇と魔王が友人と聞けば、こうなるのは仕方ないな。
「魔王様、今何と?」
「私は教皇だ。
驚きすぎて、役職を間違えているぞ?
私と現魔王が、友人ということか?」
「……えええええええええぇぇ?!!」
そんな大声をあげると、外にいる護衛騎士たちが入って……。
――――バンッ!!
「どうされました、教皇様!!
賊が侵入しましたか?!」
ドアをブチ開け中に入ってきたのは、ドアの前で護衛している女性神殿騎士の二人。
部屋に入るなり、部屋の中を見渡し腰の剣の柄に手をかけていた。
「何でもありません。
シスターミリアが、報告書の報告で驚いただけです」
「そ、そうでしたか」
「何事も無ければ、私たちは部屋を出ていますので……」
私に一礼して、部屋を出てゆっくりとドアを閉める。
私は、恐縮しているミリアを見ると笑顔で言葉をかけた。
「驚きすぎですよ、ミリア」
「驚きますよ、教皇様!
……教皇様と現魔王が友人って、どうしてそうなっているのですか?」
「教会の精鋭が魔王のダンジョンに潜るという報告を受けた後、現魔王ディスティミーアの使い者という魔族から接触がありました」
「接触といわれても、教皇様は常に護衛の騎士がいたはずですが……」
「私の就寝の時を見計らって、最初は手紙で。
次に、侵入に長けた魔族が来ましたよ」
「教皇様……」
「フフフ、そんな怖い顔をしないでください。
それで、その魔族の女性が言うには現魔王が話し合いを望んでいるということでしたね。
もちろん、俄かには信じられませんでしたが、とりあえず会う返事をした後、何日かして現魔王自ら私に会いに来たのです」
「魔王自ら……」
「もちろん、私の就寝の時間を狙ってですからお忍びで、てことですよ」
「教皇様、女性の寝室に男性を招き入れるのは……」
「現魔王ディスティミーアは女性です。
心配はいりません」
それから私は、魔王と会ってから話し合ったことを話す。
教会の真意や、教皇である私の考えなどだ。
さらに、できることなら関係を修復したいという所まで話し合った。
現状、関係修復は無理だが秘密裏に第三者を通しての関係を続けていくという所で、プライベートの話になったのだ。
実のところ、魔王も一人の女性。教皇をしているとはいえ、私も一人の女性だ。
いろいろな話に花が咲き、教会と魔族との関係の話以上に話すことができ友人関係となったのだ。
「で、でも教皇様、魔王ですよ?
魔王の凶悪さは歴史が証明しています……」
「フフフ、それは先代の魔王の話だ。
ディスティミーアも、先代魔王の影響で必要以上に恐れられて動きにくいと嘆いていたよ……」
「そうなのですか……」
「ああそれと、魔界の門についても聞いたよ。
今現在、魔界の門は開かれていて魔界と最下層にある魔王の町との交易が進んでいるそうだ。
さらに、魔界の魔族との交流もあり潤っているとか」
「は?」
「それにな、天界の門のことも聞いたぞ?」
「え、え?」
「天界の門には、天使族の守護一族の一人がいてな、天界の門を守っているそうだ。
今頃は、浮遊大陸に向かった勇者たちと接触しているころだろう」
「あ、そ、それで、浮遊大陸からの浮遊船の船長が……」
「ああ、それはウソだ」
「……は?」
私は、浮遊大陸から来たという浮遊帆船の船長が、私の用意した偽物だったことを話した。
モントーリ枢機卿を嵌めるために、用意した偽物なのだ。
もちろん、書類は本物だ。
私が用意したモノではなく、本当に私の名前が間違っていたし、私はサインしていなかった。
その辺りのことを話すと、シスターミリアは大きくため息を吐いた。
「はあ~~~~~」
「騙すようなことをして、申し訳ないな……」
「教皇様、今度からは私にもきちんと説明だけはしてください!」
「ああ、分かった」
「ハァ……。
もうないですよね? 私に隠していることは……」
「……たぶん」
そう言うと、ミリアに軽く睨まれた……。
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