第277話 引っ掛かりと大敗
Side プリラベーラ
「俺から、一つ質問があるんだがいいだろうか?」
私の後ろで話を聞いていた、一条颯太が話に割り込んできた。
教会の教義に理解が追いつかなかった勇者たちが、颯太を見て少し安堵した。
「な、何? 質問て」
「ショウコも含めてだけど、勇者のみんなは帰りたいか? 日本に」
「何言っているのよ、颯太!
帰りたいに決まっているでしょ?!」
「勇者ショウコの言う通りだ。
俺も、日本に帰れるなら帰りたい」
「勇者アキラと同じく、俺もレンジも帰りたいな」
「ぼ、僕も帰りたい……」
「私とカナデも同じよ。
日本に帰れるなら帰りたいわ。
でも、教会の人が帰れないって……」
勇者たちは、みんな沈んだ表情をする。
召喚した教会に、帰ることはできないといわれているのだろう。
確かに、昔からの勇者召喚で呼ばれた異世界人は元の世界に帰ることはできない。
でも……。
「確かに、昔から勇者召喚で呼ばれた勇者は元の世界に帰れないことになっている。
だが、隷属の呪いが施されている勇者召喚は別だ」
「別?」
「ああ、そうだ。
勇者召喚陣に隷属の呪いを施すやり方は、百年ほど前に行われた異世界人召喚で使われたらしい。
そして、その召喚された異世界人たちは元の世界へ帰ったそうだ」
「帰った?! ど、どうやってですか!」
「そのやり方は簡単だ。
召喚した召喚魔術師を殺すこと。これで、召喚された異世界人たちは元の世界へ帰ることができたらしい」
「殺す?
……そうなると、俺たちを召喚したのは教会の召喚術師だったよな?」
「ええ、あの黒いマントをしていた太った男です」
「そういえば、周りの教会関係者はみんな金髪だったのに、その召喚魔術師だけ黒髪だったよな……」
「確かその男、大聖堂にいるんじゃなかったか?
追加の勇者を呼ぶとか、話していたのを聞いたことあるけど……」
どうやら、勇者たちは自分を召喚した人物を知っているようですね。
各国によって呼ばれたように言っていましたが、各国の要請で召喚して教会が派遣していたようですね。
ならば、その召喚魔術師を殺せば、元の世界へ帰ることができる。
……でも、本当に帰りたいのでしょうか?
特に、勇者ショウコは。
「颯太、あなたも帰りたいよね?」
「帰りたいな。
家族に会いたいし、学校の友達にも会いたい。
……けどな、俺は帰れないと思う」
「え? な、何言ってるのよ……」
「ショウコ、俺は巻き込まれた異世界人だ。
それも、勇者召喚で呼ばれた異世界人じゃあない。
だから、俺に隷属の呪いはかかってないんだよ……」
「そ、そんな……」
そう、一条颯太は勇者召喚で呼ばれた異世界人ではないから、隷属の呪いはかかってない。
だからこそ、教会にいいように使われることもなかったわけですが……。
「何かないの?
日本に帰る方法は……」
「すまないな、ショウコ。
俺には分からない」
「……」
勇者ショウコが、私の方を見る。
縋りつくような目で、私を見てくるが颯太を元の世界へ帰す方法は……。
ちょっと待って、何か引っかかることがあるのよね。
何だったかしら……。
▽ ▽ ▽
Side 魔物使い隊 クリン
魔王のダンジョンの第百九十七層のフィールドに流れている川の側。
ここで、俺たちは休息をとっている。
第二百層で、黒い人型の女の子に襲われ、神殿騎士たち、神殿兵士たちは全滅した。
魔物使い隊も、半数が殺され紅龍とブラックユニコーンの一部が従魔から解放されてしまった。
そのため、俺たちはケルベロスとブラックユニコーンを連れて、魔物使い隊の生き残りとともにダンジョンを引き返している。
「デリー、従魔たちの様子はどう?」
「今のところ、俺たちの言うことを聞いてくれている。
だが、ジュリアスが殺されてすぐに紅龍が解放されたのは驚いたな……」
「ジュリアスが殺された直後、紅龍が雄叫びを上げてどこかへ飛んで行ったからな。
俺たちに危害を加えられなかっただけ、良かったんじゃないのか?」
「……だが、こうして退却する羽目になったがな」
焚火の周りにいる、魔物使い隊の生き残りを見渡して表情を歪めるデリー。
悔しそうにしているな……。
俺は、焚火の灯を絶やさないように薪を放り込む。
「神殿騎士たちは全滅。神殿兵士たちも全滅。
それぞれの隊長や、俺たちの隊長も殺されてしまった。
これ以上、戦えないだろう?」
「そうだけど……」
「それに、このまま無事に帰れるかもわからないんだぞ?」
「え?」
「忘れたのか、デリー。
ここは、魔王のダンジョンだ。
それも、最高到達階層の八十層を倍以上更新した百九十七階層だぞ?」
そう言うと、デリーの顔がサーッと青くなる。
この先、俺たちは引き返すだけと思っていたがこれまでと違うことがある。
それは、従えている従魔だ。
階層ボスだった紅龍のフレアドラゴンを、従魔にしていたためここまでの道のりは安全だった。
だが、引き返す道中に紅龍はいない。
となれば、これから先の階層を今いるケルベロスたちやブラックユニコーン数頭だけで引き返さなければならない。
「ど、ど、どうする?」
「デリーは、従魔の卵を持っているか?」
「……二百階層のあの場所に、荷物と一緒に置いてきてしまったよ。
クリンはどうなんだ?」
「俺も同じだ。
あの黒い人型の女の子に、奇襲の形で襲われたからな……」
「しかも、神殿騎士も神殿兵士も敵わなかった。
そして、従魔たちは相手にしていなかったな」
「その代わりに、魔物使いが狙われていた。
あれって、魔物使いを殺せば従魔が解放されることを知っているようだったな……」
小さな体格の女の子のような黒い人型は、スピードでみんなを翻弄し、確実に殺しに来ていた。
しかも、誰を殺せばいいのかを知っているかのように……。
魔王のダンジョンには、あんな敵が存在するのか。
追加が派遣されても、ダンジョン攻略は無謀な気がするな……。
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