第284話 黒幕の罠



Side ???


大聖堂にある教皇が使うにふさわしい豪華な部屋、そこにレニフィスティア教皇がソファに座って寛いでいると、ドアをノックされる。


――――コンコン。


「どうぞ」

『失礼いたします、教皇様』


ドアが開き、入ってきたのはシスターミリアだ。

白いシスター服で部屋に入ると、ドアを閉める。


「これはこれは、ハルバル枢機卿」

「教皇様、お戯れはおやめください」


教皇は、フッと笑うと笑顔で話し始める。


「ミリア、あなたも幻惑魔法を解いて素顔をさらしたらどう?」

「ハァ、この顔、気に入っているんですよ?」


ため息を吐き、ミリアは幻惑魔法を解く。

すると、シスターミリアの姿がブレて狐耳を生やした獣人の女性が現れた。

シスターミリアの正体は、狐獣人の女性だった。


「フフフ、私はそっちの方が好きだな~」

「……教皇様、まずは一人目、ですね」

「……真面目な話、ようやくといったところね。

今回のことで、まだまだ先代、先々代の教皇の考えが抜けていないことが分かったわ。

それに、神殿騎士や神殿兵士にも先代や先々代の教皇の意向が生きている」

「そのことを確認するために、かなりの犠牲が出ましたが……」


教皇は、ミリアにフッと笑顔を見せる。


「ミリア、心配はいらないわ。

魔王のダンジョンに潜った神殿騎士や神殿兵士は、そのほとんどが枢機卿たちの子飼いの連中なのよ。

つまり、枢機卿たちと同じく先代や先々代の教皇の考えに賛同している連中よ。

私の考えに、反発していた連中ともいえるわね……」

「では、今の七人の枢機卿はどうなのです?

モントーリが破門となり、六人になりましたが……」

「枢機卿は、私こと教皇が任命したのにって言いたいのね?

フフフ、私の任命した枢機卿たちは、どれも先代、先々代の教皇のことを崇拝している連中を選んだのよ。

そうすれば、今回のように暴走してくれるからね……」

「教皇様、そこまでしなくとも教皇様のお考えに賛同してくれる方をお選びになれば……」


教皇は、フルフルと顔を左右に振る。


「それでは、ダメなのよ」

「なぜです?」

「それでは、教会内部に先代、先々代の人族主上主義が残ってしまうわ。

それではいつまでも、教会の教義を改正させることができないのよ……」

「教会の教義……」

「今回の事でも分かったでしょうけど、教会の教義には人族以外を人とみなしていないのよ。

人族か、人族以外としか記載されていないの。

今でこそ、人族、獣人族、ドワーフ族、エルフ族を同じように扱うけど、まだまだ人族主上主義がはびこっている。

特に、教会の上層部は先代、先々代のせいでそれが当たり前になっている……」


すべては、教会の教義を書き換え、すべての種族を認めること。

そして、平等に扱う。

世界中にある教会が、それをすることですべての種族から崇拝されるのよ。


「……教皇様が、差別をなくすと宣言されるだけではダメなのですか?」

「ダメね。

教会の最高権力者である教皇の命令でも、守るものは少ないでしょうね。

教皇になってから分かったけど、教皇の目が行き届くのは上層部のみなのよ。

各地の教会や、信者たちのことまで知ることはできない。

だから、目の行き届かない所で今までの教会と同じことが繰り返されるだけなのよ……」

「教皇様……」

「教皇である私が変われば、何て昔は考えていたけど、教皇になって初めてこんな事実に気づくなんて……。

だからこそ、上から変えていかなければならないの」


ミリアは黙って、教皇レニフィスティアを見ている。

その表情は、何か痛ましいものを見るかのようであった。


そんなミリアの視線に気づいて、教皇は苦笑いをする。


「あ、そうそう。ミリアは知ってる?

他の枢機卿たちも、もうすぐ行動を起こしそうだってこと」

「へ?」

「漸く、教会の人族主上主義者を破門にできるわ!

それが終わったら、新たな枢機卿を選別して教会の教義を変更させるわよ。

教会の末端まで、新しい教義の元で動いてもらうわ。

上から下へ、教義の徹底を行えば教会内の人族主上主義はなくなるでしょう」

「……教皇様、本当に無くなるとお考えですか?」

「フフフ、まあ、無くならないでしょうね。

こういうことは、時間がかかるから……」

「それが分かっているのなら、私は教皇様について行きます」

「ええ、ミリアもお願いね?」

「それと、オルレニード大司教様は……」

「オルレニードは大丈夫よ。

私と同じ考えの人だから」

「それなら、今後のことも協力をお願いしてみては……」

「その必要はないわ。

オルレニードは、たぶん私のやっていることを分かっていると思うわ。

分かっていて、あんな小芝居をしているのよ。

私は、何も知りませんってね」

「……大司教様なら、ありえるのが恐ろしいですね」

「あの狸爺、今頃私の計画を考えながらほくそ笑んでいるはずよ」

「……」

「それよりもミリア、これからもよろしくね」


すると、ミリアはシスターミリアに姿を変えて答える。


「お任せくださいませ、レニフィスティア教皇様」

「フフッ」


一礼するシスターミリアに、教皇は笑顔を見せた。




▽    ▽    ▽




Side ???


魔王のダンジョンの入り口前、大きな門が構えている前に二人の男がアルオール司祭といた。

さらに、神殿騎士三十人と神殿兵士六十人、魔物使い隊からは二人だけが整列している。


「ニブラス枢機卿、オーランバ枢機卿、追加のダンジョン攻略隊の準備が完了しました」

「さすが、アルオール司祭。

モントーリ枢機卿推薦の人物ですね」

「ええ、こんなにも屈強な精鋭を集めることができるとは……」

「お褒めいただき、ありがとうございます。

それでは、すぐに魔王のダンジョンへ出発させます」

「ああ、かなり奥の階層へ進んでいるそうだからな。

これだけ追加が来れば、初めに送られた者たちも十分な休息がとれるだろう」

「では、出発させま…『戻ってきたぞー!!』」

「なんだ?」


枢機卿二人をはじめ、整列していた第三陣の全員がダンジョン入り口を見る。

するとそこには、ボロボロになっている神殿騎士たちや神殿兵士たち、魔物使い隊の面々が歓喜の声を上げていた。


「あれは……」


枢機卿二人が、怪訝な表情をしている隣で、アルオール司祭が、信じられないという表情で見ていた……。








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