第282話 もたらされた情報



Side 魔物使い隊 クリン


神殿騎士たちや神殿兵士たちが、我先にと魔物たちへ突っ込んでいく。


神殿騎士が、盾で魔物の攻撃を防ぎ、その隙に神殿兵士が槍を突きだし攻撃する。

その攻撃にオーガが突き刺されて苦しむが、横からオークが神殿兵士に攻撃を加える。

オークの攻撃を神殿騎士の盾が防ぎ、剣でオークの首を狙う。


神殿騎士と神殿兵士の二人一組で、魔物と戦う姿を見て俺は感心していた。


「神殿騎士や神殿兵士の戦いって、まともに見たけど……」

「結構戦えているな!

俺たちの従魔が戦わされてきたが、騎士も兵士も強かったんだな……」


隣で見ていたデリーも、俺と同じように感心している。

だがその中で、馬に乗って戦っているのが例の貴族の嫡男様だ。


取り巻きたちに指示を出し、神殿騎士や神殿兵士たちを動かして、自分が戦いやすいようにしている。

あんな戦い方で、大丈夫か?


そんな心配をしていると、神殿騎士や神殿兵士たちが、オーガやオークジェネラルと混戦をしているところに、サイクロプスがゆっくり近づいてきた。

そして、何かを探している……。


何を探しているのかと、サイクロプスの視線の先を追っていくと、例の貴族様に突き当たった。

どうやら、神殿騎士や神殿兵士たちの指揮官を探しているらしい。

そして、見つけてニヤリと笑い、デカい棍棒を振り上げた。


「あ! 危ないっ!!」

「逃げろ! 貴族様、逃げろ?!」


戦いを見ていた俺とデリーが、貴族様に迫る危険に気づき思いっきり叫ぶ。

だがその声は、神殿騎士や神殿兵士たちの戦いの声にかき消され、貴族様に届かない。

その間にも、危険は迫っている。


そして、サイクロプスが上段に構えたデカい棍棒が、思いっきり振り下ろされる!

それを見ていた俺とデリーは、さらに叫んだのだ。

例の貴族様に危険が迫っていると……。


だが、棍棒は馬で駆ける貴族様に直撃する……。


「さあ、かかって、ブゲッ??!!」

「なっ?! ……アルディオ様!!」

「な、何が……アルディオ様?!」


棍棒の一撃で、馬ごと潰された貴族の嫡男。

その周りにいた取り巻きたちは、棍棒の一撃で起きた地震に驚き、仕えていた貴族が潰されていて、さらに驚いた!


「あ! あ、ああ……」

「ク、クリン、どうする?」

「……魔物使い隊! ケルベロスとオルトロスを後方から嗾けろ!

オーガとオークジェネラルは、神殿騎士と神殿兵士に任せて、俺たちはサイクロプスを狙うぞ!!」

「「「「オオッ!!」」」」


魔物使い隊の面々は、俺の指示で動き出した。

準備はしていたんだ。

サイクロプスの後方から、ケルベロスやオルトロスを襲いかからせブラックユニコーンの角で突き刺す!


フリーズバードは、サイクロプスの膝を凍らせるためにフリーズブレスで攻撃する。


『グオオオオォォ!!!』


サイクロプスの断末魔が響き、膝が砕けて倒れこんだサイクロプスの首を、ケルベロスが噛み砕いて抉った!

その攻撃で絶命したサイクロプスは、光の粒子に変わって霧散する。


サイクロプスがいなくなった影響か、オーガとオークジェネラルの動きが鈍り、その隙をついた神殿騎士と神殿兵士たちの攻撃で討伐することができた。


「我らの勝利だーーーっ!!!」

「「「「「オオオォォ!!!」」」」」


神殿騎士の一人が叫び、騎士たちや兵士たちが勝鬨を上げる。

だがそこに、貴族の嫡男はいないし取り巻きたちも加わっていない……。


俺たちは、従魔たちに駆け寄り褒めていると、取り巻きたちの一人が大声で喚き出す。


「アルディオ様!! アルディオ様ぁ!!!」

「なんということだ……」

「我々は、大切な方を失ってしまった……」

「おおぉぉぉ、おおおおおぉぉぉ………」


最初は泣きわめき、そして、神殿騎士や神殿兵士たちに当たり散らすようになった……。


「お前たち! なぜ、アルディオ様を守らなかったのだ!!」

「む、無茶を言わないでください。

あんな混戦の中で、守れるわけがないでしょう……」

「それでも、守らなければいけなかったんだ!」

「そうだ! アルディオ様の代わりに、お前たちが潰されればよかったのだ!」

「そんな無茶な……」

「無茶ではない! アルディオ様亡き今、これからどうすればいいのだ!

このダンジョンから、脱出できるのか?!」

「……」


たぶん、できると思う。

貴族の嫡男がいてもいなくても、ダンジョンからの撤退に影響はないと思う。

今までも、役に立っていたとは思えないし……。


まあ、そんなことを今、口が裂けても言わないが。

でも、こんな罵りがいつまで続くのか……。




▽    ▽    ▽




Side ???


聖堂内で、神の像の前で祈りをささげている男がいた。

教会の大司教、オルレニードだ。


かなりの高齢にもかかわらず、祈る姿は神々しく見える。

だからこそ、その姿を見た者は自然と自分も祈りをささげてしまうだろう……。

だが、今ここにはオルレニード大司教しかいなかった。


そんなところに、シスターが一人走ってきた。


「大司教様! オルレニード大司教様! 大変でございます!!」


その声に気づいた大司教は、祈りをやめて走ってくるシスターに振り向いた。

その表情は、孫を見るような好々爺のようであった。


「どうしましたか? シスターミリア」

「どうしたかではございません! これを、これをご覧くださいませ!!」


そう言うと、大司教へ一枚の紙を手渡した。

オルレニード大司教は、その紙を受け取りゆっくりと読み始める。

すると、だんだんと表情が険しくなっていった……。


「シスターミリア、これはどこからの情報ですか?」

「港に停泊している浮遊船、ゴスパリナス号の船長からの情報です!

浮遊大陸からもたらされたものだとか……」

「……浮遊大陸へは、勇者様方が行かれているはずですよね?

確か、モントーリ枢機卿が無理を言ったとか聞きましたが……」

「そうです!

モントーリ枢機卿が、天界の門の捜索を頼んだとか言っていました」

「それで、この情報ですか。

……これは、教会への背信行為そのものですよ!

すぐに、モントーリ枢機卿を呼んでください。

それと、枢機卿一人で進めていた計画ではないはずです。

神殿騎士に命じて関係者を探し出し、すぐに捕縛をお願いします!」

「は、はい!!」


シスターミリアは、再び走って聖堂内を出ていく。

その姿を見届けると、深くため息を吐いた。


「モントーリ枢機卿、一体何のために天界の門と魔界の門を見つけようというのです。

それに何故、教皇様を巻き込むのか……。

浮遊島が落ちた意味を、枢機卿は理解していないのか……」


大司教は一人、表情を歪めながら呟いた。







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