第276話 崩壊目前



Side 勇者ミサキ


「教会の最後の手段とは……」


プリラベーラの話を聞き、教会の最終目的が分かった。

そして、その目的のために勇者である私たちを魔王討伐に、そして、三つの世界を手中に収めるために戦わせようとしている。


でも、私たちにも意思はある。

教会の思惑通りにはいかないはず……。

ですが、教会には私たち勇者にたいして最終手段を持っているとか。


「かつて、ある王国の魔術師が勇者召喚陣を研究し、勇者ではない異世界人を召喚したそうです。

そして、召喚陣にある仕掛けをして異世界人たちを操ったとか。

それは、隷属の呪いです」

「隷属の呪い?

……それって、奴隷契約みたいなものですか?」

「そうです。

勇者として召喚した異世界人たちに、隷属の呪いを施したのです」

「そ、それなら、初めから奴隷として扱うのでは……」


勇者シンタロウが、教会が何故勇者を奴隷として初めから扱わなかったのか質問する。

プリラベーラはニコリと笑うと、答えてくれた。


「それは、皆様の認識を知ったからです」

「俺たちの認識?」

「ええ、皆様は魔王に対して、倒す悪者という認識がありませんか?

そして、勇者は人々の希望の星とか何とか……」

「……」


みんな、お互いを見渡し苦笑いをする。

確かに私たちは、魔王と聞いて人々を苦しめる者、平和を乱すものという認識がある。

ゲーム知識で、そう認識しているからなのかも。


たしかに、魔王側のことを知りもしないで、敵と考えるのはおかしいこと。

教会のことを信用していないにもかかわらず、魔王は敵と最初から認識していたな……。


「確かに、先代の魔王は人族に対して敵対していました。

でもそれは、人族の一部が魔族を虐殺したため魔王が怒って敵対しました。

また教会は、魔族と魔物を同一のものと教義で教えていたため、教会の教えを受けた一部の狂信者たちは、魔族を積極的に討伐し始めたのです」

「そ、そんな!」

「魔族と魔物は別物だ!

そんな無茶苦茶な教義が成り立つわけが……」

「いえ、成り立つのです。

教会の教えを広める者の中に、洗脳スキルを持つものがいたそうです」

「そんな……」

「そして、教会の教えに盲目的に従う者たちを造り上げ、積極的に殺していったそうです。

そのため、魔王は怒り狂い人族と敵対しました」

「……もしかして、それが」

「はい、かつてあった魔族対人族の百年戦争です。

教会が勇者召喚をして、勇者が魔王を封印するまで戦争は続きました。

そして魔族は戦後、別の大陸へ追いやられたそうです。

この大陸に残っていた魔族は、隷属させられ苦難の時代が続いたそうです」


魔族の全体数は、かなり少ないらしいがこのことが原因なのかもしれない。

教会は、今でも魔王を敵視している。

そして、魔王が作りだしたとしてダンジョンも討伐対象になっていた。


でも、教会は魔界もその手に納める気なのに、なぜ魔族を敵視するの?


「あの、何故教会は魔族を敵視するのでしょうか?」

「実は、教会が敵視しているのは魔族だけではありません。

私たち、天使族も敵視しています」

「え?」


天使族は、神の御使いのような存在じゃないの?

だったら、教会が天使族を敵視するのはおかしい……。


「なぜ、そんなことに?」

「分かりません。

ですが、昔天使族が教会の教義に違反していると聞いたことがあります。

そのために、敵視するようになったと……」


教会の教義に違反した?

そもそも、教会の教義って何?

教会の考え、わけが分からないわ……。




▽    ▽    ▽




Side 魔物使い隊 クリン


「ラズム! 引けっ!

神殿騎士たちは、手も足も出ていないだろう!

犠牲が増えるだけだ!」


魔王のダンジョンの二百層に到達した我々は、油断していた。

この二百層は、草原階層で見晴らしがよかったのだが、敵が悪すぎた。


前の階層で、教会部隊を苦しめた黒い人型の敵がここでも現れたのだ。

それも、女の子の姿をしていてドレスアーマーや光輝く剣を装備していた。


「クソッ! 何なんだ、この敵は!」

「クリン! ケルベロスたちでけん制しろ!

我々の退路を確保するために!!」

「は、はい!」


どうやら、俺たち魔物使い隊はまたもや殿を任されるようだ。

だが、今回は神殿騎士や神殿兵士に犠牲者がかなり出た。


今、紅龍のフレアドラゴンやケルベロスたちが戦っているが、黒い女の子の標的は、最初から神殿騎士や神殿兵士に絞られているようだ。

完全に狙われている……。


「ジュリアス! ここら一面に炎を吐かせて動きを止めろ!」

「りょ、了解! 紅龍! フレアバースト!!」

『グウウゥゥ……ガアッ!!!』


紅龍が力をためて、口を大きく開き激しい炎を吐き出す!

炎は、草原に勢いよくぶつかり、辺り一面を炎に包んだ。


その炎は、黒い女の子も巻き込むほどの炎なのだが、黒い女の子はそんな炎のことなど気にせずに、逃げる神殿騎士や神殿兵士に襲いかかる。


「ぎゃあああ!」

「こ、この……、 ぐああっ!」

「やめ、やめてくれぇ~」

「た、助け……」


次々と斬りかかり、神殿騎士や神殿兵士に犠牲者が出る。

盾を持つ神殿騎士も、盾ごと切られて殺されてしまった……。


「な、何をしている魔物使いども!

早く魔物たちを囮にして、我々を助けろっ!!」

「で、ですが……」

「言い訳はいらないんだよ!

とにかく、魔物を敵に向かわせればいいんだ!」

「……ケ、ケルベロス!」

「紅龍!」


魔物使い隊の面々が、それぞれの従魔に命令し黒い女の子に襲いかかるように命令するが、従魔たちの攻撃をすべて無視して神殿騎士や神殿兵士に襲いかかる。


これでは、魔物使い隊にはどうすることもできない。


「き、きさまら!」

「クソッ! どうすればいいんだ……」


俺たちの見ている前で、どんどん殺されていく神殿騎士や神殿兵士たち。

黒い女の子は、従魔たちの攻撃をかわしながら標的を変えることがない。


……ダメだ、俺たちではどうすることもできない……。







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