第279話 撤退戦は続く
Side 魔物使い隊 クリン
従魔のケルベロスたちを操りながら、俺たち魔物使い隊の生き残りたちは、ようやく百一階層まで撤退してきた。
この階層は、山岳階層になっていてあちこちにワイバーンがいた階層だ。
紅龍がワイバーンを倒しまくっていた階層だったから、よく覚えている。
ワイバーンの素材がどうのこうのと、神殿騎士や神殿兵士が言い争っていたな……。
結局、いろいろと素材を諦めなければならないとガックリしていたのを思い出した。
「……どうだ? ワイバーンの気配はするか?」
「いや、従魔たちも大人しいしワイバーンの気配は無いみたいだ」
「デリー、周辺の様子はどうだ?」
「フリーズバードを飛ばして警戒しているけど、この階層に魔物の姿は確認できないな……」
「ん~、ということはここは安全階層ということかな……」
山を上ったり下ったりを繰り返しながら、フィールドを進んでいるが魔物が襲ってくる気配はない。
どうやら紅龍がワイバーンを狩りすぎたため、この階層が魔物がいない安全階層になってしまっているようだ。
「お~い。上の階層へ行く階段を見つけたぞ~」
ブラックユニコーンに騎乗して、上への階段を探していた仲間が戻ってきた。
階段を発見したらしい。
「これで、百階層へ行けるな……」
「これまで何とか進んできたが、これからまた魔物たちと戦いながら戻るのか……」
「食料は、途中の階層で魔物を倒して手に入れた。
水は魔法で何とかなる。
問題は、みんなの疲労か……」
休息をとるにしても、魔物を警戒して完全に休息がとれていない。
野営の経験はあるものの、何をどうすればいいのか分からないことばかりだ……。
「とにかく、従魔の卵が何個かあって助かったな」
「ああ、セリーに感謝だよな。
アイテムボックスのスキルを持っていて助かったぜ」
「でも、同じ魔物使い隊の俺たちにも内緒にしているなんてな……」
俺とデリーが話しながら歩いていると、セリーが話に入ってきた。
「仕方ないでしょ?
みんなに知られると、荷物持ちになりそうだったからね」
「そんなことしないって……」
「どうかしら。
みんな、自分で荷物を持たずに従魔に持たせていたでしょ?
その事を知っていると、言いたくなかったのよ」
「……まあ、確かに自分の荷物を自分で持ちたくなかった奴らばかりだものな……」
「……」
「ん? 何で黙るんだ?」
「……一番自分の荷物を持ちたくなかったのが、ジュリアスだったから……」
「あ~、そうだったな……」
死んでしまったジュリアスのことを思い出し、黙ったまま歩いていく。
そして、しばらく歩いていると階段が見えてきた。
次は百階層だ。
確か百階層は、まっすぐ通路が続く階層だ。
これまで、何度か魔物と戦いはしたがほとんどをやり過ごしてきた。
今、生き残っている魔物使い隊は、わずか八人。
従魔も、ケルベロスが十頭。ブラックユニコーンが三頭。
途中の階層で従魔にした、フリーズバードが四羽。
これだけで進んでいる。
みんな疲れ切っているし、ここは階段側で休息をとろう。
「みんな、今日はこの階段の側で野営にしよう。
この先、戦いはまだまだ続く。
特に百階層は、まっすぐの通路が続く階層だ。
魔物との戦いは、回避するのが難しい……」
「……そうだな、ここで従魔たちを休ませて、次の階層に望んだ方がいい」
「……分かった」
他のみんなも頷いて、野営の準備をし始める。
この階層は魔物がいないみたいだし、ゆっくり休めるだろう……。
「なあ、クリン」
「ん?」
「そういえば、追加の神殿騎士や神殿兵士、従魔使い隊の奴らはいつになったら合流するんだ?」
「!? そういえば、教会に追加をお願いしていたよな。
ずっと合流してないし、ここまで見かけることもなかった……」
「もしかして、どこかの階層で全滅?」
「ま、まさか……」
俺とデリーは、お互いの顔を見ながら信じられないという表情をしている。
教会が送り込んだ追加の部隊。
俺たちが来た時と同じような人数で、追加するとの話だった。
だが、二百階層まで進むも合流することもなく、この百階層手前まで戻ってきたのにもかかわらず、合流していない。
「まさか、俺たちと同じような魔物に遭遇したのか?」
「例の黒い人型の魔物か?
あんなのが、浅い階層にいるわけないだろう?
た、たぶん迷子になっているんだよ」
「迷子、ね……」
「ここは魔王のダンジョンだ。
意地の悪い迷宮のような階層があったんだよ……」
「俺たちが通ってきた階層で、迷宮のような階層があったか?」
「俺たちが通った後に、できたんじゃないか?
で、その階層で迷子になっている……」
「とりあえず、今日は休もう。
もしかしたら、明日合流できるかもしれないし……」
「だな。今日はもう寝ようぜ……」
野営の準備を終えて、今日は休むことにした。
何も考えず、今日はゆっくり眠ろう。
明日からはまた、撤退戦だ。
それに、追加してくれたはずの部隊とも合流しないと……。
▽ ▽ ▽
Side ???
魔王のダンジョンの五十階層で、俺たちは足止めをくっていた。
神殿騎士たちを翻弄し、神殿兵士たちを次々と倒していく白い獣。
従魔の卵を使うも、効果がない。
獣の魔物にもかかわらず、従魔にできない魔物が存在するとは……。
「クソッ! この階層で注意するのはキングホワイトタイガーではないのか?!」
「あの探索者たちの情報が、間違っていたということか?」
「まさか、八十階層まで到達した精鋭のパーティーだぞ?
そんな連中が、嘘の情報を教えるものかよ!」
「なら、あの白い獣は何だよ!」
「分からねぇよ!」
『グルルル』
「クソ、唸ってやがる……」
俺たちを睨みながら唸り声を上げている。
白い獣は、その姿からキングホワイトタイガーの幼生体と思っていたが、どうやら違うようだ。
この白い獣をどうにかしないと、先の階層にも進めない……。
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