第281話 思惑と



Side ???


私は、大貴族といわれたブログレナー侯爵の嫡男アルディオ。

父の命により、魔王のダンジョンを攻略する教会の部隊の監督騎士を任された。


あまり気は乗らなかったが、この戦いに参加すればサミリア第二王女との婚約が成立するという父の言葉を信じて参加することにした。


ぐふふ、学園で見初めたサミリア第二王女との婚約が成立するなら、どんな場所でも行って見せよう。

それに父の話では、教会の部隊が強いため私はついて行くだけでいいそうだ。


こんなおいしい話はない!

だが、ついて来てみて教会の部隊の弱さが明らかになった。

何だ、この弱さは!?


あんな小さな白い獣相手に、神殿騎士や神殿兵士たちが手も足も出ない!

それどころか、魔物使い隊などと言うふざけた獣使いどもの連れていた魔物も弱かった!


「アルディオ様、教会の守りの要である神殿騎士がこのように弱いとは想定外でしたな……」

「そうだな、これでは父によい報告ができないぞ?」

「そこは、教会のせいにすればよろしいかと思います。

ただ問題は、サミリア王女様との婚約話です」

「……まずいのか?」

「はい、このまま帰ることになれば婚約話は白紙に戻されるでしょう。

それどころか、ブログレナー家の降爵の話も出てくるかもしれません」

「そんなバカな! 爵位が下がるなど聞いたことがないぞ?!」

「ええですから、それぐらいの最悪の汚点となる可能性も、と。

しかもそれをさせてしまった、アルディオ様の廃嫡もあるかもしれないと……」


そんな、まさか……。

私が廃嫡?

ありえない!

私には、兄弟はいないはずだ。だから廃嫡はありえないと思いたい、が……。


「しかしなぜ、そこまでの話になるのだ?

たかだか、ダンジョン攻略に失敗しただけだろう?」

「ええ、ですが、今回は教会主導で行われた攻略です。

つまり教会のメンツがかかった攻略であったのです。

そのために、教会の守りの要である神殿騎士や神殿兵士をこんなにも大量に投入されているのです。

そこに、ブログレナー家が横やりを入れてアルディオ様を無理やり同行するようにねじ込みました。

それも、王家との婚約話を成立させるために、です。

おそらく、アルディオ様の功績づくりにこの教会のダンジョン攻略を利用されたのでしょう。

ですが、蓋を開けてみれば教会側の失敗に終わる……。

これが何を意味するか、アルディオ様ならばお分かりになるでしょう?」

「……」


な、なんということだ!

私は軽く考えていたが、こんなにもまずい状況になっていたのか……。


……それにしても、この護衛、さすが王家からの派遣の護衛だな。

頭がいい上に、私の立場をよく理解している……。


「……どうすればいい」

「アルディオ様?」

「どうすればいいのだ?

このまま、おめおめと帰るわけにはいかないのだろう?!」


護衛の男は、フッと笑うと笑顔で私に助言する。


「簡単なことですよ、アルディオ様。

アルディオ様の指揮で、功績をおつくりになればいいのです。

まずは、この先の第四十階層にいるボスを倒しましょう。

アルディオ様の指揮の下、この先にいるボスを次々と倒すことができればよい功績となるはずです」

「よし! 四十階層のボスを必ず私の指揮の下で倒す!

良いな、皆のもの!」

「「「ハハッ!」」」




▽    ▽    ▽




Side 魔物使い隊 クリン


……馬車の横を歩いているだけなのに、馬車の中からアホな企みが聞こえた。

こいつら、何を考えているんだ?

いや、それよりもなんだその約束は!


王家の王女との婚約?

そんなことのために、俺たちは使われるのか?

やっとの思いでここまで引き返してきたというのに……。


確か、四十階層のボスは巨人のゴーレムだったよな。

取り巻きに、人型ゴーレムが三十体出てくる厄介なボスだったと記憶している。




四十階層に到着して、すぐにボスと遭遇する。

まあ当然だろう。ボスを倒して下層への階段が出現するのだから、階段を上ればすぐにボスと戦う破目になる。


「おいおいおい、ここのボスはゴーレムのはずだろ?

あれが、ゴーレムに見えるか?」

「いや、俺にはサイクロプスに見えるな、一つ目の……」

「しかも、周りにいるの、オーガだろう?」

「いや、何体かオークジェネラルが混ざっているが……」


俺たちが驚き、呆然としていると馬車から飛び降りてきた貴族の嫡男が大声をあげる。

何やら、タクトのような棒を振り回して叫んでいる。


「神殿騎士たちよ! 神殿兵士たちよ!!

怯むな! お前たちなら、この困難を乗り越えられると私は信じている!!

神殿兵士は、槍を構えて前へ出よ!

神殿騎士は、盾を構えて剣を抜け! 私の指揮のもと戦えば勝利は約束されたも同然だ!」

「神殿騎士たちよ! アルディオ様の指示だ! 心して戦え!!」

「神殿兵士たちよ! アルディオ様が見ているぞ! 心して戦え!!」


……何だろう、俺たち魔物使い隊を無視している。

指示も何もなく、神殿騎士と神殿兵士たちだけで戦おうとしている。

大丈夫なのか?


「お、おいクリン、俺たちはどうする?」

「指示はないけど、とりあえずケルベロスやオルトロスを後方から襲い掛からせよう。

神殿騎士や神殿兵士の戦いを邪魔すると、あの貴族から文句言われそうだしな……」

「だな。おい! 俺たち魔物使い隊も動くぞ!」

「了解! 準備しろ!」


俺たちが、ケルベロスやオルトロスに指示を出そうとすると貴族の嫡男の取り巻きたちが睨みつけてきた。

そして、貴族の嫡男から指示が来る。


「お前たち獣使いは動くな!

神殿騎士や神殿兵士の邪魔だ! 後方で見ていろ!」

「し、しかし、私たちの従魔は……」

「黙れ! そんな魔物などの力を借りずとも、こんな魔物なぞ我ら人の力で倒して見せるわ!!

かかれぇ!!!」

「「「「「オオオォォ!!!!」」」」」


神殿騎士たちと神殿兵士たちが一斉に、魔物たちへ襲いかかっていく。

馬車から外した馬に跨り、貴族の嫡男や取り巻きたちも魔物に向かってかけていった。

自分たちだけで戦う気のようだ……。


「な、なあ、どうする?」

「貴族様の指示だ。

俺たちはいつでも戦えるように準備して、後方で見ていようぜ……」

「あ、ああ……」


神殿騎士や神殿兵士たちの戦いを見ながら、俺たち魔物使い隊の面々は後方に待機した。

もちろん、いつでも戦いに参加できるように準備して、だが……。







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