第283話 破門
Side ???
「何の用ですか? オルレニード大司教。
それに何故、レニフィスティア教皇様までいらっしゃるのですか?」
大司教の使っている応接室に入ると、教皇様がソファに座ってモントーリ枢機卿を笑顔で見ている。
そして、教皇様の対面のソファには、オルレニード大司教が座っていて枢機卿を睨んでいた。
そんな対応を見て、モントーリ枢機卿は何故呼ばれたのか分かっていない。
「モントーリ枢機卿、まずはそこへお座りください」
「教皇様のお隣に座れと、そのような恐れ多いことを言われるのですか?」
「構いません、モントーリ枢機卿。
それとも、私の隣には座りたくないのですか?」
モントーリ枢機卿はすぐに頭を下げて答える。
「そのようなことはございません。
教皇様のお隣に座れる栄誉に、恐縮していたところでございます。
……では、失礼いたします」
そう言って恭しく、教皇様の隣に腰を下ろした。
オルレニード大司教は、枢機卿が座ったのを確認して一枚の紙を懐から取り出しテーブルの上に置く。
「これは何ですかな?」
「モントーリ枢機卿は、ご存じのはずですが?」
「私が?」
そう言って、少しだけ驚く枢機卿。
そして、テーブルの上の紙を手に取ると黙読する。
「………これは、私の名で出された命令書ですな。
宛ては勇者様方になっているようですが?」
「それは、浮遊大陸から来た浮遊帆船の船長が届けてくれたものです。
この、勇者様方からの告発状も一緒に」
そう言うと、大司教は再び懐から一枚の紙をテーブルの上に出した。
その紙は、枢機卿が手にする前にレニフィスティア教皇様が手にする。
そして、静かに黙読し始めた。
「告発状、ですか……」
そう言った後、教皇様は告発状を持ったまま、テーブルの上に置かれていた命令書を手にして黙読し始める。
「……モントーリ枢機卿」
「は、はい。い、いかがされましたか……」
教皇の声のトーンが一気に下がり、枢機卿は驚いた。
レニフィスティア教皇は、五年前に選出されたばかりの若い女教皇だ。
歳も、三十代になるかならないかで、誰が見ても美人の部類に入るほど美しい。
また、敬虔な教徒であり先代の枢機卿や教皇からも一目置かれているほどだった。
だからだろう、五年前の新たな教皇を決める会議で満場一致で彼女が選ばれたのだ……。
「この命令書には、私のサインもあるようですがどなたがされたのでしょうか?」
「それは、教皇様ご自身がされたはずです。
そうでなければ、私や他の枢機卿がサインをするはずがございません……」
「へぇ~、私の名前が間違っているのに、ですか?」
「へ……」
「私の名前は、レニフィスティア・オルヤードです。
ですがこれには、レニフェスティア・オルヤードと記載されています。
いったい、レニフェスティアとはどなたなのでしょうか?」
「きょ、教皇様、し、失礼したします!」
「どうぞ」
モントーリ枢機卿は、教皇様が見ていた紙を渡してもらい、じっくりと命令書を調べる。すると、教皇様が指摘した通り一番間違えてはいけない名前が間違っていた。
これでは、この命令書は無効となる。
「こ、これでは、天界の門を手に入れることができない……はっ!」
「やはり枢機卿の計画ですか……」
「だ、大司教、違う、違うのだ!
教皇様、天界の門と魔界の門を教会の管理下に置くことは、我らの悲願だったはずです!
浮遊大陸で天界の門を、魔王のダンジョンで魔界の門を手に入れれば、三つの世界が教会の名のもとに管理できるのです!
天使族、魔族を根絶やしにすることで、魔王や似非神の存在に一喜一憂することもなくなるのです。
私は、教会のためを思って……」
教皇と大司教は、立ちあがって熱弁をふるう枢機卿を黙って見ていた。
じっと、ただ見ているだけ。
だがその視線が、枢機卿にとっては何か恐ろしいものに思えてしまい黙ってしまったのだ。
大量の汗をかき、その場にへたり込んだ枢機卿に教皇様が口を開く。
「モントーリ枢機卿、あなたは頭が良かった。
オルガーナ都市での活躍を知り、私が枢機卿に任命しましたが時期尚早だったようですね」
「教皇様、そのオルガーナ都市での活躍、もう一度調べ直した方がよろしいかと思います」
「そうですね。
オルレニード大司教、お願いできますか?」
「畏まりました」
「それと、私の名を偽った者たちを見つけ出し捕縛しなさい。
あと浮遊大陸への命令と、魔王のダンジョンへの命令を無効とします。
すぐに引き返させること」
「畏まりました」
そう命令した後、教皇はソファから立ち上がり枢機卿を見る。
「モントーリ枢機卿、あなたを破門とします」
「そ、それは!」
「あなたの計画は、すべて大司教から聞かせてもらいました。
俄かには信じられませんでしたが、あの命令書や勇者たちからの告発状で確信しました。
また、天界の門と魔界の門を手に入れようとしていたようですが、教会はそんなこと望んではいません」
「教皇様!
天界の門と魔界の門を手に入れることは、教会の悲願だったはずです!
二つの門を手に入れて、教会の力を広げようと……」
「それは、先々代の教皇様の願いであり、教会の願いではありません。
さらに言うなら、今の教会は天界の門にも魔界の門にも執着しておりません!」
「そ、そんな……」
教皇は、崩れ落ちるモントーリを見下すとそのまま部屋を出ていった。
扉を開けて部屋を出たとき、大司教に一言告げる。
「あとのことはお願いします」
「畏まりました」
大司教は頭を下げて、教皇様を見送った……。
▽ ▽ ▽
Side ???
「私は、教会の悲願をかなえようと……」
床に崩れ落ち、ぶつぶつと呟くだけになったモントーリ。
すでに教皇様から破門され、枢機卿の地位も無くなった。
大司教は、モントーリの側まで近づいてしゃがむと話しかけた。
「モントーリ、この計画はお主が考えたものではないのだろう?
神殿騎士や神殿兵士、それに勇者たちを動かして天界の門や魔界の門を手に入れようとした計画は、誰が考えたのだ?」
虚ろな目で大司教を見ると、ゆっくりと答え始める。
「ハルバルだ。
ハルバル枢機卿にこの計画を聞いて……私は……私は……」
「ハルバル枢機卿、ですか……。
モントーリ、枢機卿は七人いるが、ハルバルという枢機卿は存在しない」
「そ、そんなバカな!
私は、確かに……ハルバル……ハル、バル?
だ、誰だ?」
信じられないと、大司教に掴みかかるがすぐに自分が何を言っているのか、困惑し始めるモントーリ。
大司教は、思う。
これは、幻惑の魔法か? と。
「……これは、大変なことになるな……」
大司教は、混乱して頭を抱えるモントーリを見て、ため息を吐いた……。
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