第285話 教会の失敗



Side ???


魔王のダンジョンの入り口で、第三陣の追加部隊を整列させていた所に、ダンジョンから攻略部隊が命からがら出てきた。

今まさに送り込もうとしていたアルオール司祭は、出てきた者たちを見て驚いた。


また、一緒にいた二人の枢機卿は、送り込んだ部隊のメンバーを知らなかったため、これから送り込むところを邪魔されたと怪訝な表情をして睨んでいた。


「なんだね、あの連中は……」

「これから精鋭部隊がダンジョンに潜ろうという時に、何という声を上げているのだ……」


その言葉を聞き、側にいたアルオール司祭は二人の枢機卿を見る。


「ニブラス枢機卿、オーランバ枢機卿……」

「アルオール司祭は、あいつらを知っているのか?」

「知っているもなにも、魔王のダンジョンに送り込んだ教会精鋭の部隊です!

それも、第二陣の者たちまで帰ってきている!」


そう叫ぶと、司祭は出てきた部隊の生き残りたちの元へ走り出した。

いったい、ダンジョン内で何が起きてそうなったのか聞くためだ。



「お前たち! 一体何があったのだ?!」

「ア、アルオール司祭様……。

申し訳ございません! 追加部隊は、引き返してきた先発隊と合流して戻ってきました!」

「……戻ってきた?」


アルオール司祭は、先発隊の魔物使い隊の元へ走りっていく。

そして、一人の魔物使い隊の者を捕まえて問いただした。


「どういうことだ?!

神殿騎士たちはどこだ? 神殿兵士の姿も見えないみたいだが……。

それに、魔物使い隊のメンバーも少ないように思えるが……」

「アルオール司祭様、全滅です」

「はぁ?!!」

「先発隊の神殿騎士、神殿兵士ともに全滅しました。

また、魔物使い隊のメンバーも何人か犠牲になり、何とか引き返してきた次第です……」


それを聞いたあるオール司祭は、その場にへたり込み信じられないという表情をする。


「バ、バカな……。

連絡では、順調に百五十階層を越えたと……。

神殿騎士たちの活躍や神殿兵士たちの活躍が、書かれていたはずなのに……」

「どんなだ?!」

「は?」

「どんな最後だったんだ?」

「さ、最後とは……」

「神殿騎士たちだ!

神殿兵士たちでもいい、どんな最後だったんだ?!

お前たちは、見ていたのだろうが!!」


オーランバ枢機卿が、司祭が聞いていた魔物使い隊の者に詰め寄る。

神殿騎士や神殿兵士が、魔物などにやられることが信じられなかったからだが……。


「……神殿騎士たちと神殿兵士たちを全滅に追い込んだのは、第二百階層に出現した黒い人型の女の子の姿をした敵でした。

あの敵は強い! 強すぎたんです……」

「そんなバカな……。

神殿騎士だぞ? 神殿兵士だぞ? 教会の精鋭たちのはずだ……」


オーランバ枢機卿は、司祭と同じようにその場に膝から崩れ落ちた。

それを、ニブラス枢機卿が支える。


その様子を見ていた第三陣の神殿騎士や神殿兵士たちは、胸をなでおろす。

自分たちが、そんな敵と戦うことになっていたかもしれないということに戦慄し、戦うことにならなくて安堵したのだ。


「そ、それでどうするのです?

魔王のダンジョン攻略のために、部隊を送り込むのですか?」


ニブラス枢機卿の言葉に、アルオール司祭、オーランバ枢機卿はハッとする。

そうだ、第三陣に戻ってきた者たちを追加し、送り込めば……。

一筋の光をえた司祭と枢機卿は、立ちあがり追加部隊の神殿騎士の元へ向かう。


するとそこで、アルディオの取り巻きたちが司祭に立ちに詰め寄ってきた。


「アルオール司祭! これはどういうことだ?!」

「な、何ですか、あなたたちは……」

「私たちは、ブログレナー侯爵家嫡男アルディオ様の従者だ!

私たちの顔を忘れたか!!」

「ブ、ブログレナー侯爵様?!

も、もちろん、忘れておりません!

それで、どうなされたのか……」

「どうしたかもあるか!

アルディオ様が……アルディオ様が、お亡くなりになったのだ!」

「な、何ですとぉ?!」


アルオール司祭は、ブログレナー侯爵家からの多額の献金に目がくらみ、ダンジョン探索のための追加部隊にねじ込んだ張本人だった。

そのため、献金をしてくれた侯爵家の嫡男を死なせてしまったことに衝撃を受ける。


「どうしてくれる!

アルディオ様がお亡くなりになったことは、侯爵家に報告させてもらう!」

「貴様のせいで、アルディオ様は……、アルディオ様は……」

「あ、ああ……」


取り巻きたちが、アルディオの死を悼みながら涙を流す中、アルオール司祭は、自身のこれからを考えて顔を青ざめさせていた。



そんな連中のやりとりを横目に、オーランバ枢機卿は追加部隊の神殿騎士たちに近づく。

そして、神殿兵士たちも加えて話をし始めた。


「神殿騎士たちに神殿兵士たち諸君!

私は、オーランバ枢機卿だ!

これから私の命令を伝える!

あそこに整列している者たちを見よ!」


そう言うと、第三陣として追加で送るはずだった神殿騎士たちや神殿兵士たち、魔物使い隊の二人を指さし笑顔でとんでもないことを言い出す。


「これからお前たちには、あの追加部隊を加えて再び魔王のダンジョンへ潜ってもらう!

今度こそ、最下層まで到達するのだ!!」

「……オーランバ枢機卿、その命令は承服できません!」

「?! 何故だ! あそこにいる追加部隊は精鋭部隊だ!

その部隊と共に行けば、今度こそ魔王のダンジョンなど簡単だろうが!!」

「簡単ではありません!

……オーランバ枢機卿は、ダンジョンに潜ったことがないからそう言えるのです。

魔王のダンジョン……、あそこは地獄でした!」

「そ、そうです!

魔物使い隊の従魔無しでは、百階層を超えることもできないでしょう!

それどころか、途中の階層で全滅していた可能性もあります!」

「神殿騎士や神殿兵士の精鋭でも、魔王のダンジョンは簡単に攻略できるダンジョンではありません!

いい加減、魔界の門に固執するべきではありません!!」

「な、な、な……」


オーランバ枢機卿は、怒りに震える。

鬼のような形相で、訴えてくる神殿騎士たちを睨みつけた。

そこへ、ニブラス枢機卿が止めに入った。


「そこまでだ、オーランバ枢機卿。

今は、ダンジョン攻略を考える時ではない。

亡くなった、ブログレナー侯爵家の嫡男アルディオ様の死を悲しむ時だ……」

「ク、クッ!」


オーランバ枢機卿は、ニブラス枢機卿の意見を聞いて悔しそうに顔を逸らす。

そしてニブラス枢機卿は、その場にいた神殿騎士たちに解散を命令した。


こうして、教会主体の魔王のダンジョン攻略は大失敗に終わったのだった……。







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