第280話 合流、そして…



Side ???


「ハァ、ハァ、ハァ」


大聖堂の長い廊下を、贅肉の付いたぶっとい身体をしたアルオール司祭が走っていた。

顔中に汗をかき、必死の形相で走っている姿は、すれ違う教会関係者たちを怯えさせるほどだった。


だが、それでも走らなければならなかった。

手に握られた報告書を見せるために……。


「ヒィ、ハァ、ヒィ、ハァ……」


そして、ようやくたどり着いた扉の前で止まった。

膝に手をかけ、ゼイゼイと息を整えながら、ゆっくりと扉をノックする。


―――――コンコンッ。


『誰だ?!』

「あ、アルオール、です。

す、枢機卿に、おし、お知らせしなければ、ならないことが……」

『……入りたまえ!』

「し、失礼、します!」


すぐに懐から取り出した布で、顔の汗をぬぐい布をしまうと、ゆっくり扉を開けた。

部屋の中には、机の上の書類に目を通しているモントーリ枢機卿がいた。


そして、部屋に入ってきたアルオール司祭を見て言葉をかける。


「……いったいどうしたんだ、司祭。

そんなに汗だくになるほど、緊急の知らせか?」

「そうです! とにかくまずは、この書類をご覧ください!!」


そう言うと、枢機卿に持ってきた報告書を渡す。

汗で少しべたついていたが、表情を変えることなく枢機卿は報告書に目を通す。


そして、だんだんと驚き始める。


「な、何だこれは?!」

「追加で送った、第二部隊からの報告です!

魔王のダンジョン内で、足止めをくらっているようで、今もって合流できていないとのこと!」

「……それで、司祭はどうするのだ?」

「私としては、第三部隊を送りたいのです。

その許可を枢機卿に……」

「……いいだろう、許可しよう。

すぐに第三部隊を送り込め!

司祭のことだ、すでに用意は済んでいるのだろう?」

「はい、もちろんです。

すぐに送り込みます!」


そう言うと、急いで部屋を出ていった。

魔王のダンジョンで何が起きているのかもわからず、何故第二部隊が合流できていないかも知らなかった。


報告書には、第二部隊がダンジョン内で足止めをくっているとだけ記されていたからだ。

物資の不足か、それとも魔物によってかは分からなかった。

それでも、司祭は第三部隊の準備を進めていた。


これは、こんなこともあろうかと、という準備の良い誰かさんのようである。


「一体何をしているのだ、追加の第二部隊は……。

しかし、精鋭を集めたはずの追加部隊が、この体たらく。

これでは、第一部隊の順調さも疑問視しなければならないかもしれんな……」




▽    ▽    ▽




Side ???


魔王のダンジョンの第五十層で白い獣との戦いを続けていた第二部隊の者たちは、焦っていた。

神殿騎士や神殿兵士たちの大半が、傷つけられ戦闘不能になり、後方へと退避させられて動けない状態だ。


さらに、魔物使い隊の従魔はオルトロスが大半で、白い獣に対して怯えるものが多く満足に戦えていない。


「どうする?! どうする!」

「このままでは、全滅だぞ?!

何とかしろ! こんな時の魔物使い隊だろうがっ!」

「クソッ、後方で喚いているだけの豚が五月蠅い……」


神殿騎士たちの隊長というのが、後方から五月蠅い声で喚いている。

そんなに元気なら、前に出て戦えと魔物使い隊の面々は思っていた。

だが、大声で言うことはない。


何故なら、その男は教会にたくさんの寄付金を払っている大貴族の息子らしい。

権力の怖さは、魔物使い隊の面々もよく分かっていた……。


「どうする?」

「……ん? 白い獣が後ろを振り返ったぞ?」

「本当だ、何か気になるものでもいるのか?」

「あ!」


白い獣は、後方を気にして振り返った後、すぐにその場から逃げ出す。

だが、焦ったような感じではなかったが……。


白い獣がいなくなり、少しすると声が聞こえる。


「お~い」

「明かりだ! 誰かいるぞ!」

「本当? なら助かったな……」


そんなことを言いながら姿を現したのは、同じ魔物使い隊の制服を着た者たちだ。

さらに、従魔と思えるケルベロスを連れている。


「あれは、ケルベロスだ!」

「後方に、ブラックユニコーンも見えるぞ!」

「あの人が連れているのって、フリーズバード?」


第一陣の魔物使い隊だ!

……だけど、人数が少ないうえに、他の人たちが確認できない。

一体何があったんだ?


こうして、第一部隊の生き残りと第二部隊の面々が合流を果たした。

それも魔王のダンジョンの第五十階層で……。




▽    ▽    ▽




Side 魔物使い隊 クリン


俺たちは、ようやく五十階層で追加部隊に合流できた。

だが彼らも、白い獣との戦闘でかなりの手痛いダメージを負っていた。


追加部隊が遭遇した白い獣。

それは、獣系の姿をしていたにもかかわらず従魔の卵が効かなかったらしい。

従魔の卵という魔道具は、勇者が作った魔道具なだけあって、獣系の魔物には効果があったはずだが……。


もしかして、新種の魔物だろうか?


『それにしても、今でも信じられません。

本当に他の方たちは、生き残っていないのですね……』

『ああ、そうらしい。

何度も説明されたが、二百階層で出現した人型の魔物に全滅させられたそうだ……』

『役立たずの魔物使い隊が生き残っても……。

大方、神殿騎士たちに逃がしてもらったのだろう』

『神殿騎士は、誇り高い騎士たちだからな!』

『弱い者のために、自分を犠牲にして逃がしてもらったのだろうな……』


合流後、後退するためにダンジョン内を上へ上へと引き返している中、神殿騎士の隊長という豚が、部下たちとさっきから五月蠅かった。

しかも、ダンジョンに馬車を持ち込んで自分たちだけ乗って進んでいるのだ。


「な、なあ、あいつら何なの?」

「ああ、大貴族の嫡男とその取り巻きたちです。

ダンジョンに潜ってから、ずっとあの調子で……」


魔物使い隊の面々も、辟易している様子だった。

いくら大貴族とはいえ、常識が無いのは困ったものだな……。







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